第20話:ライセンスと深夜のモール
翌日、早春が持ってきたのは、羊羹ではなく一通の重厚な書類だった。
「久世君。前回の実績と、今回の事案の緊急性を鑑みて、『暫定特定区域清掃防除ライセンス』を発行した。これで君は法的に『プロの外部委託業者』となる」
「……要するに?」
『確定申告の義務が発生するよ。……それと引き換えに、登録済みダンジョンに潜る権利、県庁の備蓄倉庫に眠る「期限切れ間近の高級資材」を格安で卸してもらう権利を得たことになるね?』
ジヴのフォローに俺は溜め息で応えた。
深夜23時30分。
営業を終えた地元の巨大ショッピングモールの裏側、関係者専用の出入り口付近に、本物のプロが待っていた。
「……君か? 行政の推薦で加わった新入りというのは。……冗談だろう? 見るからに安っぽいアウトドア装備じゃないか。そんな格好でダンジョンに挑む気か?」
話しかけてきたのは、全身を黒のハイエンド・シェルで固めた男だった。早春から預かった資料によれば、政府公認のプロ探索者・神代が、ジャカジャカと音を立てながらコンクリートを鳴らす。
『スキャン・検索完了。一足15万円の登山靴だね』
ワイヤレスイヤホンからジヴが伝えてきた。
「まさかの女子じゃん? テーマパーク内のダンジョンと違って、遊び場じゃないんだけど、参ったな〜」
「神代さんが話しかけてんだぞ? なんか言えよ」
取り巻きの型通りな発言に内心ドン引きしつつ、俺は黙ったまま会釈だけ返す。
「あれ? 君、もしかしてファンの子? 緊張してる?」
自身の全身黒を強調しつつ、トンチンカンな勘違い発言。
今夜ばかりはダークウェアな装いを深く後悔した。そもそものキッカケは、色選びを面倒臭がり続け、タンスが黒一色に染まったのが原因だ。
「きゃあぁぁっ! プロ装備マジ映えるて〜! これ撮れただけでも来た価値あったじゃんね! すっごく見たことある顔、えっと名前、名前何てったっけ〜!? あっ、そだ。アタシ撮影と雑用担当のミシャ! で、こっちがリエちゃん」
空気を読めないのか、あえて読まないのか、自称アイドルの押しの強さに神代が一歩後退した。
今回は、このまま乗り切ろう。
「よろしくミシャちゃん。俺はカミシロ、プロ探索者してます。今夜は特別に、俺のこと撮ってもいいよ?」
説明が面倒だ。ヒゲ脱毛とダボダボ装備が揃った時、よくおこる事故。しつこく古泉荘を訪れていた早春に性別を問われた時は低音ボイスで応えたが、当時とは状況が違う。どうせ二度と会うこともない。
俺は誰かが捨てたコーヒーの空き缶を蹴った。
ショッピングモールの綺羅びやかなファッションフロアの真下にある「存在しないはずの空間」に移動した。
「行こうか? そっちのリエちゃんも、怖かったら先輩に頼ってくれていいから」
神代の取り巻きがライトを点灯させると、ジヴが価格を検索して教えてくる。スポンサー企業がついているのだろうか。
俺は喉元まで上げていた「イージス」のジッパー下げ、首元の100円ライトを鳴らして目を凝らした。
次回:ショッピングモールの闇に潜るリッチ。
投稿時間は、明日6時50分です。




