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なんだか強くなっていた。

 あの不思議な場所から出て、2日は過ぎたけど運が良いのかな?魔物達と一回も出くわしてないし、フィーと一緒だから安全に越したことはないけど、こうも静かだと逆に不気味だよね。


 『みぅと、これなに?』

 「これは毒がある植物で、触ると皮膚が爛れたりするから手を出したらダメだよ」

 『毒、触らない、わかった』


 よしよし、ほんの数日でけっこう言葉覚えたね。

 物覚えが良いのかな?ひと月くらいすれば、スムーズな会話ができるようになるかもしれない。


 あの不思議な場所を出て未だに食べられる物を見つけられず水しか飲んでいないけど、私もおそらくフィーも空腹感とか疲労感とかは全くなくて体も軽いままだ。

 水は飲んでるから尿意くらいはありそうなんだけど、あの日からおしっこすら一切していないし便意もないし排泄という機能がどこかに消えてしまったような気さえする。

 お腹は空かず尿意便意すらもなくて楽なんだけど、2人そろって変な病気にでもなったかと不安を覚える。

 もしかしたら、エルフはそういう種族なのかもしれないけど人間の私はそんな種族ではないはずだ。


 そんな事を考えながら、しばらく歩いていると大きな野生動物と遭遇した。

 イノシシのような生き物で牙が大きく角を生やし獰猛そうな顔をしていて、今にも飛び掛かってきそうで怖い。


 「うわっ!危なそうなのが出たぞ...逃げれるか?」

 『危なさそう?』

 「フィー手を握って!きっと突進してくるから、ぶつかる前に横に飛ぶよ!」

 

 フィーの小さな手を握り大きなイノシシと向かい合い逃げるタイミングを探っていると、イノシシの顔が急に大きくなったようなノーモーションの突進を仕掛けてきて反応が遅れる。

 とっさの判断でフィーの体を両手で突き飛ばしイノシシの進路から外す事ができたが、私はイノシシの突進をくらい吹き飛んでしまった。

 痛みとか怪我はしていなくて、イノシシとの体格差を考えれば致命傷になっていても、おかしくはないはずだ。


 「あれ?痛くないし怪我もしてなさそう...あっコラ!フィーの方に行くな!」


 イノシシは、私ではなくフィーの方に体の向きを変え走り出す。

 野生動物は弱そうな生き物を狙うと聞いた事はあるけど、確かにフィーは私より小さいし幼く見える。

 私に突き飛ばされたフィーは、ゆっくりと起き上がっていてイノシシはもう目の前だった。


 「フィー危ない逃げて!」


 そう叫んだ時信じられない事が起きた。

 フィーを目掛け突進していたはずのイノシシは、地面にめり込んでいてピクピクと痙攣している。


 『みぅと大丈夫?』


 イノシシの巨体で見えないが、心配そうなフィーの声がイノシシ越しに聞こえてくる。

 状況を確認するため、フィーの方へ向かいイノシシを見ると額の部分が小さく陥没して凹んでいた。


 「フィー、どこか怪我していない?それに何が起きたの?」


 フィーは、全くの無傷できょとんとしていた。

 なんとなく言葉を理解したのか、右手を握り上から下へと振っていた。

 まさかと思い陥没した跡を指で長さを測り、フィーの握っている手と比べてみたらほぼ同じ大きさだった。

 フィーの背は140~150cmの間ぐらいで体重だってすごく軽い、このイノシシは体長で言えば2メートル近くはあり小さなフィーが素手で倒せるとは考えにくいけど...状況を考えるとフィーが倒したのは間違いなさそうだった。


 「とにかく、フィーが無事でよかった...今にして思えば、強くなった魔法で追い払う事もできたよね反省しなきゃ」

 『みぅと、お腹大丈夫?』

 「私も大丈夫だよ、服が破けちゃったけど...心配してくれてありがとね」


 私の服はお腹の辺りが破けていてヘソが見えていた。

 フィーがその部分をペタペタ触っていて心配そうにしているが、大丈夫だよと頭を撫でると安心したみたいで可愛く笑っている。


 さて、このイノシシどうしようか?お腹は減っていないんだけど食料は必要だよね...それにしても大きいな、全部は持っていけないし.....ほとんど残しちゃうよね。

 私でも解体できそうな部位は後ろ足のもも肉かな、お腹は内臓とかいっぱいで失敗しそうだし...あとは、止めを刺さなきゃいけないよね。

 手持ちの小剣じゃ心臓には届かなそうだし、フィーが叩いて陥没させた位置から脳を狙えばいいかな?


