第28話:罠と不労所得の甘い誘惑
同じ場所を掃除して、同じようにヒルを叩き潰す。やりたくて選んだ仕事ではない。仕事後の福利厚生(ご褒美)に釣られてやっただけだ。
振り込まれた給料を眺めつつ、俺は辞めどきを探すようになっていた。知的な発見も工夫の余地もなければ、ただの時間の切り売りだ。
「ジヴ、下水管(現場)の映像ログは全部残ってるな?」
『バッチリだよ。ヒルの急所を突く君のフライパン捌きも、4K画質で保存済みさ』
俺は光紗に声をかけた。効率化ノウハウ動画とインプレ獲得技術を合わせ、完成したのは『ドケチ探索者の下水ダンジョン攻略ガイド』。
動画で紹介しているのは、ワークマンで買い揃えるべき装備一式、『ニトリルゴム背抜き手袋』を二重に嵌める裏技や『耐油PVC安全長靴』の運用法だ。
「リエちゃんの現場映像、タイトルの工夫で爆伸び間違いなしだて〜!」
一ヶ月が経つ頃、ワークマンの棚から特定の長靴が消えた。動画を見た底辺探索者たちが、こぞって「下水ダンジョンの清掃」を受注し始めたのだ。
代替可能な労働力を育成し、自分は「現場」から一歩引く。これぞ引き継ぎ。俺は次の準備に着手した。
古泉荘ダンジョンの「自動化」だ。まず、ワークマンとホムセン、100円ショップをハシゴして集めた素材を広げる。
概要は以下の通り。
ダイソーの『強力磁石』を配置した箇所へ、ネズミが接近すると、天井から吊るした『ステンレスワイヤー』の輪がネズミを絡め取り、特定の位置へスライドさせる。
ワイヤーがネズミを壁にヒットさせ、何やかんやで魔石は下のバケツに落ちる設計。
「……久世君。これは一体、何を始めたんだ?」
数日後、古泉荘に現れた早春が、地下の入り口を見て絶句した。バケツの中には数個の魔石が転がり落ちている。
「見ての通り、人件費を限りなくゼロにした低コスト・パッシブ収益モデルです」
「……ここまで来ると、もう探索者じゃない。ダンジョンの『オーナー』だな」
早春は、複雑な表情で「装置」を眺めている。
行政の予算で作られた「ダンジョンの脅威から国民を守るための絶対防壁」と、市販の素材で組み上げた『ピタゴラスイッチ』。そもそも用途が違うのだから、どちらの稼働率が高いかなど、比べるべくもない。
『昨晩の不労所得は合計2,800円だよ。君が寝ている間に、ジュースを飲みつつ一本の映画を観る資金が溜まったことになるね』
「イケアのモーニング何食分かな?」
『……モーニングプレートなら7皿分だよ。プラントベースソフトクリームなら56個分だね。移動にかかる時間と交通費がネックだけどね』
見た目は不格好なこと、この上ない。それでも俺は、全自動魔石回収システムの完成に、深い満足感を覚えていた。
労働は、いつかシステムに取って代わられるべきだ。その空いた時間で、やりたいことを見つけ、全力を捧げること。きっと「ボブ・ブラック先生」は、そう言うはずだ。
『収入:自動回収魔石(不労所得) +2,800円
支出:システム構築費(資材) -1,200円
利益: +1,600円』
次回:「労働廃絶論」を聞きながら労働する自由くらい許されたって良いじゃないか。
投稿時間は、明日6時50分です。




