表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ゴメンね、藤木くん。

 ======== この物語は基本的にフィクションです =========


「仕方無いよ」。

 ごめんね、藤木くん。間に入った辻野の言葉が有り難かった。


 私は、藤木から貰ったラジコンカーを壊してしまったのだ。

 転落事故とかでは無く、「乾電池」の入れ替えを忘れた為に。

 所謂、「液ダレ」だ。メカに強い辻野が懸命に液を出し、消毒したが無駄だった。

「だから、乾電池少ないからって、言ったのに。」


 中学の時に出来たグループだった。いや、既に出来ていたグループに私が参加したのだ。多いときは総勢6人だった。

 祝井、楠、藤木、辻野、宮下、そして、私。

 私が最後のメンバーだった。

 小学校の学区が違っていたので、知っていたのは楠と辻野だけだった。

 私は楠を通じて参加した。クリスマスの後、宮下は不参加になった。いや、親父さんの転勤で転校になったのだ。


 最初は、漫画好きが集まったグループだった。

 さながら「ミニトキワ荘」のように漫画の話に夢中になった。

 同人誌みたいなのを作ろう、と祝井が言い出し、分担して作画することになったが、私には絵心がないと自負していたし、コマ割りすら自信が無かった。

 締め切り間近になり、私はギブアップした。

「初めてだから仕方無いよ。」この時は、藤木が庇ってくれた。

 実は、私が参加する前、彼らは絵を持ち寄ったことがあったのだ。

 藤木は、白紙のケント紙を出すのは止めた方がいい、と言ってくれた。


 誰が言い出したのか、「お誕生会」をするようになった。藤木だったかも知れない。

 女の子のグループみたいだ、と妹に言われた。お互いの誕生日を確認し、持ち回りで誕生会を開くことになった。

 だが、困ったことが起こった。藤木の家には、友人を招く『色んな意味での余裕』が無かった。

「いいじゃないか。ウチでやろう。」

 言い出したのは、祝井だった。彼は、ずっと、『離れ』で暮していて、パーティーをするのは、うってつけだった。

「お誕生会」は、2年で終了した。見栄を張る者が出てきたから。都度の出費も問題だった。

 普通の「お誕生会」でも、立ち消えになるのは、その辺の事情。

 祝井の家は、割と裕福で、会は、彼の家で行うことが多くなった。

 高校時代、仲良しが昂じて、祝井の家に10日程居候したこともある。

 家人が、「帰って貰いなさい」と言いだし、それは終った。

 大学時代、お互い進路は別れたが、たまに寄っていた。

「お誕生日」でない日に。

 いつしか、会場は楠の家の2階になった。

 別棟の、店の2階なので、あまり近所迷惑にならなかった。


 私が必死で書いた、初めてのアニメシナリオ記念に、一冊のノートに全員で、アニメに沿ったイラストを描いた。「最初で最後の共同作業」だった。


 そして、ある時、楠の家で私は藤木と口論した。

 私の、他のグループで「政治論争」をした時もだが、私は引かなかった。

 この頑固さは、今でも尾を引いている。

 彼は、ある新興宗教に填まっていて、依り代(仏像)があれば、どこでも拝める、新しい宗教である、と以前に話していた。

 にも関わらず、その時、建立(仏像を安置するお堂)の為の寄付を募りだしたのだ。

 それは、話が違う。建物にお参りすることを否定していたじゃないか。それに、この会は、宗教の為の会じゃない、と。

 皆は私に賛同した。

 彼は、グループから遠のいた。


 時は流れ、私は演劇青年になり、祝井と一度目の大げんかをした。


 養成所をクビになり、アルバイトをしていたものの、結局帰郷した私を待っていたのは、「職歴差別」だった。

 世の中は甘く無い。

 何度目かの就職浪人的な、派遣会社からの依頼待ちをしていた時、祝井は、「女房に見つかるとヤバイから」と、馬券とヘソクリを持って来た。

 彼は、高校時代から、競馬依存症だった。

 勝手な奴だと思った。

 結婚式の時、直前まで一緒に遊んでいたのに、結婚式に呼ばないことを彼は伏せていた。

 そして、呼ばれたのは、楠だけだった。

 私は怒ったが、辻野の説得もあって、楠は『グループの友人代表』として参加する、ということにして、辻野、藤木、私の3人分の『結婚祝い』を楠に託した。

 初めから、「予算の都合もあって、1人しか席を確保出来ない」と彼が言えば、すんなり楠を代表として送り出せたのだ。


 競馬のヘソクリと馬券を私に預けた祝井は、馬券の買い方を教授し、私に指定した馬券を買いに行くよう指示し始めた。

 所謂「パシリ」である。初めから共同出資をし、配当するのならいいが、私が買いに行く義務を背負う意味は何か?


