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過労死天使の異世界奮闘記  作者: ゆうたち
第三章:大都市ヴァルハラ
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第41話:予兆と違和感

透明な天使が消えてから、数日が経った。

あの夜以来、俺の額には、微かなひんやりとした感触が残ったままだった。まるで、そこに透明な何かが貼り付いているかのようだ。しかし、それ以外に、俺自身に目立った変化はなかった。流れてきたという記憶の奔流も、頭の片隅に不快な残滓のように残るだけで、具体的な内容として思い出せるものは何一つない。

(あれは、一体何だったんだ? 夢だったのか? でも、この感触は……)

俺は、度々額に触れては、その違和感を確認した。しかし、何も変わらない日常が続いた。エルドゥランの空は相変わらず穏やかで、家族会議もなく、任務もなかった。それは、スローライフを求める俺にとって、本来なら歓迎すべき状況のはずだった。

だが、俺はどこか落ち着かなかった。

俺の内側で、何か微かな、しかし確かな「ズレ」が生じているような感覚があった。それは、俺の「全ての結果を改変する能力」にも影響を及ぼしていた。以前よりも、ほんのわずかだが、能力の発動にラグが生じるようになったり、対象に意図しない「ゆらぎ」が発生したりすることがあったのだ。

些細な変化だった。しかし、この世界において、力の精度は命に直結する。俺は、自身の内側で何が起こっているのか、漠然とした不安を感じ始めていた。

そんなある日、俺はイリス姉さんに呼び出された。

「ルカ、最近、少し顔色が悪いわね。何かあったの?」

イリス姉さんは、紫の瞳で俺を心配そうに見つめた。彼女の紫の髪が、優しく揺れる。

「いや、別に。ちょっと寝不足なだけだよ」

俺は、透明な天使のことを話すべきかどうか迷った。しかし、自分でも何が起きたのか正確に説明できない以上、兄姉たちに余計な心配をかけたくなかった。それに、俺の記憶が曖昧なままだと、彼らも信じてくれないだろう。

「そう? ならいいんだけど……。でも、最近、世界の均衡が、また少し不安定になっているような気がするの。特に、次元の境界が、以前よりも揺らぎやすくなっているわ」

イリス姉さんの言葉に、俺はハッとした。次元の境界の揺らぎ。それは、俺の額に残る違和感と、能力の「ズレ」と、何らかの関連があるのだろうか。

「何か、前触れのようなものはあった?」

俺は思わず尋ねた。

イリス姉さんは首を傾げた。

「いいえ。ただ、漠然とした予感よ。ヘリオスも、同じように感じているみたいだけど、具体的な異常はまだ報告されていないわ」

俺の胸に、新たな不安が広がる。あの透明な天使の出現と、その後の自身の変化。そして、世界の均衡の微かな揺らぎ。全てが繋がっているように感じられた。

(まさか、あの時の……。いや、でも、何一つ思い出せないんだ)

俺は、あの夜の出来事が、世界の、そして自分自身の、知られざる変化の始まりであることに、まだ気づいていなかった。しかし、確かなことは、俺のスローライフが、見えない糸によって、再び大きな運命のうねりへと引きずり込まれようとしているということだった。


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