 「やってみるか!頼むから反撃しないでね」


 小剣を、力いっぱい突き刺したらビクンと大きく痙攣した。

 私は、ビックリして小剣から手を離してしまう。

 身の危険を感じフィーの手を握って距離をとり、火の魔法をいつでも打てるように身構えていたらイノシシは息を引き取った。

 本当に死んでいるのか少し様子を見てから、急いで小剣を額から抜き汚れを拭きとって後ろ足の太もも付近の肉を頂いた。


 「これくらいかな、たくさん持って行っても食べきる前に腐っちゃうだろうし」

 『...何してるの?』

 「イノシシの肉を食べられる分を頂いたの」

 『食べるって何?』

 「えっとね、そうだ今焼いてみよっか」

 

 火の魔法で、肉を食べ頃になるまで炙って食べやすい大きさに切り分けフィーと与えてみた。

 フィーは受け取った肉をどうしていいか分からないみたいで、私は肉を口に入れ食べてみた。

 すると、フィーも肉を口に入れて嚙み始めた。

 

 「おっ、けっこう美味しいね」

 『美味しい?』

 「うん、意外と臭みはないし肉汁も溢れてくるというか...調味料なしでこの味はなかなかだね」

 

 久々の食べ物がけっこう美味しくて、その場で何度も肉を切り取り次々と炙り焼いていく。

 フィーも肉の美味しさを知ったのか、私から炙った肉を受け取るとすぐ口に運ぶ。

 なんというか、子供らしい不器用な食べ方をしていて可愛くてほっこりする。

 

 「お腹いっぱいだね、フィーはまだ食べられるかな?」

 『お腹...いっぱい?』


 フィーの胃のあたりが少し膨れていて満足そうだ。


 「いっぱい食べちゃったもんね、さてここを離れようか.....こんなに美味しいなら他の生き物も狙いに来るかもしれないしね」


 少し休憩を挟みたいけど、肉の匂いに釣られて危ない生き物がやってくるかもしれない。

 フィーの手を握りイノシシから離れ歩き出す。


 何故か体が頑丈になっていたり魔法が強くなっていたりしても、人間とエルフの女の子二人では戦闘面では不安があるし、できるだけ戦わないで穏便に済ませてたい。


 しばらく歩いていると、開けた見晴らしの良い場所に出た。

 しかし、自力では降りる事ができない程の底が深い切り立った崖が広がっていて、気分が落ち込んでしまう。


 「どうしようか、手持ちのロープではいくら下に垂らしても長さが足りないし...引き返して別の道を探すか?」

 『みぅと、この下すごい』

 「うわっ、フィーダメ落ちるから危ない!」


 崖の下を覗き込むフィーの服を引っ張ったらゴロンとひっくり返った。

 フィーの体を起こして落ちたら死んじゃうし大怪我する事を教えたけど、知らない言葉が多かったみたいであまり理解はできていなかったが、フィーが立ち上がり崖の方に指をさして一言だけつぶやいた。


 『崖は危ない?』

 「そうそう、危ないからあんまり近づいたり覗き込んじゃダメだからね」

 

 疲れてるわけじゃないけど、とりあえず休もうかな。

 そろそろ暗くなるし、火を起こし肉を焼いて夕飯の準備もしなきゃ。


 周囲を見渡し木の枝を集めてきて火を起こした。

 余っている木の枝を串のように研いで、イノシシの肉に突き刺し炙る。

 肉汁が垂れ火の勢いが変化し、その様子を眺めていたら食べ頃になったのでフィーに焼けた肉を渡す。

 子供らしく美味しそうに食べている姿は癒し効果抜群だ。

 それを眺めながら私も肉を食べる。


 「おっ、食べ終わったね口の周りが肉の油で汚れてるから、拭いてあげるから顔出して」

 『うぅ、むぅ』

 「よし綺麗になったね、あれ眠くなっちゃったかな?瞼落ちてきたね」

 『眠くなった...』

 「膝枕してあげるから、こっちおいで」

 『寝る...』


 うんうん寝る子は育つからね、ちゃんと火も魔物も野生動物も見張っているから安心してね。


 ここ二日ほどミルトはほとんど眠っていなくて、夜は身を隠せる場所を見つけてフィーを抱き寄せたり膝枕をして辺りを警戒していた。

 昼間の巨大イノシシの事で、魔法だけじゃなく体が頑丈になっていたりフィーの小さい体から想像できないぐらい力が強いとか、発見がいろいろあって自信がついた事もあり今までより夜の時間を安心して過ごせる。

 まあ、私は突き飛ばされただけだったが。


 『すーすー』


 ふふっ、この可愛い寝顔を朝まで独占できるのは幸せだね。

 朝になるまでに崖をどうするか、もしくは別の道を探して引き返すか考えなきゃな。


 焚火のパチパチと木の枝を燃やす音とフィーの寝息が小さく響き静かで癒しの時間がゆっくりと過ぎた。

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