収まるところ
「やっと収まるところに収まったね。いやー、長かった!」
数日後。
晴れやかな声が、居間に響いた。
その中心で、メルセデスは――テオドールの膝の上に座っている。
逃げるでもなく、抵抗するでもなく。
あまりにも当然のように。
「うるさい」
即座に返された低い声は、冷淡ですらあった。
だが、その腕はしっかりと彼女の腰を抱いている。
「いやだってさあ。あれだけ分かりやすい相性で、両想いで、誤解を拗らせて――」
「余計なことを言うな」
「はいはい」
アマデウスは肩をすくめ、楽しそうに笑った。
あの日以来。
正確には、“告白”と“理解”が成立して以来。
テオドールから、ためらいというものが、ほぼ消えた。
人前だろうと、室内だろうと関係ない。
気づけば、常にメルセデスを腕の中に収めている。
椅子に座れば膝の上。
立てば腰に手。
歩けば、指先が絡め取られる。
(……あの、テオドール様……)
心の中で呼びかけるが、口には出せない。
なぜなら――
「落ち着いているか?」
低く囁かれて、否定できないからだ。
「……はい」
そう答えると、腕の力がほんの少し強くなる。
「だろう」
満足げな声音。
メルセデスは、今でも不思議に思う。
あれほど距離を測っていた人が、どうしてここまで変わるのか。
けれど、アマデウスは答えを知っている顔で言った。
「我慢が必要だった時期が、終わっただけだよ」
「……どういう意味だ」
「テオはね、必要以上に“理性”が強い性格なんだ。守るために、抑えるために、自分を縛る」
ひらひらと手を振る。
「でもさ。『愛していい』って確定したら、そりゃこうなる」
テオドールが、わずかに眉を寄せた。
「私は、節度を保っている」
「膝の上は?」
「合理的だ」
「どこが」
メルセデスは、そっと視線を落とした。
確かに、身体は楽だ。
魔力の流れも安定している。
心拍も、呼吸も。
――それ以上に。
ここにいると、安心してしまう。
テオドールの胸に背を預け、彼女は小さく息を吐いた。
「……あの」
「何だ」
即座に返答がある。
「その……ずっと、こうしているのは……」
言葉を探す間にも、腕が緩む気配はない。
「嫌か」
「……嫌、では……」
正直な答えだった。
テオドールは、ほんのわずか、口元を緩める。
「では、このままで」
結論が早い。
アマデウスは、その様子を眺めながら、満足そうに頷いた。
「うん。循環も感情も安定。理想的だね」
「診断が終わったなら、帰れ」
「冷たいなあ。仲人役だよ?」
「余計なお世話だ」
そのやり取りを聞きながら、メルセデスは思う。
――これは、契約ではない。
――義務でも、治療でもない。
ただ、選ばれて。
抱き留められて。
離されないだけ。
テオドールの腕の中で、彼女は初めて、
未来を怖がらずに想像できた。
それが、何よりの変化だった。




