災害を起こすミミズ。
このアトラ樹海に詳しい妖精のイリナが仲間になった。
私の胸ポットに収まって道案内といろんな事教えてくれる。
《ここをしばらく行くと崖崩れでできた下り坂があるんだけど、岩とか巻き込まれて折れた木が飛び出たりしてるから気を付けて下りような》
「イリナのおかげで闇雲に道探しをしなくてすみそうだよ」
《まあな、今まで姿消してこの樹海の中を飛び回っていたから道案内は任せとけよ、ただ崖の下には危ない奴らがいるけど、お前らの身体能力とマナの強さで乗り切ってもらう事になるけどな》
「危ない奴らって?」
《食人族がいるんだよ、とある魔物を崇拝している元人間の集団でどこからか捕まえてくるんだか、人間はもちろんエルフでも魔族でも人の形をしているなら、生きたまま食ってしまう野蛮な集団がいるんだ》
生きたままって..しかも魔物を崇拝してる元人間ってどうゆう事なんだ?そんな恐ろしい奴らとは絶対会いたくないな。
「元人間って?」
《ガンジャラって魔物を信仰しているうちに魔物化したらしいぞ、ガンジャラは人間側の文献には死後の国の使いって伝わってるみたいだな、見た目は上半身は人間の女のようで顔は綺麗なんだよ.....ただ腹が裂けていて脚が見えないくらい腸が垂れ落ちていて気持ち悪いんだ》
人間が魔物化する事もあるのか.....。
少し前に私自身もお腹が裂けて腸が出てきた経験があるから想像しやすかった。
「確かに気持ち悪いね...その魔物も危険なんだよね?」
《危険だし強いよ、それに捕まえた相手を腸で縛り付けて生きたまま頭蓋骨に穴開けて脳みそ吸うらしいぞ》
絶対そんなのに遭遇したくない...、怖すぎるだろ。
《ただ崖の下の森を抜けないと向こう側の国に行けないからな、それにフィーもミルトもお前らが思ってるより見た目に似合わず強いから自信を持ってオレを守れ》
「自信を持てと言うけど魔物と戦った事なんてこの間のイノシシくらいで、私は吹き飛ばされただけで倒しちゃったのはフィーなんだよね.....しかも一発だったけど」
知らない内に体は頑丈になり魔法も強くなっていて、フィーに関しては腕力がすごい事は分かってるんだけど、戦う事に関しては素人だし不安なのは変わりない。
《いいか、普通の人間とエルフの子供じゃホーンピッグなんて素手で倒せないよ...重要なのはマナの純度や量で、フィーみたいに幼くてもマナさえあれば身体能力が大きく向上するんだ、じゃなきゃフィーの細い体でホーンピッグを一発で倒せないし、ミルトも気づいてないだけでフィーからマナ供給されてるから同じ事ができると思うよ》
マナさえあれば、身体能力の上がるのか知らなかったな。
なら、私の腕力もフィーみたいに強くなってるのかな。
何かで試してみないと...この木ならそんなに太くないし高くないから手頃かな、ちょっと殴ってみるか。
立ち止まって目の前の木を思いっきり殴ってみた。
ボキっと鈍い音がして真ん中から折れて倒れた。
「ほんとに力が強くなってる...」
《オレも今のを見てますます安心したよ》
「うん、でも変に自信持つのは危ないから気を付けないと...戦う事に関しては素人なのは間違いないしね」
《まあ、それぐらいの気持ちがちょうどいいか...なあ、フィーがずっと静かだけどどうした?》
私の手を握りそばにいながら、私とイリナの会話を黙って聞いているみたいだった。
まだ話せる言葉が多くはないし、フィーは多分口数は少ない方だとは思う。
それか、私達の話を聞いて会話の仕方を学習しているのかもしれない。
「多分だけど、フィーは私達の会話を聞いて単語とか話し方を覚えようとしてるんだと思うよ」
《そうなのか?フィーはあんま言葉を話せないのか?》
「初めて会ったのは三日前なんだけど、その時に比べればだいぶ話せるようになったよ」
《三日目って全然日が浅いじゃんか、どこで会ったんだよ》
「どう説明すればいいかな......私、魔物に襲われて死にかけて意識がなくなったんだけど、目が覚めたら木が密集した壁みたいになってる空間の中に居てね、その中に綺麗な泉があってそこにフィーが浮いてたんだよね...」
説明が下手で上手く伝えられないし、何が起こっているか私自身も理解できない事が多くて難しい。
《うーんまあ助かってよかったし、アトラ樹海じゃ不思議な事も日常的に起きるから数ある内の不思議体験の一つなのかな》
イリナと話しながらフィーの手を握り歩いていると、地面が大きく崩れてできた斜面が見えてきた。
《おっ着いた、ここから降りれるぞ》
「崖崩れでできた下り坂って聞いてたけど、自然の脅威って恐ろしいね」
《下まで斜面が続いてるから降りれるだろ?足元に気を付けていれば怪我はしないだろうし》
「行けそうだね、フィー足元をよく見ながら降りようね」
『うん、足元ちゃんと見る』
ゴツゴツした岩がむき出していて、折れた木や根っこごと滑り落ちそこらに散らばっている。
転げ落ちたりしたら大怪我をしてしまうから、フィーの手をしっかり掴んで危なさそうな箇所は避けながら降りた。
フィーがついて来れるように、歩幅に気を付けて歩いてるけど一生懸命に着いてきてすごく可愛い。
《あと一応気を付けた方がいいのはワーム型の魔物だな、そいつら基本的には土を食って生きてるんだけど、土から十分に栄養が取れないと生き物を襲う事もあって丸のみにされるらしい》
「要するに肉食ミミズって事でいいの?」
《肉食ミミズってイメージでいいと思うよ、でかくて襲い方も頭の上から丸飲みで生きたまま消化されるらしい》
また生きたまま食べる系か...そいつらも会いたくないな。
《この崖崩れの原因は肉食ミミズなんじゃないかって俺は思ってるけどな、最近大量発生してるみたいで地面の中で土を食い荒らしまくって地盤が不安定になったのが原因だと思ってるよ》
こんな災害を起こすくらい、いっぱいいるのか......気持ち悪い。
《まあ滅多に生き物を襲う事もないから警戒するくらいでいいと思うし、本番は森の中に入ってからだよ》
そんな話をしていると、地面に無数の穴が開いていてイリナの話では肉食ミミズが這い出た跡らしい。
遭遇したくないから、穴からできるだけ離れて歩いた。
下りるのにけっこう時間はかかりはしたけど、無事に怪我もなく危険で気持ち悪い肉食ミミズにも出会わなかった。
《さあ、ここから森の中に入るから辺りを警戒しながら静かに行くぞ》
「食人族だっけ危ない奴らはできるだけ避けたいしね、フィー私から離れちゃダメだからね迷子になったら大変だからね」
そう言うと、フィーが私の腕を組んでピッタリと体を寄せてきた。
可愛いが歩きづらいから手を繋いで歩く事にした。
「何か気づいたらそっと静かに教えてね」
『うん、静かに教える』
さて、この先どうなるか無事に向こう側に抜けられればいいな。