第11話:午前5時の限界BBQ
午前4時55分。枕元で自作AIのジヴが、スマホのアラートを鳴らした。
『リエ、緊急入電。シュウからメッセージだよ。「肉、獲れた。帰宅後15分で消える。火の準備を」以上』
「……了解。ジヴ、外気温は?」
『マイナス2度。「イージス・360°リフレクト透湿防水防寒ジャケット」を推奨するね。体温の損失は、朝食の摂取効率を下げるよ』
俺は跳ね起きると防寒着を最速で着込み、庭のドラム缶コンロへ走った。共有チャットには、すでに住人からの返信が躍っている。
『ミシャ:うそん! 肉キター!! 実家のコシヒカリは、炊きたて待機中だて♡』
『ユラ:岩塩と黒胡椒、あとダイソーの「瞬間燻製の素」準備完了。お兄ちゃん、火起こし3分で終わらせて』
午前5時2分。
万全を尽くすべく、『難燃加工・防汚耐切創エプロン(2,500円)』の紐を締め、道具を揃えたところへ、愁さんが駆け込んできた。掲げ持ったレジ袋には、溢れ出さんばかりに詰め込まれた赤身肉。
「魔石は店長に渡してきた。肉は、廃棄物扱いだ」
「ナイス、シュウさん! ジヴ、カウントダウン開始!」
『了解。肉の透過率から、タイムリミットを算出するね。完全消滅まで残り720秒だよ』
100円ショップの「火吹き棒」を使い、炭に酸素を送り込む。2500円の「耐熱フィールドグローブ」で、真っ赤な炭を最適配置に並べ替え、熱エネルギーを最大効率で肉へ伝えるよう整えていく。
「ユラ!」
「任せて」
由良が、ダイソーの300円の折り畳みナイフを手に取り、一口大にカットする。その隣で、シュウさんは医大生の知識を活かし、切りやすい方法を指示していた。
「……そこだ。筋膜に沿って、一気に」
『肉の透過率12%に上昇。分子構造が不安定になっているね。早く「物質固定」を!』
「焼くよ!」
切り口から白い霧が漏れ始めた魔獣肉に下味を付け、熱々の鉄板に叩きつける。ジューッという暴力的な音が凍てつく朝の空気を割き、肉汁があふれ、脂が跳ねた。理性も吹っ飛びそうなほどの匂いが一気に広がる。
物理法則による「熱変性」とか、この際どうでもいいが、ダンジョンの魔獣肉は加熱すれば食える。
「リエちゃん、焼けた!? 焼けたべ!?」
炊きたて白米をよそった茶碗を両手に持って、光紗が震えている。
「落ち着け。しっかり火を通さないと、胃の中で消えるぞ」
「もう待てない! この小さいのなら!」
光紗は肉を冷たいタレに浸して、ご飯にバウンドさせ、息を吹きかけてから頬張った。
「んん〜〜!! 熱い、けど、うんめぇ!! 脂が甘くて、米と最高に合う! 幸せだぁ……」
『ミシャのセロトニン分泌量、急上昇。ただし、現在の咀嚼速度では、消化酵素が追いつかない部位が3%あるね』
「ジヴ、野暮はやめろ。一食あたり原価50円以下で高タンパクかつ最強コスパの朝飯。楽しまなきゃ損だぞ」
5時20分。
ドラム缶コンロの上には、採れたてキノコと焼け焦げたハーブの欠片のみ。残された魔獣の骨が、朝日に照らされながらサラサラと塵になり、風に吹かれて消えた。
「ゴミ出しが楽で助かるけど、この奇妙な光景だけは……」
俺はエプロンを脱ぎ、ペパーミントとミニトマトのプランターに、その塵を撒いた。
「ジヴ、今日の予定は?」
『午前9時から、隣駅のスーパーで「もやし10円セール」だよ。リエが自転車で行くしかないね』
「……ついでに、もやしレシピをリストアップしてくれ」
今日という日の戦いは、まだ始まったばかりだ。
次回:パストラミに買収されし者、再臨!
投稿時間は、本日19時50分です。
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