第4話:静寂の森
俺は、その光景を静かに見つめていた。もう、俺の顔には怒りの色はなかった。ただ、理不尽を排除した後の、静かな満足感だけが残っていた。
(これで、よし。彼らは二度と、この森で悪さを働くことはできないだろう)
倒れていた冒険者たちに目を向ける。彼らの怪我は重そうだが、呼吸は安定しているようだ。顔色も少し良くなっている。俺が「適切な治療を受け、無事に回復する」と結果を改変した効果だろう。あとは、彼らが目覚めるのを待つだけだ。
(さて、どうするか。このままここにいるのも非効率的だ。彼らが目覚めたら、きっと俺の白い翼に驚くだろうし……)
俺は人前に出るのが少し億劫だった。天使として転生したとはいえ、前世は普通のサラリーマン。いきなり神々しい存在として扱われるのは、どうにも落ち着かない。それに、目立って面倒ごとに巻き込まれるのは、最も避けたいことだ。
俺は冒険者たちに一瞥をくれ、音もなくその場を後にしようとした。その時だった。
「あの……」
微かな声が、俺の耳に届いた。振り向くと、倒れていた冒険者たちの一人、どうやら最年少らしき少女が、かろうじて身を起こそうとしているところだった。彼女の瞳はかすかに開かれ、こちらを向いている。
まずい。完全に油断していた。
少女は、傷だらけの身体を震わせながらも、俺の白い翼を茫然と見上げていた。その瞳には、恐怖ではなく、純粋な驚きと、そして微かな希望の光が宿っている。
「あなたは……天使様……?」
掠れた声で、彼女はそう呟いた。無理もない。こんな森の奥で、突然翼を持つ存在が現れたら、誰だってそう思うだろう。俺は咄嗟にどう答えるべきか考えた。天使だと認めるべきか、それとも否定すべきか。どちらにしても、面倒な事態になるのは避けられないだろう。
(ここは……)
俺は一瞬で思考を巡らせた。少女が俺を「天使」と認識したという「結果」。これはもう改変できない。ならば、そこから最善の「結果」を導き出すしかない。
「……君は、助かったようだな」
俺はあえて、はっきりと肯定も否定もせず、静かに答えた。少女は、その言葉を聞いて、少しだけ安心したような表情を浮かべた。
「あの、先ほどの……あの魔蠱セトラストたちは……?」
彼女は恐る恐る、悪党たちが消えた方向を指差した。
「彼らは、君たちを襲った罪を償った。もう、ここには現れない」
俺は淡々と告げた。彼女には、俺が何をしたのかは分からないだろう。それでいい。
少女は、痛みに顔を歪ませながらも、震える手で俺に手を伸ばそうとした。
「ありがとうございます……私はクレアと申します。あなた様が助けてくださったのですね……」
その透き通った瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる。前世では、誰かに心から感謝されることなど、ほとんどなかった。常に評価される側で、感謝の言葉は形式的なものばかりだったからだ。その純粋な感謝の眼差しに、俺の心の奥底に、微かな温かさが灯ったような気がした。
(この子を放っておくわけにはいかないな……。結果を改変する。クレアが、俺の言葉を信じ、指示に従う)
俺はそう念じると、彼女に近づき、そっと手を差し伸べた。
「傷は深いようだな。君たちを安全な場所まで運ぼう。まずは治療が必要だ」
少女は、俺の言葉に迷うことなく頷いた。その瞳には、もはや疑いの色はない。
俺は彼女の身体を優しく支え、他の冒険者たちにも目を向けた。彼らも、能力によって命の危機は脱している。
(彼らが、無事に治療を受けられる場所……)
俺は、意識を集中して「結果」を導き出そうとした。
俺は、その光景を静かに見つめていた。もう、俺の顔には怒りの色はなかった。ただ、理不尽を排除した後の、静かな満足感だけが残っていた。
(これで、よし。彼らは二度と、この森で悪さを働くことはできないだろう)
倒れていた冒険者たちに目を向ける。彼らの怪我は重そうだが、呼吸は安定しているようだ。顔色も少し良くなっている。俺が「適切な治療を受け、無事に回復する」と結果を改変した効果だろう。あとは、彼らが目覚めるのを待つだけだ。
(さて、どうするか。このままここにいるのも非効率的だ。彼らが目覚めたら、きっと俺の白い翼に驚くだろうし……)
俺は人前に出るのが少し億劫だった。天使として転生したとはいえ、前世は普通のサラリーマン。いきなり神々しい存在として扱われるのは、どうにも落ち着かない。それに、目立って面倒ごとに巻き込まれるのは、最も避けたいことだ。
俺は冒険者たちに一瞥をくれ、音もなくその場を後にしようとした。その時だった。
「あの……」
微かな声が、俺の耳に届いた。振り向くと、倒れていた冒険者たちの一人、どうやら最年少らしき少女が、かろうじて身を起こそうとしているところだった。彼女の瞳はかすかに開かれ、こちらを向いている。
まずい。完全に油断していた。
少女は、傷だらけの身体を震わせながらも、俺の白い翼を茫然と見上げていた。その瞳には、恐怖ではなく、純粋な驚きと、そして微かな希望の光が宿っている。
「あなたは……天使様……?」
掠れた声で、彼女はそう呟いた。無理もない。こんな森の奥で、突然翼を持つ存在が現れたら、誰だってそう思うだろう。俺は咄嗟にどう答えるべきか考えた。天使だと認めるべきか、それとも否定すべきか。どちらにしても、面倒な事態になるのは避けられないだろう。
(ここは……)
俺は一瞬で思考を巡らせた。少女が俺を「天使」と認識したという「結果」。これはもう改変できない。ならば、そこから最善の「結果」を導き出すしかない。
「……君は、助かったようだな」
俺はあえて、はっきりと肯定も否定もせず、静かに答えた。少女は、その言葉を聞いて、少しだけ安心したような表情を浮かべた。
「あの、先ほどの……あの魔蠱セトラストたちは……?」
彼女は恐る恐る、悪党たちが消えた方向を指差した。
「彼らは、君たちを襲った罪を償った。もう、ここには現れない」
俺は淡々と告げた。彼女には、俺が何をしたのかは分からないだろう。それでいい。
少女は、痛みに顔を歪ませながらも、震える手で俺に手を伸ばそうとした。
「ありがとうございます……私はクレアと申します。あなた様が助けてくださったのですね……」
その透き通った瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる。前世では、誰かに心から感謝されることなど、ほとんどなかった。常に評価される側で、感謝の言葉は形式的なものばかりだったからだ。その純粋な感謝の眼差しに、俺の心の奥底に、微かな温かさが灯ったような気がした。
(この子を放っておくわけにはいかないな……。結果を改変する。クレアが、俺の言葉を信じ、指示に従う)
俺はそう念じると、彼女に近づき、そっと手を差し伸べた。
「傷は深いようだな。君たちを安全な場所まで運ぼう。まずは治療が必要だ」
少女は、俺の言葉に迷うことなく頷いた。その瞳には、もはや疑いの色はない。
俺は彼女の身体を優しく支え、他の冒険者たちにも目を向けた。彼らも、能力によって命の危機は脱している。
(彼らが、無事に治療を受けられる場所……)
俺は、意識を集中して「結果」を導き出そうとした。