第22話:排熱と100円のデコイ
「来たぞ! 臨戦態勢を取れ!」
「……なんで? 冷却ユニットは正常だぞ!?」
配管が張り巡らされた天井から「サーマル・バット」が一斉に羽ばたいた。30万スーツの背中のファンから熱風を吐き出すプロ一行へ殺到する。同時に、神代たちの焦った声が響いた。
『ダンジョン内の固有種「サーマル・バット」。爬虫類のような体に、ピット器官(熱感知器官)を持つ魔獣だよ。アクティブ冷却の排熱ポートが、ターゲットにロックされたね。熱烈な歓迎だ』
「ケラウノス起動! ……くそっ、速すぎて当たらない!」
神代が長槍のような武器を振るう。パチパチと白い閃光が走り、周囲を照らす。時価1億2,000万円の『雷鳴』。と一振りで小規模な街の電力を賄えると豪語される高級武装だ。
『警告。雷撃の発生に伴うジュール熱を検知。熱源反応さらに300%上昇』
俺は「イージス」のポケットから「使い捨てカイロ(30円)」を取り出し、潜る前に拾った空き缶に入れて、「キッチン用アルミホイル」の切れ端を巻きつけた。神代たちが苦戦している反対側、暗い通路の奥へ放り投げる。
パカァン、と軽い音を立てて転がるアルミボール。カイロの熱がアルミの内側で反射・増幅され、コウモリたちには「止まっている手頃な獲物」に見えたはずだ。群れの大半がデコイへ釣られ、攻撃の勢いが若干緩む。
防水防寒ジャケット『イージス』のフードが、周囲の喧騒を適度に遮断するから、「プロ」たちの激励も叱責も今の俺には聞こえない。
「やっぱ向いてないな。こういう仕事。ジヴ、最短ルート」
『了解。……目標の「コア」に最短ルートでナビするよ』
100円のライターで第2のデコイ、「固形燃料(4個110円)」に火をつけた。アルミホイルの皿に乗せて通路の分岐点に置く。
本物の火が放つ強烈な赤外線。「サーマル・バット」の群れは、1億の槍と100円の「灯火」の間で迷い、旋回を始めた。
「ミシャ、今だ! あのダクト裏まで全力で走れ!」
「了解! リエちゃん!」
道中でコウモリの魔石を「ニトリルゴム背抜き手袋」で拾い、俺はさらに加速した。背後では雷鳴が虚しく空を切り、1,100円の暗視補助グラスが、闇の向こうにある「次の獲物」を正確に捉える。
今回の依頼は、「ダンジョン・コア」の破壊。こんなところで時間を食っている暇はない。
ジヴが誘導するまま、ダンジョンの最深部「コア・ルーム」へ滑り込んだ。
次回:サインをもらうには、オベッカが必要となります。
投稿時間は、明日6時50分です。




