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過労死天使の異世界奮闘記  作者: ゆうたち
第一章:光の都エルドゥラン
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第11話:スローライフの再定義

ルークスの言葉は、俺の胸に重く響いた。「はじまりの天使」。その事実を突きつけられ、俺のこれまでの常識は音を立てて崩れ去った。過労死した社畜が、ただ運良く天使になったわけではなかったのだ。この世界に根源から存在する「はじまりの天使」として、俺は転生させられていた。

「『ただのんびりしてるだけじゃいられない』……どういう意味だ?」

俺は、動揺を悟られないように努めながら問いかけた。ルークスは、俺の反応を面白がるかのように、さらに笑みを深めた。

「だってさ、君はもう『はじまりの天使』なんだよ? この世界の均衡きんこうを保つ、すごく大切な役割があるんだから」

ルークスは、空に浮かぶ二つの月を指差した。

「見てごらんよ、あの月。一つは光、もう一つは闇。この世界は、光と闇、創造と破壊、生と死……全部が対になって成り立ってる。僕たち『はじまりの悪魔』は、世界の『闇』や『破壊』、そして『変革』の側面をつかさどる。で、君たち『はじまりの天使』は、『光』や『創造』、そして『秩序』の側面を司るんだ」

彼の言葉は、まるで世界の創世神話を聞いているかのようだった。

「僕たちはね、別に世界をめちゃくちゃにしたいわけじゃないんだ。ただ、停滞ていたいしてる世界に『変化』を起こしたいだけ。でも、君たち天使は、『秩序』を守りたい。だから、たまに意見がぶつかることもあるけど、根本的にはお互いが必要なんだよ」

ルークスは、今度は俺の足元、森の土を指差した。

「だけどさ、最近この世界のバランス、ちょっとおかしいんだよね。ほら、君も見たでしょ? 僕の同胞を召喚して、世界を好き勝手しようとする愚かな人間たちがいたでしょ? ああいうのが増えると、世界の秩序が乱れるし、僕らの『変化』も、ただの『破壊』になっちゃうかもしれない。それって、僕も嫌なんだ」

彼の言葉には、悪意だけではない、世界の行く末を案じるような響きがあった。ただのいたずらっ子のように見えて、その実、遥か高みから世界を見つめる存在なのだと理解させられた。

「だからね、天使さん。君がのんびりしたい気持ちはわかるけど、君の力が、この世界の『秩序』を守るために必要になる時が来るってことだよ。僕らは、世界を混沌に導こうとするやつらを放置できない。君も、そうなるでしょ?」

ルークスの真紅の瞳が、俺の目を真っ直ぐに見つめる。俺が、過労死から逃れて手に入れた「スローライフ」を、彼は否定しない。だが、そのスローライフを守るために、俺が動かざるを得ない状況が来ることを示唆していた。

(俺が『はじまりの天使』で、この世界の均衡を保つ役割がある……。それはつまり、俺がこの世界の問題から目を背けることはできない、ってことか?)

前世では、責任から逃げ出し、ただ楽になりたかった。だからこそ、この異世界で「スローライフ」を望んだ。しかし、俺が持つ「全ての結果を改変する能力」と、「はじまりの天使」という存在が、俺に新たな責任を与えようとしている。

それでも、俺はあの地獄のような過労の日々に戻るつもりはない。無駄な労力は使いたくないし、自分の時間を犠牲にする気もない。

だが、もし、俺自身の平穏なスローライフを揺るがすほどの脅威が現れるのなら――そして、それを放置することが、結果的に俺の望まない状況を引き起こすのなら――。

「……お前が言いたいことは分かった」

俺はルークスに向き直った。

「俺は、俺のスローライフを何よりも優先する。だが、そのスローライフを脅かすものが現れるのなら、それがどんな相手であろうと、容赦なく対処する。そのためなら、動くことに躊躇はしない」

ルークスは、俺の言葉に満足げに笑った。その笑みは、不敵でありながらも、どこか期待に満ちているようだった。

「ふふ、さすが『はじまりの天使』だ。君なら、そう言うと思ったよ。ま、僕は邪魔しないから、せいぜい頑張ってよね、天使さん」

そう言うと、ルークスの身体が、まるで幻のように揺らぎ始めた。

「じゃあね。また会う日まで。ああ、そうそう。君の能力、僕らには効かないけど、僕らも君には手出ししないから。それが、僕ら『はじまりの悪魔』と『はじまりの天使』の、不文律ふぶんりつってやつだからさ」

彼の言葉は、警告でもあり、同時に、俺をこの世界の理の中に組み込む約束のようにも聞こえた。

そして、ルークスの姿は、森の闇の中に溶け込むように消え去った。まるで最初からそこにいなかったかのように、彼の気配も完全に消えた。

森には再び静寂が戻ったが、俺の心は穏やかではなかった。

「はじまりの天使」……。俺のスローライフは、どうやら新たな局面を迎えるようだ。それでも、俺は俺のやり方で、この世界を生き抜いてやる。


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