第27話:ヘドロのゴールドラッシュ
翌朝、ピカピカに洗われた『水産合羽』が、古泉荘のベランダで朝日を反射して輝いていた。
その横で、俺は下水処理施設で回収した「ヘドロ金」をペットボトルごと計量器に置く。ボトル外面は洗ったが、蓋を開ければ中から腐敗した臭いが迸る危険物だ。これをテーブルの上に置けば、妹に睨まれる。
「ジヴ、これを鑑定できる?」
『洗浄・精製後の純度85%と仮定。……総重量50g。現在の金相場を考慮すると、約420,000円だね。おめでとう、リエ。下水のヘドロは、文字通りの「黄金の川」だったよ』
「……そうか」
そこへ1階共有キッチンの勝手口が、開く音が聞こえた。
「お兄ちゃん、朝食できたよ」
ボトルと計量器を片付けた俺は、手を洗った後でダイニングの椅子に座る。妹は、特売卵のスクランブルエッグを皿に乗せた。見た目では判別しづらいが、ペースト状にした絹豆腐が混ざっている。生活の知恵だ。
それから数日後の夜22時、『極楽の湯』の暖簾を潜り、俺は吸い込まれるように脱衣所へ向かった。下水処理場で浴びた泥と臭いは、仮設シャワーで大まかに落としたが、鼻腔の奥の不快感までは拭い切れない。
この銭湯には薬湯がある。そこに肩まで浸かって、目を閉じれば、身も心も真っ白にリセットされていく。カビと戦う古泉荘の小さな風呂場とは比較にならない解放感。
「やっぱり一番は露天風呂だな。頭がシャキッとする」
心ゆくまで満喫したら『牛乳』を煽る予定だが、最高の一瓶を飲むために補水を我慢して移動中に倒れては、多大な迷惑がかかる。それを防ぐために、ウォーターサーバーの水を紙コップで必要なだけ飲む。別にガメツイわけじゃない。
キンキンに冷えた液体が喉を潤し、全身の細胞に染み渡っていく。
「ジヴ。下水処理清掃に最適なワークマン装備一式、効率良く稼ぐポイント、採取と売却が可能なアイテムの価格一覧表をまとめられるか?」
『……それは、掃除屋から「教育系コンテンツクリエイター」へ転身するってことかな?』
「『金のためなら仕事を選ばない探索者』に、メソッドを売るんだ。古泉荘のダンジョンも、そろそろ人力による掃除の手間を減らしたい。罠を張って、朝起きたら魔石を回収できるように」
これまでは時間内にどれだけ綺麗にできるか、いかに効率良く稼ぐかを工夫する余地があった。最近は新発見も策も尽きて、伸びしろがない。
ただ要請に従い、終わりのない作業を延々と繰り返すだけの「歯車」だ。
次回:全自動回収装置。
投稿時間は、明日6時50分です。




