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イリナが大変。

 目が覚めると、植物や木の枝で作られた小さな籠の中にいた。

 

 《うっ、頭でも打ったか......うわっ!血出てる...》

 

 鈍い痛みが走り後頭部をさすったら手のひらに血が付いていた。

 何が起きたのか思い返すと、オレはミルトの胸ポケットの中に収まって顔を出し道案内をしていた。

 緑に囲まれた獣道を進んでいると、突如気持ち悪い毛虫が宙吊りになっていてミルトとフィーはビビり散らかしながら、それを横の茂みに投げ捨て再び歩き出した。

 その直後に足元の草に隠れた罠に引っ掛かってしまう。

 一瞬の出来事と罠のせいで勢いがついていたのか、羽を羽ばたかせる前に草に隠れた岩か何かに頭を打ち意識が少しずつ消えていく。

 ミルトとフィーが宙吊りになっていて、そこから先の記憶がない。


 《皮肉だな、宙吊りの毛虫の後に自分達が宙吊りになるなんてな...てか、ここはどこだ?この籠はなんだよ出れないじゃないか》


 籠の中から辺りを見渡すと同じような籠がいくつかあった。

 その中には同じ種族の妖精がそれぞれの籠に一人ずつ囚われていた。

 その妖精達は知り合いではなかったが、頼りになるミルト達と離れ心細かった気持ちが少しだけ晴れる。


 《おーい、聞こえてるか?できれば返事が欲しいんだけど》

 〔しっ!静かにして...あいつらが来ちゃうよ..〕


 あいつらって何が来るんだ?オレらを籠に閉じ込めた奴らだよな...なんだか元気がないし、服とか体が汚れているな。


 《なあ、もしかして何日もずっと閉じ込められてるのか?》

 〔そうだけど...まだ、閉じ込められてる方がマシだよ〕

 《どうゆう事だ?閉じ込められている方がマシって?》

 〔籠の中から出されたら終わりなんだよ......惨い殺され方して食べられちゃうんだよ〕

 《惨い殺され方ってなんだよ?...もしかして、オレ達を捕まえたのは食人族か?》


 このアトラ樹海で、籠なんて人工的な物を作って残酷な事をする奴らなんて食人族ぐらいしかいない。

 だとしたら、最悪だ。

 どうにかして、この籠から出て逃げないと...。

 オレは籠を揺らしてみるけど貧弱な妖精では揺らす事すら難しい。


 〔落ち着いて...この籠、私達からしたら重たくてビクともしないよ〕

 《分かったよ、無駄に体力使うし他に何か良い方法を探さないと...》

 〔もう、助からないよ...数日前は捕まった妖精がもっと居たんだけど、もう私とあなたとそこの怪我してる子だけだよ〕

 《そうか、なあさっきも聞いたけど惨い殺され方って?》

 〔細い木の枝で股から口までグリグリって貫通させられるの...そしたら、もう死んじゃってるけど炙られて食べられるんだ〕

 

 絶対にそんな死に方は嫌だと思ったし、一思いにじゃなくグリグリって地獄のような痛みだろ...。


 〔きっと、あなたは何日か大丈夫だよ...捕まえてきてから数日は放置されるし、私とそっちの子はそろそろかな...〕


 そっちの子と呼ばれる妖精は静かすぎて死んでいるかと思ったが、仲間達の惨い死に方を見て心が壊れて現実逃避をしているんだと思った。

 オレ達の力じゃ、この籠はどうする事もできないし頼みの綱はミルトとフィーだ。

 まだ出会って一日も経っていないが、二人とも優しい心の持ち主だとは思うしオレの事を見捨てる程人でなしではないはずだ。


 〔はは...あいつらが来たよ、もう終わりだ...〕


 半裸の食人族達が近づいてきて、オレ以外の妖精の入った籠を開け二人を掴みだした。

 さっきまで話をしていた妖精は取り乱してもがいている。

 