 藤木に相談の上、彼と絶交することにした。

 彼に借りていたDVDと共に、馬券とヘソクリを宅配便で送った。

「これ以上付き合えない」と手紙を添えて。

 祝井は、訳が分からない、と留守電に言っていた。

 今も分かっていないかも知れない。


 それからの会は、毎月楠と私だけの時が続いたが、辻野と藤木も参加するようになった。

 正月に、藤木の新居祝いを送ったが、何故か藤木の家に『二次会』的に移動することになった。

 奥さんは、不服顔だった。『祝い』だけで良かったのに、と私は思った。


 何年かして、藤木は行方不明になった。会の誘いを連絡しようとしたが、出来なくなった。息子に尋ねたが、分からないと言う。会社も彼を探している、と言った。

 半年後、彼は帰って来た。彼は、置き薬の会社を辞め、拾われた恩人の勧めでタクシードライバーになっていた。そして、事情が分かった。自動車で車上生活をしていた、と言う。彼は、両親が宗教にのめり込み(先の宗教とは別口らしい)、大きな借金が出来た。

 そして、離婚をし、借金のの追っ手から逃げる生活をしていたのだ。奥さんとは喧嘩別れした訳では無く、送り出して貰った、と言う。


 定年前、楠は、突然会社である銀行を辞めた。

 何故、私に言いづらかったのか、はっきりとは分からない。駅近くの自転車置き場に彼の自転車が見あたらないので、どうしたのか?と尋ねた時にチャンスだったのに。

 でも、ある時、辻野にそれとなく尋ねて貰ったら、辞めていた。


 楠は、辞めたことは認めたが、理由は話さなかった。楠は、叔父のコネで入社した。

 叔父は数ヶ月前、亡くなっていた。庇う人間がいなくなったのだ。

 どうやら、「イジメ」に遭い、「肩叩き」をされたようだ。

 暫く、変な「大人買い」をしていて驚いたことがあったが、定年前に離職したことに原因があるようだった。


 楠が亡くなる数ヶ月前、連絡が取れなくなったので、病院に入院しているかどうか確認した。彼は、以前私が通っていた病院に通院していた筈だった。

 彼は、病院の通院を辞め、クリニックに通っていた。

 連絡が取れた、楠の妹の話で事情が分かった。

 彼は、別の病院に救急搬送され、ICUに入った。

 回復して、一般病棟に移って間もなく、楠は亡くなった。


 2ヶ月後、私の母が倒れ、介護生活が始まった。

 楠の家の、その後も気になったが、毎月墓参りに行くのが精一杯だった。

 楠の墓の場所を教えてくれたのは、藤木だったが、宗教の関係なのか、教えてくれた時以外は、楠の墓参りは行かなかったようだ。


 母が寝たきり生活になる半年位前だったか、私は救急搬送され、『軽度の脳梗塞』になった。

 辻野に頼んで、充電器等を運んで貰った。


 3年後、母が亡くなって落ち着いた頃、SNSで辻野は墓参り行って来たみたいなことを漏らした。カマをかけたが、知らん顔をした。

 藤木は亡くなっていたのだ。


 年金貰っても、給料貰っているから引かれる、と落ち込んでいた藤木だった。

 働いても働かなくても損をする世の中だ。

「他人事」として処理する、リアル版「イワンの〇か」が日本民族を貶めて行く世の中だ。


 彼が、タクシードライバーを辞め、焼酎飲んでいることまでは知っていたが没交渉だった。

 コロナ以降、『会』は存在しなかった。

『傷の舐め合い』は出来なくなっていた。

 恐らく、藤木は辻野に、報せるな、と言っていたのだろう。


 ゴメンね、藤木くん。役に立てなくて。

 辻野もフェードアウトするのだろうか?


 何人もの人間と出会い、何回も別れて来たが、フェードアウトという『自然の別れ』も何度か私は経験している。


 私自身も、いつかフェードアウトするに違い無い。


 ―完―





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