第14話:暴食スライムと「油固め」
「……甘ったるい香料と腐った臭い」
『ご愁傷さま。リエは、生花店の香りに吐き気を催すタイプだからね。そんな君にミントの香りをオススメするよ』
コンビニのバックヤードに踏み入ると、目がチカチカするほど鮮やかなネオンカラーのスライムが群がっていた。
1瓶5,000円の「ポーション(人工甘味料ジュース)」を割り、中身を吸収して巨大化と増殖を繰り返している。周囲には食い散らかされた「上げ底弁当」や「植物油脂クリーム」の残骸。
『本来なら無色透明に近いスライムが、企業の廃棄物を食べて変異した末路だね。どうやら、空き容器を食後のデザート代わりに消化中のようだよ』
テーマパークの閉園を知らせる館内放送が流れてきた。物寂しい調べが虚しく反響する。
「電磁警棒で蒸発させるか?」
「止めた方がいい。高電圧をぶち込んで、もしキャラメル化したら、整備コストが跳ね上がって始末書ですよ」
バックパックを開け、100円ショップとドラッグストアで揃えた「化学兵器」を取り出した。
「久世君、それは……家庭用品では?」
「依頼内容は、スライムが凶暴化した原因の究明と、凶暴化した個体の一掃でしたよね?」
俺は「固めてポイ(3包入り)」を開封すると、まさに分裂増殖中のネオンブルースライムにかける。
「『最後の晩餐』を始めよう」
家庭用「固めてポイ」の粉末に触れたスライムは、接触箇所から「おから」のようにボソボソした見た目の塊に変質し、動きを止めた。
「固まった!? ……悪夢のような増殖が、食器用洗剤で?」
「驚いてる暇があったら核を突いて、魔石の回収を手伝ってください」
ボソボソした塊を踏みつけて露出させた核は、人工甘味料と着色料で汚れていた。フライパンで叩くと、見慣れたものより大きい魔石が現れる。
『魔石ドロップ確認。その大きさなら1個600円。県庁の予算より健全だね』
「問題は、スライムの数が想定を大きく上回っていること」
フライパンを盾にして粘液の飛沫をいなしつつ、俺は動きの鈍いスライムを「おから」状態に変えていく。その後から早春がバール(約1,500円)で核を小突いて、魔石の回収にあたった。
「ジヴ、残弾は?」
『残り2包だよ。ケチって5セットしか買わなかったからね。……警告。スライムたちが血糖値スパイクでバーサーカー状態に入るよ』
「問題ない。『固めてポイ』は前菜に過ぎないからな。上げてこうぜ」
俺はミント水を「ニトリルゴム背抜き手袋」に少し垂らして湿らせた。心地の良い香りが空気中の甘ったるさを緩和する。
閉園後のテーマパーク徹底清掃は、始まったばかりだ。
次回:この後も洗濯用洗剤が大立ち回りを魅せる。
投稿時間は、明日6時50分です。




