第16話:業務用洗剤の質量爆撃
スタッフ専用ドアから現れたのは、コンビニ制服の襟からワークマンのインナーを覗かせた身長190センチの巨漢。
灰色の『防水サロペット(耐油加工・2,900円)』に身を包み、手には業務用サイズのポリタンクを提げている。
「シュウさん! でも、急用で来れないって……」
「……龍ヶ崎君、か!?」
「ここの夜間清掃の穴埋めを頼まれた。交通費支給(市内バス往復200円)、特別手当なし」
いつも虚無を映すだけの愁さんの目が、凄まじい「労働者の怒り」に激しく燃えていた。推定300kgのレインボー・スライムが、七色の巨体を波打たせて後退する。
「……ラビット肉も穫れない」
愁さんはバックヤードの片隅に鎮座していた重機のような業務用の高圧洗浄機を一瞥し、戦闘準備に入った。
「何にしても心強いです。この『賞味期限切れ』、脂ぎってる上に大きすぎて」
「こっちは『強アルカリ』だ。リエ、離れてろ」
愁さんがノズルを構える。そこから噴射された液体がレインボースライムの体表に触れた瞬間、ジュワッという激しい音と共に虹色が白濁し、ドロドロの液体へ変質していく。
『解説。強アルカリによってスライムの脂質二重層が破壊、「乳化」されているね。早春、今だよ。カドゥケウスで「加熱」して、鹸化反応を促進させるんだ』
「加熱? これは魔物討伐武器で、電子レンジではないぞ」
「やらなきゃチャージ損になりますよ?」
巨大レインボースライムの出現からチャージを開始していた早春が、ヤケクソ気味に警棒を突き立てる。
バチバチという音と共に巨体がボコボコと泡立ち、プルプルの弾力を失った七色のスライムは、「泡の塊」へと成り果てた。
『カタルシス完了。ナイスなコンビネーションだね』
「……そこだ。核が見えた」
「了解!」
ホイップクリームにスプーンを突き刺すように、ドロドロの肉壁をフライパンでえぐり取り、ビーチボールよりも肥大化した核を「超軽量安全靴」で蹴り出した。
フライパンで叩くと、パリンと音を立てて魔石が露出する。
『巨大スライムの完全沈黙を確認。……シュウの時給1,200円に対して、この魔石の推定価値は32,000円。ピンハネされる前に回収しようか? 清掃会社と玲那、どっちが高く買い取ってくれるか交渉してみるのもアリだね?』
「助かりました。まさか、ここで会えるとは……」
「俺も驚いた。……まだ『汚れ』が残っている。気をつけて帰れよ」
「お疲れ様です」
無造作にラグビーボール大の魔石を拾い上げ、俺に託した。その瞳には深夜労働者の苦労と諦念が混ざっている。
「そうだ。今度、会った時に渡そうと思ってたんです。これ受け取ってください」
俺は魔石を抱えたまま、バックパックからプロテインバーを取り出して、愁さんに手渡した。
『収入:魔石(大・変異種)12,600円、魔石(特大・七色)32,000円、機密費。
支出:魔石売却の仲介手数料13,380円、化学兵器1,320円(固めてポイ、クエン酸、過炭酸ナトリウム等)、減価償却費232円(テフロン死亡間近のフライパン、ミント水、安全靴の摩耗)、シュウへの現物支給(友情価格プロテインバー)158円、夕食費210円。
純利益:+29,380円(+機密費) +シュウの筋肉疲労 +企業の闇を目撃する非日常感が満載なアトラクション』
次回:凶暴化原因の証拠写真を撮って帰る。
投稿時間は、明日6時50分です。
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