1話
1学期
春。桜も散りかけの季節。
校門をくぐる俺は、去年と同じ制服、同じ鞄。
でも気持ちはまるで違う——新入生じゃなくなったからだ。
新入生ではない。2年生に上がった俺ー永井陽夜は2年生の教室に入る。1クラス40人がこの学校。だが、黒板に書いてある席の場所と名前がある紙には38人となっている。
「誰か留年したのか?」
ため息する。留年という言葉は吐きたくない。留年した自分がどうなってしまうとか未来を想像できない。
留年しなかったことは俺にとって幸運だ。まあ、2人いないのは留年ではなく、引越しとか何か理由があるかもしれないが…
「あっ、永井くん」
「ん?」
少し長い黒髪に眼鏡をかけた170後半の背の高い男。
風間正彦。1年生からの友人だ。
「お前もこのクラスか?」
「うん、これから1年よろしくね」
「ああ、今年度もよろしくな」
黒板にある紙を見る。
「俺はどこの席だ?あっそこか」
1番前の席…アリーナ席か。う〜ん…
「違うよ」
「え?」
風間に違うと指摘された。何が違うのかと聞くとどうやら、黒板の位置が違う。ーが席としたら
廊
下 ー ー ー
側 ー ー ー ー ー 窓
ー ー ー ー ー ー
ー ー ー ー ー ー 側
ー ー ー ー ー ー
ー ー ー ー ー ー
ー ー ー ー ー ー
ー ー ー ー ー ー
黒板
ってなってる。俺は窓側から4番目だ。よく見たらこの紙、反対になってんじゃ…いや、名前が反対じゃない…分かりにく!なんで黒板上じゃないんだよ。分かりにくて前に座るところだったじゃないか
「分からねえよこれ」
「見ただけじゃ判断できないけどまだ分かりやすいよ」
「そうか?」
「うん」
うんって済む内容でしたか…心の中で叫んだ俺がバカだった。見にくくさは文句を言いたいが風間の様子からして皆んな気づいているのだろう。よく見たら見たら分かるような位置だ。俺が馬鹿だったって結論になる。
「んじゃ、話そうぜ」
「だね。春休み中何をしていたの?」
「ゲームしかいないな」
別にどこか行く用事があったわけもない。遊びに行くと言っても遊ぶ友達はいない。風間と遊ぶ手段もあるが残念ながらこいつの家は知らない。連絡をしても反応してくれないからメールのやり取りすらできない。
1人でやるしかないというのがなんとも悲しいことだ。スマホで一日中いじる生活をしていたから体が鈍ったりしているが問題は特にない。多分…
「俺も同じく、ゲームをしていたよ。遊ぶ人いなかったからね」
「悲しいな」
「全くその通り」
「認めていいのか?」
「違うと言える春休みのエピソードがない」
それ言ってしまったらさらに悲しくなるぞ?まあ、お前がいうならそれでいいんだが…春休みの使い方は俺と同じのようだな。
「君もだろう?」
「否定しない。でもまあ、それなり楽しかったよゲーム」
「そこは旅行の思い出でしょ」
「行ってないよ」
旅行行く予定なかったな。夏休みとか冬休みなら旅行するが春休みは基本的に旅行しない。旅行する金がない事情も一つだが、行きたいところがないのが理由。
「話題なしか」
「課題やった?俺は全部終わったよ」
「やったさ。国語ワーク、数学ワークとかね。社会はなくて楽だよ」
春休みだからそんな多くなかったな宿題の量としては…冬休みの半分くらいか?休みの日数は同じくらいなのに意外に宿題なかった時は驚いたな。
「ん?」
どうした?まさか何か別の宿題とかあったのか?
「読書感想文は?」
「やったぞ」
「感想文800文字から1200文字以内は面倒だったね。AI活用した?」
「どんな文章にしたらいいのか例として活用した。それを真似して書いてみたよ。感想の方はオリジナルだ」
「例として活用したんだ…まあ、丸写しよりいいかもね」
時代の進歩によってAIが読書感想文の文章を作っている時代になったせいで春休み前の3学期の頃に先生たちからAIについての注意をしていた。ただ、それを守る生徒はかなり少ない。
「宿題に時間を使うわけにはいかないからな。別にこの学校は進学校じゃないし」
「確かに」
宿題怠いからな…読書感想文は書くのに時間をかけるどころか、本を読まないといけない。全部内容を読めとは言われていないから半分くらいまで読んで読書感想文を書き始めたが…春休み中の課題の中では面倒な課題だったな。
「あとは新聞記事の感想の宿題だね」
「…は?……ああっ!!」
そんな宿題あった!やべえ!新聞記事についての宿題もあったの忘れていた…!
「それやるの忘れていた!」
「え?忘れたの?」
「ああ、忘れてた…やべえ…!PC…!」
すぐにPCを開いてニュース記事を見る。あっ、新聞じゃないといけないんだっけ?
「なあ、記事のやつってネットニュースでもいいのか?」
「ん?問題ないと思うよ」
「よし!ネットニュース…」
宿題すぐに終わらせてやる。そういや
「38人学級だけど誰か入ってくるとかあるか?」
「どうだろう?」
首を傾げる風間の様子からして風間も知らないのか。転入生でも来るのか?
「転入生くると思うか?」
「う〜ん、2年生に転入か…俺に聞いても分からないよ」
「分からないのか?」
「うん、分からない」
そうか…なら、先に宿題やるか。
次回は土曜日の朝9時半に投稿します




