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妖精を捕まえた。

 空が明るくなってきた。

 切り立った崖を背にして、膝にはエルフの女の子が小さな寝息を立てている。


 眠ることなく焚火に木の枝をくべて、森から危険な魔物や野生動物が現れないか見張りもしていたが無事に朝を迎える事ができた。


 「うーん...今日で三日間眠っていないけど、眠気とか疲れとか一切ないし絶対体おかしいよね」


 この崖どうしようかな、一晩いろいろ考えたけど降りるのは無理そうだし...でも引き返して別の道ってもな、飛行魔法とか空中に見えない足場を作る魔法とか使えればいいんだけど。


 『おはよぅ』

 「あっ起きたね、おはようフィー」


 私の膝の上に小さな頭を乗せ目を細く開き呟いた。

 ゆっくりと体を起こし抱きついてきて、私の胸に顔をグリグリと押し付けてきてくすぐったい。

 まだ出会って三日程だが、その無邪気な行為がとても愛おしくて可愛い。


 「うふふ、可愛いなもう」

 『柔らかくて好き』


 フィーが喜んでいるなら、胸が大きくてよかったなって思えるかな。


 私は発育がとても良かったみたいで、自分で言うのも恥ずかしいけど胸がすごく大きい。

 育った町では、男の人の視線が胸に集中している事が多くて恥ずかしくて嫌だった。

 フィーの場合は性別は同じだし小さいし可愛いし、不快感は一切なく愛情が深まるばかりで母性がくすぐられる。

 満足したみたいで、フィーは顔を胸から離してジトっととした瞳で見つめてくる。


 「ご飯食べる?昨日のイノシシの肉ならまだあるよ」

 『うん、食べる』


 よし、じゃあ準備するから離れてね。


 木の枝で作り置きしていた串を肉に突き刺し焚火で炙ると食欲をそそる匂いがしてきて、程よく火が通ったことを確認しフィーに肉を渡した。

 子供らしく口の周りを汚して食べていて、それが可愛くて癒される。

 その様子を見ながら私もお腹を満たし、食べ終わったフィーの口の周り拭いて綺麗にした。


 さて、どう考えてもこの切り立った崖を降りるのは無理だし引き返すのも嫌だ...だったら崖沿いに歩いて下に降りれる道を探してみるか。

 でも、いくら見渡しても端から端までこの高さが続いていて危ないから気を付けないと。


 火の始末や装備の確認をしていて、少しだけフィーから目を離してしまった。

 目を離している間、フィーは空中の一点だけを見つめていて素早く手を伸ばし何かを捕まえて、それを私に見せてきた。


 《なんだよ、オマエ離せコノヤロー!》

 『みぅと、コレ』


 フィーの右手に握られていたのは、手のひらサイズで羽が生えてる女の子だった。


 「えっ、なになに?うわっコレ妖精じゃないかな初めて見たよ」

 《珍しそうに見てんじゃねーよ!早く放せって羽に傷がつくだろうが!》

 「小さいのに迫力があるね...フィーかわいそうだから放してあげようね」

 『うん、わかった』


 フィーは妖精を自由にしてあげたが、まだ怒っていてフィーの頭をその小さすぎる両手で激しく叩いてる。


 《おかしいだろ...オレの姿は見えないはずなのに、どうして捕まえる事ができたんだよ!》

 「普段は見えないの?そうゆう魔法が使えるの?」

 《魔法って言うか種族的な固有能力で妖精は小さいし貧弱だから、そこらの鳥とか虫にだって狙われるから普段は姿を見えなくしているんだ》


 確かに、ここまで体が小さいと鳥でも虫でも命に係わる脅威になりそうだ。


 「姿が見えなくなるとか便利だね、今は見えているけど大丈夫なの?」

 《ああそうだな、ちょっと待て..どうだ見えないだろ!》

 「いや、ばっちり見えてるよ」

 《そんな馬鹿な.....おい!どうゆう事だ!お前のせいか?》

