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白鳳の天使は恋を自覚しない ー完璧美少女が俺の聖域を侵略中ー  作者: 霞灯里
第1章 白鳳の天使

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第3話 悪魔の禁書



―――荒い息が零れるたび、私を射抜く獣のような視線に絡め取られていく……。


私に触れる彼の指先がそっと動くたび、張りつめた理性はゆるやかにほどけて、甘い吐息といきれ落ち、身体の奥からじんわりと熱が広がっていった。


敏感なそこはかすかな刺激にも震えて、よろこびの余韻よいん幾重いくえにも重なっていく。服越しに伝わる彼のたかぶりを感じると、下腹部かふくぶがきゅっと甘くうずいて、切なく水音がこぼれてしまう。


もうダメ……無理……耐えきれない……!


抑えていた想いがみつとなり、ついに彼を求めてあふれ出してしまった―――




ゴクリ……。


無意識に唾を飲み込む音が、やけに大きく響いた気がする。目の前にあるのは、白く可憐な装丁の日記帳のその中身――いや、日記なんて可愛いもんじゃなかった。


「ま、まじかよ……!ウソだろ……ウソだろ……!?」


黒日記や!これはどう見てもえっちな小説のネタ帳や!


しかも、そこらの軽いメモじゃない。文字から熱気が滲んでくるような、濃密で艶っぽい文章がポエミーにびっしりと書き込まれている。もはやネタ帳というより、一冊の完成された官能本と言って差し支えなかった。


これはもう、立派なエロ本や!

あまりのえっちさに息子の叫びが一向に収まらねぇ!!


「あ、あ、あの……愛芽莉あめりたんが、こ、これを……!?」


清楚で静謐な超絶美少女、“白鳳の天使”。そんな彼女がこんな文章を書いているなんて、マジかよ……!!その事実が俺の脳を灼き払った。


俺は人生で最大の衝撃を受け激しく震えてる。唖然とか呆然とか、そういう言葉では全然足りねぇ、あまりのビックバンで意識が飛びそうだ。


そして困ったことに、俺の身体は正直だった。ページから漂ってくる生々しい官能に、理性では「やめろ」と命じているのに視線は吸い寄せられて、貪るように日記帳の文字を追ってしまう。物覚えのいい俺は、その文字を一文一句、頭に深く刻み込んでしまった。


そうこうしてると、俺は気づいてしまった。


メモ書きはポエム調の官能表現がほとんどなんだが、とりわけ頻繁に使われている単語がある――それは「視線」。


絡め取る視線、刺す視線、(とろ)けさせる視線、雄犬の視線……どうやら「視線」をテーマに物語が描かれてるように思える。その瞬間、頭の奥で何かが繋がった。


視線というキーワード、そこからとあるティーンズラブ小説を想起させた。


前作は書籍化も深夜アニメ化もされた人気作家の新作で、俺も当然のように読んでいた。いや、“お世話になっている”と言った方が正確かもしれない。ネッ♡


最近連載が始まった人気作家の新作、えっちなネット小説――『視線の熱に溶かされて』


試しにその小説の文章を日記帳のメモ書きと照合してみると、ほぼ一致していた。文章、表現の癖、言い回し、タイトルの響き……そして作者のペンネームの響きまでそっくりだということに、今更ながら気付いてしまったのだ。


仮説から弾きだされる回答は、じわじわと確信へ変わっていく。


「……愛芽莉あめりたんって、もしかして……甘美あまみりめあ先生、だったり……?」


口に出した途端、背筋にぞわっと寒気が走った。


やべえ、とんでもねートップシークレットを知ってしまった……!


天使の裏側に、こんな濃厚でつやめいた世界が隠れていたなんて、誰も想像できねぇわ!!!


俺の中の清楚で清廉な超絶美少女、「白鳳の天使」のイメージが木っ端微塵(こっぱみじん)に崩れていく。




しかし、未曾有みぞおうの大災害はまだまだ終わらなかった。


日記帳のフリーページに、妙に実務的な書き込みがある。男子生徒らしき名前がずらりと羅列され、その横には星印がつけられていた。



黒川省吾★★

谷口正弘★

尼木真一☆

山本直樹★★★

……



みたいな。なんだか男子が評価されていた。


最初に見た時は全く意味がわからなかったが、妙に生々しい想像が頭をよぎる。そして特に目立ったある一点で視線が止まり、俺は背筋が凍り付いた。




雪城奏多ゆきしろかなた ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ SSS




ぶっちぎってらぁ、俺ェ!!!


「な、なぁにぃ、この星の数ぅ……?何これぇ?しかもSSSって……ガチャか??俺、レアキャラか???」


軽口を叩いてみても、震える手先と心臓の鼓動はまるで落ち着かない。今すぐ逃げろと急かしているようだ。


さらに日記帳をめくると、一日毎のデイリーのページのメモ欄の全てに、俺の名前が繰り返し書かれていた。




雪城くん 正正正正正正正正正正止



……。


「正」回数を示すシンボル――つまり、これは回数の記録だろう。そして「視線」というテーマと結びつけた瞬間、嫌な推測が浮かび上がった。


もしかして……これ、俺が彼女を盗み見した回数……??いやいや、そんなはずはない!慎重に行為に及んだはずだ!だがしかし……妙に正確な気がする!


更にページをめくっていると、今日の日付のデイリーページに「今日も雪城くんに沢山見られちゃった♡」と走り書きされていた。


あの放課後に、妙に慌てていた彼女を思い出す。


こ、これをあの時、書いてたの!!?


