第17話:予期せぬ再会
光の都エルドゥランでの初めての家族会議は、俺にとって情報過多の場だった。長男ヘリオスの威厳、次男アビスの思慮深さ、三男アンバーの穏やかさ、そして次女アリアの儚げな美しさ。彼らは皆、『原初の天使』としての圧倒的な存在感を放っていた。
「ルカ、どうだ? この都での生活は慣れそうか?」
ヘリオスが、温かい紅茶の入ったカップを俺の方へ押しやりながら尋ねた。その視線には、純粋な気遣いが感じられる。
「はい、まあ……。こんなに素晴らしい場所だとは思いませんでした」
俺は率直にそう答えた。確かに、森の隠れ家のような静寂はないものの、ここには前世では決して味わえなかった、本物の安寧があった。過労死とは無縁の、清らかな空気。
「そうでしょ? ルカが私たち家族の一員になってくれて、本当に嬉しい!」
アリアが、銀色の瞳を輝かせながら微笑んだ。その笑顔は、どこか幼さを残している。
俺は、彼らとの会話を通じて、『原初の天使』としての彼らの役割や、この都での生活について少しずつ理解を深めていった。彼らは世界の均衡を守るために存在し、それぞれの役割を粛々とこなしている。俺が担う「四男」の役割についても、これから徐々に知っていくことになるだろう。
家族との団欒は、俺が想像していたよりもずっと和やかで、心地よかった。彼らは俺の転生前のことには触れず、ただ純粋に俺の覚醒を喜んでいるようだった。
その時だ。
俺たちが囲む円卓の中心、磨き上げられた白い大理石の上に、突然、漆黒の光が溢れ出した。光は瞬く間に広がり、禍々しい魔力を放ちながら、複雑な魔法陣が形成される。その魔力は、以前森で感じた悪魔のそれと酷似していた。
(またか!? なんだ、これ!?)
俺は反射的に身構えた。他の兄姉たちも、一瞬にして表情を引き締め、魔法陣に視線を向けた。
漆黒の魔法陣が渦を巻き、その中心から、二つの影がゆっくりと姿を現した。
最初に現れたのは、見覚えのある少年――『はじまりの悪魔』四男、ルークスだ。彼は、いつもの不敵な笑みを浮かべ、その真紅の瞳で俺たちを見回した。
「やっほー、天使さんたち! 元気にしてたー?」
ルークスは、まるで友達の家に遊びに来たかのような気軽さで、片手を上げて挨拶した。その態度に、俺は呆れてため息をつきそうになった。こんな厳かな場所に、こんな形で現れるとは……。
そして、ルークスの隣から、もう一体の悪魔が姿を現した。
そいつは、以前森で俺が逆召喚した悪魔と瓜二つだった。整った顔立ちに、一切の表情がない。深緑色の瞳に、漆黒の髪と鮮やかな緑のメッシュ。そして、漆黒のスーツのような装束と、蝙蝠のような漆黒の翼。まさに、あの時の悪魔そのものだ。
悪魔は、ゆっくりと周囲を見回し、そして俺の顔を捉えた。その深緑色の瞳に、僅かな困惑と、そして強い憤怒の色が浮かんだ。
「貴様……まさか、ここにいたのか……!」
悪魔が、低く唸るような声で俺に問いかけた。その声には、以前森で聞いた時よりも、はるかに強い憎悪が込められているように感じられた。
ルークスは、そんな悪魔の肩をポンと叩き、得意げな顔で俺たち天使に向かって言った。
「紹介するね! こいつがね、この間召喚された僕の同胞、『はじまりの悪魔』の一人、デルアーザだよ! よろしくー!」
デルアーザ。
その名を聞いた瞬間、俺の頭の中に、新たな警告音が鳴り響いた。よりにもよって、なぜこいつがここに。