 「ちょっと、あんまり怒らないで悪気はなかったと思うし、あなたが珍しくて捕まえちゃっただけだよ」

 《オレにとっては死活問題なんだよ責任取れ!》

 『ごめんなさい...』


 フィーの方を見ると、不安そうで泣きそうな声で小さく謝った。

 この数日歩きながら言葉を教えていて、もし悪い事をしたらごめんなさいって謝るんだよって教えていた。

 物覚えが早いというか、初めはあぅとか、うぅーぐらいしか話せなかったのに凄い進歩だ。


 《おいおい泣くなよ、オレが悪いみたいじゃんか.....オレも、大きな声出して怒って悪かったから泣くな...な?》


 オレっ子で少々口は悪いしやたらと声が大きいが、優しい一面を見せてきた。

 さっきまでポカポカと殴ったり叩いてた小さな手で、フィーの頭をよしよしと撫でてなだめている。


 《とりあえず、オレがまた姿を消せるようになるまでお前らに守ってもらうぞ》

 「そうだね、このままだと鳥とか虫に食べられちゃいそうだし...守れるかどうかは分からないけどいいよ」

 《あー頼むぜ、それにお前ら魔物達に避けられてるから安全そうだしよ》

 「えっ、避けられているの?」

 《そうだよ、数日前から純度の高いマナの塊みたいな奴がいるって妖精の間でも噂になってたんだけど、マナを感知できる魔物達はお前らの異様さに恐れているみたいだぞ》


 私達の知らないところで噂になっていて、しかも恐れられているのか...。


 「今まで魔物に遭遇しなかったのは、そうゆう訳か...ちなみにマナの純度が高いのってフィーの事だよね?」

 《ガキ..いやフィーの方だね、あとお前はフィーからマナが流れてるみたいだぞ》

 「フィーから私にマナが流れてるの?もしかして、体が頑丈になったり眠気がなくなったり尿意とか便意とかがなくなったのも影響あるのかな?」

 《尿意とか便意とかは分からいけど、純度の高いマナを受けると疲れとか眠気は回復するって聞いた事はあるぞ》


 なるほど、どうりで疲れも眠気もないのか...少しずつ理解が深まってきたぞ。


 「そうなんだね、でも昨日イノシシに襲われたんだけど、野生動物は私達の事は恐れていなかったのかな」

 《その一部始終は見てたぞ、あれホーンピッグって魔物なんだけどマナの感知が苦手みたいで、遭遇すると所かまわず突進する恐れ知らずだから危ないんだよな》


 見られていたし、それに魔物だったのか.....しかも魔物を食べちゃったよ。


 《あと肉はやたらと美味くていろんな生き物に狙われるけど、案外強くて大体は返り討ちにするみたいだな》

 「食べれる魔物でよかったよ.....あっ遅れたけど自己紹介ねこの子はフィーで私はミルトね」

 《オレはイリナだ、このアトラ樹海の事はけっこう詳しいから何でも聞いてくれ》

 「じゃあ、道案内をお願いしたいかな、この崖の下に降りたいんだけど」

 《それなら、道を知ってるよ案内するけどオレこのまま飛んでたら危ないから、身を隠したいんだけど》

 「それじゃ私の胸ポケットがちょうどいいかな」


 胸ポケットを開くとイリナすぽっと収まって、なんだか快適そうにしていた。


 《柔らかくて気持ちよくて快適だな》

 「くすぐったいから悪戯はしないでね」

 《はいよ》


 あれ、そういえばフィーは?

 私の後ろにいて服を摘まんで寂しそうにしている。

 イリナに怒られたし、ばつが悪くて私の後ろに隠れたのかな。

 

 「フィー大丈夫だよ、イリナはもう怒っていないし意外と優しいから安心してね」

 《意外じゃなくオレは優しいんだよ》

 『イリナ...優しい』

 

 小さな心強い妖精が仲間になって賑やかな旅になりそうだ。

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