第1話:撥水性能とクリーニング代
「ジヴ、FieldCoreの撥水性能は?」
『君の人間関係に対する拒絶と同じ強度だよ。ダンジョンの粘液も血飛沫も一滴残らず弾く無敵の盾さ』
スマホ画面越しに自作AIのジヴが毒を吐く。
加速するインフレで、庶民の財布が氷河期よりも冷え切った日本の各地にダンジョンが現れ、政府は対応に追われた。駅近郊に武器屋が建ち並び、聖剣一本が億を超える値で取引される。
リボ払いのロマン武器に縋れない庶民が頼ったのは、国道沿いのワークマンだった。
俺は、ダイソーのヘッドライトが照らす前方に目を凝らした。アルカリ電池は1本30円だ。
「ジヴ、索敵」
『了解。……前方3メートルにスライム、粘液の酸性値が高いよ。「撥水・防汚加工ストレッチカーゴパンツ」の耐久テストには最適の相手だね』
一歩踏み出した途端ベチャッ、と嫌な音がした。膝を見ると、天井から落ちてきたのは緑色のスライム粘液だった。
『クリーニング代1,200円だよ』
「その情報はいらない」
脚を軽く振ると、粘液はビーズ玉のように転がって滑り落ちた。生地にはシミ一つ残っていない。
「この防御力が1,900円。まさに資本主義の聖遺物」
100均の「テフロン加工フライパン」を構え、ノロノロと移動するスライムの核を柄の先端で叩き割る。
パリン、と軽い音がして、小さな魔石が転がった。
『魔石ドロップ。時価300円だよ』
「効率重視だ。ジヴ、索敵」
『了解。……前方10メートルに大ネズミ3匹を検知』
闇の中から赤く光る眼が迫る。俺は再び「テフロン加工フライパン」を構えた。飛びかかってきた1匹目の大ネズミの頭に振り下ろす。ヒット! 続いて2匹目の鼻先に、容赦ない前蹴りを叩き込む。
グシャリ、と鈍い音が響き、2匹目のネズミが壁に激突した。3匹目にもフライパンをお見舞いする。
『カタルシス完了。大ネズミの魔石、時価500円。靴底の摩耗率は0.01%以下。このコスパは神だね』
ネズミから魔石を3つ回収して、カーゴパンツのポケットにしまった。
「これで1800円。フライパンの減価償却費を引いても純利1740円。そろそろ朝飯を食べに帰ろうか」
久世黎慧は、築60年以上の木造2階建て古民家シェアハウス『古泉荘』の管理人代理を押し付けられた底辺のフリーターだ。前職は、配達などのスキマバイト。その頃から仕事を中心にしたスケジュールで生きていた。
建物の地下、かつて物置だった場所には、直径2メートルの「大穴」が開いている。行政の目が届かない未登録ダンジョン。その掃除が主な日課だ。
『緊急。古泉荘の住人、日向光紗のスマホGPS信号を検知。場所は地下40メートル。充電残量12%だよ』
「……そいつはヤバいな」
次回:『聖剣ローン』が紡ぐ家族の絆。
投稿時間は、本日19時50分です。
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