俺は第8突撃艦隊艦隊長ヘルマン=シュトルツ
アナウンスが聞こえる。
《まもなくナサリシス宇宙港に到着、15分後に着艦体制に移行します》
「知らない天井だ」
おそらく普通に過ごしていれば絶対に使わないであろう言葉のうちの1つを使う時が来るとは、、、
俺は起き上がって辺りを見渡す。
ここはどこだ?
無機質な金属の壁、艦内特有の低いモーター音。空調の音が耳にまとわりつく。
壁にヘルマン=シュトルツと書かれた札が掛けられている。
俺の部屋っぽいな。
「あーくっそ、頭いてぇ」
頭がズキズキと痛む。
初めての艦隊指揮で何もない方がおかしいか。
ベッドの縁に腰をかけ、考えにふける。金属の冷たさが足裏に伝わった。
目が覚めてもまだ現実世界に戻ってない上にこの頭痛、本当に夢ではないっぽいな。
「夢でも酔いでもない。つまり、これが最近流行りの異世界転生ってやつか。……笑えねぇな。」
「冗談じゃねえ!」
俺は思いっきり壁を蹴りつけた。
「いてっ」
わけもわからず転生させられただけじゃなくてバチバチに宇宙戦争をしてる世界に転生かよ!
俺は確かにミリオタでSFとかも好きだったけど戦争をしたいなんて思ったことは一度もない。
それに、、、
「普通こういうのってもっとファンタジーしてる世界に転生するだろ!なんだよこの世界、転生した直後に指揮官が戦死して俺が艦隊長?ふざけんな!やってらんねえよ」
思わず息を荒げてしまう。
そう、俺は別に軍人じゃない勝手に転生させられたサラリーマンだ。再度言わせてもらうが決して戦争好きではない。
とにかく考えていてもしょうがない、今後どうするか考えないと何も始まらない。
そんな調子で考え事をしていたら扉がノックされた。
「艦隊長、目が覚めましたか?大きな音がしましたが、何か問題ありましたか?」
今はそれどころじゃねえよ、こっちは転生してようやく落ち着いたってところなんだぞ。
めんどくさいな、よし!寝たふりするか。
「ついさっき起きたところだ。心配かけてすまないな、音のことは、、、気にしないでくれ」
え?
「して、シャルロット補佐官、何か用かな?」
いやいやいや俺喋るつもりなかったんだけど。
「はい、まもなく着艦予定なので艦橋にお戻りください」
「分かった、すぐに着替えて向かう」
「承知しました、準備ができたらお呼びくだい」
「ああ、そうしてくれ」
シャルロット補佐官が歩いて行く音が聞こえる。
「おかしい、今何が起こったんだ?」
俺は寝たふりして無視するつもりだったんだぞ。いや考えてみたら最低だな俺。
って今はそれはどうでもいい。
俺さっき喋るつもりがなかったのに勝手に喋ってたよな?
口が勝手に動いていた。
前の人格でも残ってんのか?
どうなっているんだこの体?
この世界に転生してきてからわからないことが多すぎる。
俺が所属してる組織は?味方は?敵は?
そしてーー俺の転生した意味は?
俺は何も知ることができていない。
転生したことは今となってはもうどうしようもない。
今はとにかく艦橋に向かうとするか。
今後どうするかはまた落ち着いたら考えるとするか。
「うし、行くか!」
俺はコートを着て、ドアを開けた。
「準備できましたか?艦隊長」
「待たせてすまなかったな、すぐに艦橋へ向かおう」
この世界はなんなのか?なぜ俺は転生したのか?なぜ俺の体が勝手に動いたのか?
俺はこの世界とこの体について知らないことが多すぎる。
だけどこれらは今後ゆっくり解明していけばいい。
とにかく今はこの地獄みたいな世界で生き残ってやる。
第8突撃艦隊艦隊長 ヘルマン=シュトルツとして。
こうして俺の地獄みたいな転生生活が幕を開けた。




