第1話 白鳳の天使
俺は雪城奏多、一六歳。
何の特徴も無くごく普通で平凡で地味。存在感の薄さはトップクラス。ネットがお友達のボッチでオタクでゲーマー。冴えない隠キャモブだ。
当然、彼女いない歴は十六年。近所の初恋の幼馴染とは成長と共に疎遠になって、中学に通う頃には「オタクなんてダッサイ!」と言われて完全に終わった。
そんな俺だが、最底辺でも無い。
親は離婚して親父と二人暮らし。そんな親父は中堅企業の取締役で、いつも日本中を忙しそうに飛び回っている。つまり俺は自宅でもボッチである。
とは言っても、親子の中は良い方だ。親父は成績さえ良ければ何も言わない放任主義。大目に生活費もお小遣いもくれる。勉強の義務さえこなせば親父は最強のスポンサーになってくれるのだ。こんな自由でゆとりのある環境を与えてくれて、感謝している。
俺は物覚えは良い方だ。学校で授業に真面目に取り組んで多少の勉強すれば、大した努力もせずに成績は学年上位だった。地頭はいいらしい。
真面目に授業を受ける理由は、自由な時間と生活を作り出したいからだ。煩わしい勉強は学校の時間で完結させて、家ではずっとネットやゲームで遊んでいたい。
サービス開始時から始めたオンラインゲーム「アストラル・ファンタジー」。俺の全てはここにあった。家に帰ってゲーミングPCの電源を入れると、俺の本当の一日が始まる。
このネトゲはフル3D高品質なグラフィックのアクションRPGゲーム。中世ファンタジーな感動的なストーリーで、膨大な戦闘職や生産職で遊べて、広大なフィールドやダンジョンを冒険できる。今どき良心的な月千円ちょいの月額課金制で遊べて、敷居の低さから子供から大人まで大勢の人がプレイしてる、大人気のゲームだ。
俺はこのゲームにどハマりし、中学三年間の自由な時間は全て費やした。現実の友達は皆無だが、ゲームのフレンドリストは常に光っていた。青春時代の時間をこれでもかと捻出し、もれなく全て費やした。全く後悔してない。
何故ならば!
ゲーム自体の面白さのみならず、俺の最推しのヒロイン「エリシアたん」が居るからだ!!
しっかり者に見えてちょっと天然でドジなとこもある王女様。可愛くて優しくて和ませる、そんなエリシアたんは俺の女神だった。部屋にはフィギュア、タペストリー、限定グッズが整然と並び、PCもスマホの壁紙も彼女だ。
学校では真面目に勉強をし、家ではエリシアたんの居るこの世界へ、俺の聖域へと引き篭る。そんな幸せな堕落した日々を悠々自適に過ごしていた。
そんな俺が進学したのは、都内屈指の超名門校。私立白鳳学園。
天才と金持ちの子息子女が集い、入学するだけで一種のステータスになるような有名な学校だ。まさか合格するとは思わなかったわ。
初めて袖を通した白鳳の白とネイビーに彩られた制服は、さすが名門と唸らせる完成度だった。平凡で地味な俺でさえも、人並みの人間に見せてくれる。
そんな制服が、まるで存在理由を得たかのように輝いた瞬間があった。教室の扉が開き、一人の少女が入ってきたその時だ。
空気が変わった。
生徒のざわめきが止み、視線が一斉に集まり、時間がわずかに減速したように感じた。
天宮愛芽莉。
その名を、後に何度も聞くことになる。
まず目が吸い寄せられるのは、透き通るようなヘーゼルの大きな瞳。琥珀と若葉を混ぜたような色彩が光を含み、長い睫毛に縁取られている。その視線がわずかに動くだけで、周囲の視線が吸い寄せられていく。
鼻筋はすっと通り、唇は淡いピンク色で柔らかそうに艶めく。金に近いブラウンのロングの髪は絹のように滑らかに腰までさらりと流れ落ちた。そしてブレザー越しでも分かる魅惑的な巨乳、豊かな躰の曲線に引き締まったウエスト。日本人離れした小顔で八頭身のモデルスタイル。
美しすぎて、現実味がない。
そんな精巧な彫刻めいたハーフの完璧美少女が、穏やかな微笑みを讃えながら降臨した。
彼女が歩めば自然と人の波が割れ、声を発すれば教室が静まり傾聴する。高嶺の花なんて俗な言葉じゃ現わせず、いつしか生徒達は彼女をこう呼び始めた。
「白鳳の天使」と。
天使は穏やかな微笑みを浮かべながらも、どこか冷めた雰囲気に誰もが躊躇する雰囲気を纏っている。話題と興味の中心である彼女に、誰もが話しかけるどころか、全く近寄れずにいた。
遠い、遠すぎる。
昼休みも放課後も群れず一人静かに帰宅する姿は、まさに孤高。清楚で静謐で、背後に後光を錯視させるぼどだった。
ありえん美少女……本当に同じ人間なの?
相変わらずのボッチで隠キャな俺に、ネットやゲーム以外の新たな趣味ができていた。運よく俺に与えられたベストポジション。窓際一番後ろ席は、斜め前に座る天使の横顔がよく見えた。
ノートを取るふりをしながら、あるいは教科書を立てる角度を微妙に調整しながら、バレない様に、決して不審に思われないよう細心の注意を払い、うっとりと彼女を盗み見ていた。見惚れすぎて口元が緩むのを必死で堪えながら。
俺にとって、彼女の存在は只の完璧美少女なだけではなかったのだ。初めて彼女を見た瞬間に、俺は膝から崩れ落ち、地に伏せて震えていた。
何故ならば!
彼女はあの最推しのエリシアたんにそっくりなんや!まさに天使や!!
髪色がもう少し金に寄れば、完璧にリアルエリシアたんや!何という奇跡、何と素晴らしいことか!敢えて言うならば、天然でドジな成分が欲しい!「白鳳の天使」は完璧すぎる、欠点が無い!!
これは中学三年間の青春をネトゲに捧げた俺への運営からの補填なのぉ?ログインボーナス豪華すぎなぁい?
俺はエリシアたんそっくりの彼女と同じクラスになったこの感動にひたすら感涙し、白鳳学園に入学できたことを本気で神に感謝するのであった。
――しかし、この後にどんな事態に陥るのか、この時はまだ知らなかった。
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