第15話:「混ぜるな危険」タイムアタック
「ジヴ、こいつらの主成分は?」
『高濃度の人工甘味料、および合成着色料、それから大量の防腐剤だね。……平たく言えば、コンビニの「負の遺産」を集めた塊だよ』
周囲は静まり返り、人気アトラクションとしての華やかさと喧騒が、幻想だったかのような寒気が襲う。
「久世君、やはり電磁波で焼き切るべきだ。拉致があかない」
「まだ手はあります。早春さんは、フードを被って口を閉じてください。撥水加工が弾きますから」
俺は「耐久撥水リップストップエプロン」を締めて、バックパックから取り出しておいたスプレーボトルのノズルを直射に切り替えた。
「ジヴ、手順の確認」
『了解。……まず、クエン酸水でアルカリ性を崩して弱らせ、過炭酸ナトリウムで酸化分解を図るよ。つまり「お洗濯」だね』
襲いかかってくるショッキングピンクのスライムに、粉末クエン酸と水道水を混ぜたスプレーが直撃する。
『命中。人工着色料によるアルカリ反応の中和に成功。粘膜の結合力が50%低下したよ』
「『最後の晩餐』フルコースのメインディッシュだ。遠慮なく平らげてくれ」
続いて、酸素系漂白剤(過炭酸ナトリウム)の白い粉末を豪快に振りかける。スライムの体内で酸素が発生して、体表をバチバチと泡立たせながら急激に萎んでいく。
ネズミとは違って悲痛な叫び声を上げないのが、スライム掃除の良いところだ。
『人工甘味料の分子構造を破壊、確認』
「これらの薬品は、……吸い込んでも平気なのか? 目がチカチカする」
「『混ぜるな危険』の類ですが、シンナーほどじゃないらしいですよ。天然ダンジョンとは違って空調設備もあります。気になるなら早く終わらせましょう。魔石、拾ってください」
凶暴化したスライムの攻撃をフライパンで躱しながら、次々と「洗浄液」を撃ち込んでいく。耐久撥水エプロンとジャケットが、スライム粘液とクエン酸水の飛沫をコロコロと弾き、俺の肌には一滴も届かない。
しかし、長引けば酸でフライパンのテフロンが死ぬ。撥水加工の劣化も早まる。
『魔石ドロップを確認。総額12,600円だね』
「握力の限界が先か、在庫切れが先か。ジヴ、残弾は?」
『クエン酸水、残り約230ml。……報告。右側の隔壁が完全にイカれたよ。さらなる巨大な「賞味期限切れ」が接近中。推定重量、300kg』
壁を破壊して転がり込んで来たのは、レインボーカラーの巨大スライムだった。もはや女子高生がスクール鞄に付ける可愛いマスコットの面影など微塵もない。七色に輝く体表はテラテラと脂ぎっている。
「……残り全部ぶっ掛けたとして、どこまで溶かせる?」
『高圧ジェット噴射すれば核に届くよ。今こそ大量の「固めてポイ」が欲しいね』
「大容量のヤツ、業スーかホムセンに売ってるといいな」
絶体絶命の瞬間、背後のスタッフ専用ドアが開いた。
次回:立ちはだかる巨大スライム。そこに現れたのは!?
投稿時間は、本日19時50分です。