ま、まぁ、それよりも……見てたの!完全に!!バレてんじゃねーーーか!!!





先生に渡せばよかった……?いや万が一、あの中身を見られたら彼女が終わる……!机に置いとくのも当然駄目……。ああーっ、正しいルートはすぐに日記帳に気付いて全力で彼女を追いかけることやったんや!!


俺は現実リアルのバッドエンドへと突入したらしい。


天使の闇を覗いてしまったこの日の夜は、俺は興奮と動揺と背徳感、そして得体の知れない恐怖に包まれ、小刻に震えながら一睡もできなかった。


――そして朝。


俺は日記帳のことなど、一切知らないていを貫くと固く決めた。


あれはただの日記帳ではない。天使の持ち物と思われたそれは、俺の中で“悪魔の禁書”であったと、何者かの黒日記であったと理解したからだ。理解したんだよ!


だから天使の日記帳なんて、俺は拾っていない。見てもいないし、ましてや中身なんて――断じて見てないし知りません。


そう何度も自分に言い聞かせながら、登校路を歩いていた。


「拾ってない……見てない……何も知らない……よし!」


ぶつぶつと呟いているうちに、校門が視界に入ってくる。そしてその瞬間、俺の心臓は跳ね上がった。


そこに立っていたのは、“白鳳の天使”こと天宮愛芽莉あまみやあめりだった。


朝の光を背に受けた彼女は、相変わらず現実離れした美しさで、長い髪が風に揺れるたび、ふわりと甘い香りまで漂ってくる気がする。胸元のリボンが小さく揺れるだけで視線の置き場に困ってしまう。


やっ、やっべええぇ!待ち構えてるぅ!!


俺に気づいた彼女は、ぱっと表情を明るくして小走りに駆けてきた。超絶美少女が大きく手を振り、柔らかそうな巨乳がぽいんぽいんと弾む。とんでもなく有難い景色を頭に焼き付けた。


彼女は俺の前で立ち止まると、耳まで赤く染めながら小さな声で言った。


「……お、おはよう、雪城くん……」

「お、おはよう……天宮さん」


近距離で見ると破壊力が段違いだ。大きな瞳は潤んでいるし、顔が真っ赤に紅潮していて、潤んだピンクの唇も艶っぽい。昨日のノートの内容が頭をよぎって、余計に意識してしまう。


すると彼女は視線を泳がせながら、指先でもじもじとスカートの端をつまみ、切り出した。


「あ、あのね……その……昨日、教室で……日記帳、落ちてなかったかな……?」


その言葉を聞いた瞬間、心臓が一回止まった気がした。


「みっ!見てましぇん!!」


思い切り噛んだ。しかも声でかい。彼女の肩がびくっと揺れる。


「えっ?ほ、ほんとに?」

「みっ、みっ!見てましぇえん!!」


天使にじっと見つめられる。逃げ場がなどあるワケが無い。視線がやたら熱くて、昨日ノートで読んだ単語が頭の中で暴れ回る。


「まったく見てましぇん!ほ、ほんとに、ほんと!」

「私、落ちてなかったって聞いたのに……なのに“見てない”って言うの、ちょっと変じゃないかな……?」


うぅっ、理詰めやめて!もう無理なの!!もうHPはゼロなの!!!


胸の前で腕を組んで体を抱き寄せるから、目のやり場がないわ!寄せて上げないでぇ!!上目遣いで見ないでぇ!!!


「え、えっと……見てないっていうか、その……!」

「嘘……嘘だね」


彼女の真っ赤な顔が、俺に迫る。攻撃力がすんごい、カンストしてるわ!


「日記帳の……なっ、中を……、みっ、見たのね……?」

「お、お、俺、何も知らない……!」

「ウソッ!見たのね!!」


完璧美少女を目の前に不器用な俺が嘘を貫くことなど出来るはずもなく、態度がすべてを物語ってしまった。


「あ、あれ……ほんとに……!ぜ、絶対に、誰にも言わないで……!!」

「う”うッ!!」


ア”ア”ーーー!もうダメだァー!おしまいダァー!!!


彼女は「はぁ…はぁ…」と息を荒げながら、耳まで真っ赤な顔を両手で覆うようにして、体をきゅっと縮こまらせた。長いまつ毛の隙間から俺を覗くその仕草が、色っぽすぎて……こんな時まで反応する男に申し訳なくなる。


「ご、ごめんなさい、これ、教室で拾いました……」

「……っ!!」


もう無理だと観念した俺は、鞄から天使の日記帳を取り出した。隠し持っていたそれを差し出すと、彼女はばっと奪い取るように受け取った。


「見たこと絶対に、誰にも言わないで……!」


彼女はキッと、俺を一睨みしながら再びそう言うと、くるっと背を向けて逃げるように学園の方へと走り去ってしまった。俺を睨んだその顔は真っ赤で、怒りと恥ずかしさが混じっていた。流れる髪とスカートの残像だけが、目に焼きついて離れない。


「あー……ちょーかわいい……」


秘密を覗いてしまった罪悪感が押し寄せ、彼女を怒らせてこんな事態になってしまった。こんな現実を前にしても、俺はそんな言葉を呟いてしまった。

この物語を読んで頂き有難うございます。

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また、評価いただいた方、有難うございました!

今後ともよろしくお願いします。

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