第23話:プロ意識と官僚の打算
「ジヴ、こいつを壊すとどうなる?」
熱を放つ直径50センチほどの「ダンジョン・コア」。部屋の中央、機械の残骸が散乱する中に、それは鎮座していた。
『この空間はコアで維持されているんだ。破壊すれば、ダンジョンの崩壊と同時に、虚空へ放り出されるって噂もあるよ』
「だから、コアの撤去が正解ってわけか」
俺は今回の秘密兵器を肩から降ろした。
ワークマンが誇るキャンプギアの傑作『真空断熱クーラーボックス(18L:定価8,800円)』と、予備の『真空ハイブリッドコンテナ(1,500円)』だ。
「リエちゃん、それは?」
「ダンジョン・コアを運び出すための容れ物」
バックパックから取り出した『耐熱フィールドグローブ』を嵌め、熱を放つコアに近づいた。
「ジヴ、コアの温度は?」
『……180℃だよ。アルミシートで巻いてクーラーボックスに放り込めば、熱源は遮断される』
コアを『アルミ非常用ブランケット(110円)』で何重にも包み込み、熱を閉じ込めると、『真空断熱クーラーボックス』の中へ押し込んで蓋をロックする。
『コアのバイタル消失を確認。「サーマル・バット」たちがパニックを起こしているよ。今のうちに、やっつける?』
「ジヴ、撤収だ」
『了解』
途中でプロたちと合流して、俺と光紗は搬入口へ戻った。30万円のスーツはバットの爪で引き裂かれ、ドロドロの白ペンキを落とされたような形跡がある。
全身モノクロまだら模様の神代は、15万円の登山靴をコウモリの糞で汚し、屈辱と困惑に顔を歪めていた。
「お疲れのところ、すみません。承認のサインもらっていいですか?」
機嫌を逆撫でしないよう俺は努めて事務的に、書類を差し出した。それを睨みつける神代の目は、憤りで見開かれている。
「君は命令を無視して先行した。これは、……重大な規律違反だ」
「えっ、ちょっと、カミシロさん!?」
「現場の指揮権は俺にある! プロの判断を無視した。独断専行を認めるわけにはいかないんだ」
絞り出すような声。俺は溜め息を吐き、書類を引っ込めた。
人生なんて、こんなものだ。悪いのは社会に馴染めない俺の方。それを美化してスターシードなんて理由と名前をつけ、慰め合う奴らがいる。それさえ俺は馴染めなかった。
「そうですか。お疲れ様でした」
「え? リエちゃん!?」
俺は会釈をして、車のドアを締め近づいてくる足音に気づき、背後を振り返った。
「カミシロ君、後は私が引き取ろう。……装備をメンテナンスに回し、休養を取ってくれ」
官僚の顔で割って入ったのは、つい先週「パストラミ」に陥落した早春だ。神代は鼻を鳴らすと、取り巻きを連れて駐車場の暗がりへ去っていった。
「早春さん、これ例の品です。ボックスの返却は後日でいいですよ」
「ああ。その前に……」
俺はワークマンのロゴが入ったクーラーボックスを早春に突き出した。
「久世君、預けていた書類を出してくれ」
「……え、はい」
「光紗君が撮った映像を私の端末で見せてもらった。……完璧な仕事だったよ。協調性、それ以外は」
俺から書類を受け取ると、早春は小さな認印を取り出した。タブレットケースに書類を重ね、サインを書き込んで印を突く。
「これで君は、正式な『プロ探索者』だ。依頼が発生したダンジョンに潜る資格を得た。『清掃代行業者』と呼ぶのが、相応しいようにも思うが。おめでとう、久世君」
「……要するに?」
『してやられたってことだよ』
早春は一息入れてから切り出した。
「君に頼みたい仕事がある」
次回:それでも、俺は「働きたくないです」。
投稿時間は、明日6時50分です。
宣言した通り、土日夜は投稿をお休みします。




