第17話:不透明な報酬と魔石
「……ひどい有様だな」
巨大な『泡の塊』の残骸が広がる床を慎重に踏みしめる。愁さんが仕事に戻り、俺は再びエリート官僚(ワークマン装備中)と残された。
「久世君、見てくれ。……スライムが溜まっていた場所の裏」
早春が指差したのは、アトラクションの装飾に隠されていた大量のドラム缶だった。ラベルには『試作型高甘味度甘味料・ロット管理外』の文字。
『スキャン完了。……企業が「新商品開発」に失敗した際に出た廃棄物だね。業者に頼むコストをケチり、こっそり処分しようとした痕跡だよ。倫理観、0点だね』
「スライム凶暴化の原因は、人間用の食品を食べたせいじゃなかったと? それは大収穫だ」
早春は、泡だらけのワークマンジャケットの内ポケットから、タブレットを引っ張り出す。その横顔は「融通の利かない官僚」ではなく、何かを掴んだ「掃除屋」の顔だった。
「……何してんスか?」
「ドラム缶の写真を私個人のフォルダに保存した」
『正義を振りかざすのではなく、弱みを握ってコントロールする。エリートらしい解決策だね』
「庶民には関係ない話ですね。『古泉荘』へ送り届けてもらっていいですか? もう22時なんで……」
帰れば、売れ残り弁当をアレンジした特別な一皿が待っているだろうが、こんな時間だ。俺は栄養調整食品数粒を口に入れて、満足することにした。
翌日、古泉荘の共有ダイニング。妹が特別なアレンジを加えた一皿をレンジで温め、平らげて片付けも済んだ頃、早春が訪れた。
ワークマンのジャケットでは珍しくない大きな内ポケットがお気に召したのか、そこから厚みのある封筒を取り出してテーブルに置く。
「これを受け取ってくれ。企業側が『清掃代行費』として計上した対価だ。公式な記録には残らない。……いいな?」
封筒の厚みは、どう見ても俺の数ヶ月分の生活費を軽く凌駕していた。
『スキャン完了。……総額、50万円。時給換算するとヤバすぎる額だけど、口止め料としては妥当なんじゃないかな?』
「これ、本当に受け取っていいヤツですか? 後で発覚した際、俺まで面倒なことになりません?」
「受け取ってもらわないと困る」
隣でコーヒーを飲んでいた玲那さんが、脚を組み替えつつ口を挟む。
「警戒しすぎよ。このブラックな臨時収入が、何のために新札ばかり揃えられていると思うの?」
綺麗汚いの問題ではない。大きな臨時収入に喜ぶべき場面であると理解している。実際に受け取る側に立った時、俺自身がこうも動揺するとは計算外だった。そこに驚いている。
深く吸い込んだ息を吐き、俺は覚悟を決めた。
「……使い道は、じっくり考えます」
「そうか、恩に着る。まさか渋られるとは意外だった」
大きな決断を先送りにした俺は、妹にメッセージを送る。
『リエ:大容量パックの肉を買ってきてくれ。ただし、割引シールが付いてるやつ限定で』
古泉荘の2階からは、特大の魔石をネタにして動画配信をする光紗の声が響いていた。
次回:50万円の使い道。床修理DIYに挑戦。
投稿時間は、19時50分です。
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