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過労死天使の異世界奮闘記  作者: ゆうたち
第二章:アルドゥール王国
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第34話:帰還

『均衡の要』を一時的に安定させたものの、ゼノスからのさらなる協力要請に、俺は眉をひそめた。これ以上、この王都で仕事に巻き込まれるのは、俺のスローライフに反する。

「申し訳ありませんが、ゼノスさん。俺の任務は、あくまで『均衡の要』の不安定化の原因究明と、一時的な安定化でした。根本的な解決については、俺の範疇を超えています」

俺はそう言って、ゼノスから距離を取った。これ以上深入りすれば、間違いなく「定時で帰れない天使」になってしまう。それは、俺が最も避けたい未来だ。

ゼノスは、俺の言葉にわずかに顔を曇らせた。

「しかし、貴様ほどの力を持つ者が、なぜ……」

「俺は、あくまで一時的な協力者です。それに、この『異質なエネルギー』については、俺もまだよく分かっていません。もし今後、何か進展があれば、ゼリア司祭に報告し、司祭から改めて指示が下されるはずです」

俺は、イリス姉さんから受け取った連絡用の光の石を軽く示した。そうすることで、俺の行動が、エルドゥランの『原初の天使』たちの意向に沿ったものであることをアピールできる。

ゼノスは、納得しきれない表情ながらも、俺の言葉に反論はしなかった。彼の顔には、諦めと、そして依然として残る疲労の色が浮かんでいた。

「……そうか。ならば、無理強いはすまい。しかし、貴様には感謝してもしきれぬ。この都と、世界の安定を救ってくれた」

ゼノスは、深々と頭を下げた。伝説の魔術師にここまで感謝されると、なんだか居心地が悪い。俺は、ただただ自分のスローライフのために行動しただけなのだ。

「いえ、俺も、早くこの問題が解決して、穏やかに過ごしたいだけですから」

俺は正直な気持ちを伝えた。それが、彼にとっては、謙遜に聞こえたのかもしれない。

「うむ。貴様のような清廉な心の持ち主が、この世界の光を護ってくれると信じよう」

清廉な心、か。前世では、上司に「お前は社畜の鑑だ」と言われたくらいなのに。まあ、誤解されてるくらいがちょうどいい。

「では、俺はこれで失礼します」

俺はそう告げると、ゼノスに軽く頭を下げた。ゼノスは、何か言いたげな顔をしていたが、何も言わなかった。彼が再び『均衡の要』の方へ向き直った隙に、俺は連絡用の石を起動させた。

「結果を改変する」

俺は心の中で念じた。「俺が、誰にも気づかれずに、エルドゥランの自室に転移する」。

空間が歪むような感覚もなく、光の都の清らかな空気が俺の肺を満たした。見慣れた自室の窓からは、雄大な雲海が広がっている。慣れ親しんだ、この穏やかな空間に、俺は深く安堵した。

(やれやれ、何とか戻ってこれたな。初仕事でいきなり捕まるわ、伝説の魔術師に封印されかけるわ、挙句の果てに世界の均衡を救う羽目になるわで……本当にスローライフとは程遠い一日だった)

俺はベッドに倒れ込み、大きく息を吐いた。首にかけた銀の首飾りを外すと、再び体から力が湧いてくるのを感じる。しかし、精神的な疲労は半端ではない。

「まずは、ヘリオス兄さんとイリス姉さんに報告しないと、だな……」

そうは思ったが、疲労には勝てない。俺は、そのまま意識を手放すように、深い眠りへと落ちていった。

俺の初仕事は、なんとか終わりを告げた。しかし、残された『異質なエネルギー』という謎と、ゼノスの抱える懸念が、俺のスローライフに再び影を落とすことは、この時の俺にはまだ知る由もなかった。

『均衡の要』を一時的に安定させたものの、ゼノスからのさらなる協力要請に、俺は眉をひそめた。これ以上、この王都で仕事に巻き込まれるのは、俺のスローライフに反する。

「申し訳ありませんが、ゼノスさん。俺の任務は、あくまで『均衡の要』の不安定化の原因究明と、一時的な安定化でした。根本的な解決については、俺の範疇を超えています」

俺はそう言って、ゼノスから距離を取った。これ以上深入りすれば、間違いなく「定時で帰れない天使」になってしまう。それは、俺が最も避けたい未来だ。

ゼノスは、俺の言葉にわずかに顔を曇らせた。

「しかし、貴様ほどの力を持つ者が、なぜ……」

「俺は、あくまで一時的な協力者です。それに、この『異質なエネルギー』については、俺もまだよく分かっていません。もし今後、何か進展があれば、ゼリア司祭に報告し、司祭から改めて指示が下されるはずです」

俺は、イリス姉さんから受け取った連絡用の光の石を軽く示した。そうすることで、俺の行動が、エルドゥランの『原初の天使』たちの意向に沿ったものであることをアピールできる。

ゼノスは、納得しきれない表情ながらも、俺の言葉に反論はしなかった。彼の顔には、諦めと、そして依然として残る疲労の色が浮かんでいた。

「……そうか。ならば、無理強いはすまい。しかし、貴様には感謝してもしきれぬ。この都と、世界の安定を救ってくれた」

ゼノスは、深々と頭を下げた。伝説の魔術師にここまで感謝されると、なんだか居心地が悪い。俺は、ただただ自分のスローライフのために行動しただけなのだ。

「いえ、俺も、早くこの問題が解決して、穏やかに過ごしたいだけですから」

俺は正直な気持ちを伝えた。それが、彼にとっては、謙遜に聞こえたのかもしれない。

「うむ。貴様のような清廉な心の持ち主が、この世界の光を護ってくれると信じよう」

清廉な心、か。前世では、上司に「お前は社畜の鑑だ」と言われたくらいなのに。まあ、誤解されてるくらいがちょうどいい。

「では、俺はこれで失礼します」

俺はそう告げると、ゼノスに軽く頭を下げた。ゼノスは、何か言いたげな顔をしていたが、何も言わなかった。彼が再び『均衡の要』の方へ向き直った隙に、俺は連絡用の石を起動させた。

「結果を改変する」

俺は心の中で念じた。「俺が、誰にも気づかれずに、エルドゥランの自室に転移する」。

空間が歪むような感覚もなく、光の都の清らかな空気が俺の肺を満たした。見慣れた自室の窓からは、雄大な雲海が広がっている。慣れ親しんだ、この穏やかな空間に、俺は深く安堵した。

(やれやれ、何とか戻ってこれたな。初仕事でいきなり捕まるわ、伝説の魔術師に封印されかけるわ、挙句の果てに世界の均衡を救う羽目になるわで……本当にスローライフとは程遠い一日だった)

俺はベッドに倒れ込み、大きく息を吐いた。首にかけた銀の首飾りを外すと、再び体から力が湧いてくるのを感じる。しかし、精神的な疲労は半端ではない。

「まずは、ヘリオス兄さんとイリス姉さんに報告しないと、だな……」

そうは思ったが、疲労には勝てない。俺は、そのまま意識を手放すように、深い眠りへと落ちていった。

俺の初仕事は、なんとか終わりを告げた。しかし、残された『異質なエネルギー』という謎と、ゼノスの抱える懸念が、俺のスローライフに再び影を落とすことは、この時の俺にはまだ知る由もなかった。


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