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白鳳の天使は恋を自覚しない ー完璧美少女が俺の聖域を侵略中ー  作者: 霞灯里
第1章 白鳳の天使

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第5話 私が蝶に生まれ変わるまで ♀

私は天宮愛芽莉あまみやあめり、十六歳。


日本有数の巨大財閥の御曹司おんぞうしで次期会長の父と、世界中のランウェイを席巻した元トップモデルでフランス人の母。そんな華やかな二人の間に生まれた私。


世間から見れば、きっと何不自由ない令嬢に見えると思う。でも、大きな豪邸を満たすのは、心を冷やす静寂だけだった。


私は両親に、愛されない、必要とされない、興味を持たれない、求められない、子供だった。


両親はいつも忙しかった。仕事こそが人生の中心である二人は、私を日本に残したまま世界中を飛び回っていた。世話と教育を任せた使用人たちが大勢居るけれど、肝心な父と母の姿はそこにはなかった。


両親が同じ空間に立つことはまれで、二人が揃うと冷めた空気が漂い言葉の端々には見えない亀裂が走っていた。でも、不思議と離婚はしない。形だけ保たれた家族という枠組みの中で、私はただ静かに育っていった。


両親に会えることは、年に二、三回あれば幸運だった。それでも幼い私は二人を信じて待っていた。


「パパ、今度の日曜日、遊園地に行きたいの!一緒に観覧車に乗りたい!」

愛芽莉あめりは本当に可愛いな。でも、すまない。大事な商談があってね。代わりに欲しいものは何でも買ってあげるよ」


父は私の頭を撫でながらどこか遠い声でそう言った。違う、欲しいのは物なんかじゃない。


「ママ、海に行きたい!ママとお揃いのワンピース着たいの!」

「アメリは本当に愛らしいわ。でも今日は大事な会食があるの。今度、もっと素敵な場所に連れていってあげる」


化粧を整えた母は、振り向きざまに美しく優雅に微笑む。でもその“今度”が訪れたことは一度もなかった。


待ちに待った両親に会えた日ですら、私は置き去りにされた。キラキラと輝く沢山のプレゼントに囲まれる中、私はいつも独りぼっち。


誕生日には使用人たちの控えめな拍手の中で、独りでケーキの蝋燭ろうそくの火を吹き消していた。私は広い部屋に立ち尽くし、あまりの寒さに泣きじゃくった。


私を愛して……!私を見て……!私を抱きしめて……!私を必要として……!私に興味を持って……!私と遊んで……!私とお話して……お出掛けして!私に、もっとかまってよぉ……!


そんな幼ない心の叫びは両親に届かず、私は毎日のように泣き暮らしてた。


どんな高価なものでも与えてくれた。だけど、一番欲しかった両親の愛情は決して与えられなかった。両親が大事にしているのは仕事で、私はいつだって二番目。あるいはもっと後ろなんだろうと、悟ってしまった。


だから私は、両親に期待することを一切やめることにした。


両親の愛情を求める心に固く蓋をして、冷たく微笑むようになった。求めて得られないと辛すぎるから。傷つく前に自分から心を凍らせることを選んだ。


誰から見ても隙のない“天宮家の令嬢”を演じるようになった。冷めきった仮面は、私を守る鎧だった。


母の血を濃く継いだ容姿は、戸惑いながらも成長と共に大人びていき、描かれる線は女らしく整っていった。そしてそれに比例するように周囲から、沢山の視線をはっきりと感じるようになった。


学校でも、街の雑踏の中でも、ふと立ち寄ったお店の中でも、どこに居ても纏わり付くように、絡み付くように、私を追い取り囲む色めいた視線。特に男性から、女性からも。冷めきった私には、それが一体何なのか意味が分からなかった。ただ、肌を撫でるような居心地の悪さだけが残っていた。


――けれど中学のとある日。


私を取り囲む男性の視線は相変わらず注がれ続け、それどころか熱を帯びて膨れ上がり増殖していった。


私はどうしてこれ程に見られるのか。


無視するにはあまりにも濃密な視線に不審感を覚えた私は、その意味を、理由を、心境を、ついに真剣に考え込んでしまった。


この人たちは、どうして私をそんな色付いた目で見るの?私に何を思っているの?私をどうしたいの?私にどうして欲しいの?私に何を求めているの?


……、ーーーーーッ!!!


そして、私はその真理に辿り着いてしまった。


か、か、彼らは……!

私を欲しがっているんだ……求められてるのね……!

独占して私を自分だけのメスにしたいんだわっ……!


その意味を理解した瞬間に、ぞわりとした嫌悪感が走ると同時に、体中にじんわりと甘美で痺れるような震えが広がった。まるで長く眠っていた何かが静かに目を醒ますように……。


この時、さなぎからちょうになるように、私は自分を女として自覚し……性に目覚めた。


冷え切っていた心がじんわりと溶け出していく。愛情を求め飢えきった心の蓋が、少しずつ開いてしまう。抑えていたそれは、体の奥でとろりと熱を帯び大きく膨張すると、ひどゆがんだみだらな欲へと変質していくのを感じた。


注がれ続ける色めいた視線を感じるたび、嫌悪と高揚が濃厚に絡み合い、胸の奥で火が灯る。そんな矛盾に揺さぶられながら、女としての自分に意識せずにはいられなくなった。


もっと私を見て……もっと私を求めて……もっと私を欲しがって……もっと私を愛して……!私を、もっと強く、もっと深く、もっともっと意識してほしい……!


理性ごと揺さぶられ強く求められることを、妄想してしまう自分に抗えなかった。私を取り囲む色めいた視線が、甘さを帯びた形容し難い快感へと変化した。


冷たい仮面の裏で膨らみ続ける危うい熱を持て余し、その衝動を吐き出す行き場を探して私は文字の世界へ逃げ込んだ。激しく執着され求められる少女の物語を描きながら、その欲望の焦点を自分自身に重ねていた。


やがて気の迷いから投稿した物語は、瞬く間に多くの反応が寄せられ、続編を求められ、熱い言葉が寄せられるようになる。そんな声に触れるたび、体が(とろ)けそうになった。


――私は求められてる……。


その響きがまた私の奥を甘く震わせ、同時に強い渇きを呼び起こしていった。


両親に愛されなかった私は、代わりに翼を手に入れ繊細で危うい蝶へと生まれ変わった。理性も常識も押し流されるほどの熱で、飢えた獣のように強く求められる未来を夢見ながら……。


そして私は、私立白鳳学園に入学した。


私を取り巻く視線が更に濃く強まり、その快感に体は熱を帯び微かに震えていた。私はいつものように冷めた氷の仮面でそれを隠し、決して知られないよう身を固めた。


そこで私は彼に――雪城奏多ゆきしろかなたくんに出会ってしまった。

この物語を読んで頂き有難うございます。

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また、評価いただいた方、有難うございました!

今後ともよろしくお願いします。

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