 〔お願い...どうせ死ぬなら違う死に方にさせて、それは嫌だよ...ぅ、うぅぅあああああ!〕


 食人族達は、妖精の服をビリビリと裂いて木で作られた水筒の水を浴びせ汚れを落としているようだった。

 話に聞いていた細くて尖っている木の枝を取り出し妖精の太ももに当てる。

 恐怖のあまり失禁してしまったようで、顔も涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。

 食人族達はわざとその様子を見せつけているみたいで、数日後にはオレも同じ事をされると思うと見ている事ができなかった。


 〔やめて、お願いだからやめてやめてやめて!嫌だ怖いよ!助けて...誰か...〕


 もうあの妖精はダメだと思ったし、オレも恐怖を感じて泣いていた。

 だが、にやついていた食人族達の頭に突如矢が刺さりドサッと倒れた。

 何が起きたのか分からなかったが、後ろの方から聞き覚えのある声がする。


 「イリナー!助けに来たよ!」

 『みぅと、これイリナじゃない』


 ミルトとフィーだ。

 矢はミルトが放ってくれたみたいで、その命中力に驚いた。


 〔あれ...?もしかして助かったの?〕

 「ほんとだ、イリナじゃないね」

 《こっちだ!籠の中だ!》

 『イリナ、泣いてたの?可愛そう...』


 そう言うと、フィーが籠の扉を開けてくれた。

 さっきまで地獄のようだったけど、フィーの手のひらは柔らかくて暖かくて天国のようだ。


 《怖かったし、心細かったし早く助けに来いよな...でも、おかげで助かったよ》

 「頭怪我していない?血が出てるよ」

 《これぐらい、今から起きようとしていた事に比べたら大した事ないよ、それより他の妖精はどうなった》

 〔ひぐっうぅ、私は間一髪でした...ホントに本当にありがとうございます!〕

 《もう一人いたよな、そっちの方は......うわ、フィー見るなよミルト見せるなよ!》


 もう一人の方は木の枝が貫通していて助からなかった。

 おそらく、現実逃避をしていて抵抗する意思も意識もないに等しかったのかもしれない。

 

 《酷すぎるぞ...さっきまで生きてたのに抵抗しなくて、されるがままで声も出さずに殺されて...許せねえよ!》

 「酷すぎる...こんなに小さい妖精にする事じゃないよ」

 

 ミルトはフィーの目を手で覆い見えないように隠している。

 もう一人の妖精は仲間の無残な姿を見て失神してしまい地面に落ちている。

 ミルトは布の切れ端を取り出して亡くなった妖精を包んでカバンにしまった。


 「こんな所じゃなくて、せめてもっといい所に埋葬してあげようね」

 《だな、ミルトありがとな》


 オレの事じゃないし名前も知らない妖精だけど、仲間のために優しく対応してくれるミルトに感謝を述べた。


 「こんな野蛮な奴ら、ほっといたら不幸な目に合う子が増えるよね...ここは多分食人族の集落かな、できるだけ痛い目に合わせるか駆除するか..」

 《ミルトは人の形をしている奴らを殺すのに抵抗はないのか?》

 「抵抗がない訳じゃないよ、でもイリナが殺されるかもしれないって思ったら、さっきの矢もすぐ撃てたし小さな妖精達がこんな酷い目に合うなら尚更ね」


 食人族は実は元人間で、魔物を崇拝している内に魔物化した人間だ。

 同族殺しは少なからずストレスが蓄積されていくものだから、撃退するぐらいなら良いが殺すとなるとミルトの精神に害が及ぶかもしれない。

 オレは心配していたけど、ミルトの目は真剣で悲しさも感じられる。


 「私ができるだけ駆除するから、フィーはイリナを守っていてね」

 『みぅと?』

 

 ミルトはやる気で弓を構え矢を放つ。

 食人族が隠れていたみたいで、見事に頭に命中した。

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