第13話:聖地巡礼と異文化交流
「久世君。本当に、ここでいいのか?」
「そっちが言い出したんじゃないですか。県庁御用達の装備では目立つから、適当なものを見繕ってくれって」
国道沿いに建つ黄色い看板、行きつけの店『ワークマン』の前で、俺は溜め息混じりに不満を漏らした。
店内を見て回る早春は、まるで異世界に足を踏み入れたかのような足取りだ。不安と好奇心が混ざった顔で、機能性ウェアの棚を見渡している。
「装備選びは生存に直結する。そう考えてください。なぁ、ジヴも言ってやれ」
『そうだよ。舗装が施され、監視カメラと巡回スタッフがいるとは言え、生きている本物のダンジョンだからね』
「だが、この『1,900円』という値札。……イカサマ商品ではないのか?」
『サハル、君の常識がバグっているだけだよ。ここでは2,000円出せば、君のプライドよりも頑丈な防寒着が、お釣りと共に手に入るんだ』
俺は早春に、「FieldCore」と『イージス』を勧めて、適当な手袋と安全靴を押し付けた。
最終的に、早春は『AERO STRETCH ULTIMATE(4,900円)』、『FieldCore4D防風ウォームパンツ(3,900円)』、「アスレシューズ」を抱え、レジに向かう。
その間、合流予定だった愁さんからのメッセージに気づいて、チェックした。
『シュウ:バイト先のシフトに穴が開いて、店長に泣きつかれた。今日は行けない』
「……断れない人だからな。何度そのお人好しに助けられたことか」
午後、絶望的にワークマンが似合わないオッサンと向かった先は、企業運営のテーマパーク内にある人気アトラクション『ドリーム・ダンジョン』。子連れやカップルが「安全なスリル」を買いに来る場所だ。
俺は早くも郷愁の念に駆られていた。
――ダンジョン内、第2エリア
ファンシーな装飾が施された石造りの通路。華やかなBGMの裏で、湿気った腐敗臭が漂っていた。
ワークマン装備の早春は、「チャージ2分の警棒」を鞄に収めたまま周囲を警戒する。
「久世君。……酷く、喉が渇く。空調が故障しているのではないか?」
「メンテ代、ケチってるんですかね? ……あそこに、ダンジョン内とは思えない看板がありますよ」
ダンジョン内の出張店舗限定デザインの看板を下げていたのは、有名チェーンのコンビニ。ここで松明型LEDライト、ポーションなど、冒険気分を盛り上げるグッズが買えるという情報はリサーチ済みだ。
しかし、店内は目を疑うような地獄だった。まさに、企業が来場者から金を毟り取るために設置した『トラップ』だ。
「……ポーション1本、5,000円!? ガラス瓶の中身は、水と甘味料、着色料、香料なのに?」
『それは、ガラス瓶が限定グッズ扱いだからだね』
「ペットボトルの水、500円。テーマパーク価格にしても、これは……」
ほとんどの商品が売り切れ、レジでは「過労死寸前」といった風貌の店員が一人で対応している。セルフレジが導入されていない理由は、限定デザイン看板と同様、演出の一環だろう。
俺はイートインスペースに腰掛けて、バックパックから取り出したボトルから天然水を飲み、プロテインバーを噛じる。合わせても約200円。「ごみ拾い」を目前にした必要な燃料補給だ。
雇い主の分は、知ったこっちゃない。
「……ジヴ、このコンビニの状況は?」
『極限のワンオペだね。バックヤードは廃棄弁当とお握りと菓子パンの山。……不穏な振動を検知したよ。店舗の裏側で、「安全隔壁」が機能不全を起こしている……』
その言葉が終わるより早く、店内の照明が激しく明滅した。コンビニの外から、演出用ではない物音が響き渡る。
次回:テーマパークの「闇」が襲いかかる。
投稿時間は、本日19時50分です。




