表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王と勇者が死んだ後、俺が世界の主になる  作者: 我妻 ベルリ
第一章 ヘルエア島の少年編
9/30

第8話 バカ野郎

 目の前に現れた謎の魔法の(シールド)と謎の男。突然現れた事に、この場にいる全員が驚きと困惑で動きが固まる。ガーゴイルも謎の男を警戒して襲ってこない。

 長髪を束ねて後ろで三つ編みに結われた金髪。ラフな服装の下に隠された、鍛え抜かれた筋肉。左側頭部から首筋に描かれた龍の刺青。そして、彼の手に握られた、魔法の壁を作り出している巨大な斧。

 彼はゆっくり振り向き、吠えるように叫ぶ。


 「俺のことを信用できねぇだろうが、話は後だ!俺が壁を作る。その隙に魔法使いのガキと白髪の女は撃ち落とせ!下に降りて来たのを俺の盾に隠れながら撃退!いいか!?」


 名も知らない彼を信用出来るかどうか。そんな事を考える暇も無く、ガーゴイルはこちらにもう一度攻撃を仕掛けて来ている。

 僕とアニーナさんは弓と魔法で撃ち落とし、クミさんとアスは協力しながら斬り殺していく。

 さっきよりも動き易い。それも全て金髪の彼のお陰だ。

 強固な壁。その存在感と安心感は僕達の動きの幅を爆発的に広げる。彼は斧を地面に突き立て、呪文を詠唱して壁を生み出す。これだけで何体のガーゴイルが襲ってこようが、壁の前には無力だった。


 彼のお陰でなんとかガーゴイルを討伐出来た。

 僕とアスはその場に座り込み、クミさんとアニーナさんは何やら話し合っている。その2人にはまだ警戒心が消えていない。目の前に現れた男が信用出来るかどうか。その問題は解決していない。咄嗟に助けてくれたが、その代価に何か要求してくるかもしれない。2人は武器から手を離さない。

 そんな2人を気にしながらも、金髪の男は僕達に向かって吠え始めた。


 「バカ野郎ッ!!!」

 『!!??』


 その場にいた皆んなが目を丸くする。それもそのはず。見ず知らずの彼に言われた最初の一言は罵声だったのだから。


 「ここはガーゴイルの巣だ!天井の割れ目が見えねぇのか!それにガキが来る場所じゃねぇんだよ!死にてぇのか!」


 彼の言葉は止まらない。「動きがぎこちない。初心者のくせに」とか、「ここよりもあっちの道のほうが敵が少ない。そんな事も知らねーのか」とか。彼の説教は止まらない。

 そんな彼を止めたのは、さっきまで息を潜めていたチャックマンさんだった。

 

 「とりあえずっ!!一旦 迷宮(ダンジョン)から出ましょう。金髪ちゃんの事も知らないし、私達も出鼻を挫かれて、形成を立て直したい。そうでしょう?」


 双方ゆっくりと頷き、出口へと歩き出す。

 

 ○ ○ ○


 迷宮から出て来た後、僕達はとりあえず酒場へと向かった。

 果物の盛り合わせと飲み物が揃った所で、話は本題はと入る。


 「それで?金髪ちゃんは一体どこの誰なのかしら?助けてくれた事は感謝しているけど…あなたの立場は今、この果物の盛り合わせのパイナップルとおんなじよ?」


 そう言うと、盛り合わせの一番上に盛られたパイナップルの一切れをフォークで刺し、口へと放り込む。

 パイナップルは一番上に盛り付けられている為、不安定で今にも崩れそうだ。

 金髪の彼は、そんなパイナップルに一瞬視線を移し、チャックマンさんに視線を戻す。


 「俺はジン・ダークベル。俺の師匠を追ってダンジョンに潜ったんだ。そしたら、いかにも初心者みたいな動きをしてる奴らが襲われてたから、助けてやったんだ」

 「………ダークベルさん。あなたの師匠って言うのは………………」

 

 クミさんは静かに質問する。クミさんの目は彼では無く、魔法の斧に向けられていた。


 「ジンでいい。…ああ、そうだよ。一目見てわかったぜクミ・ヴィバール。師匠の言ってた通りだな」

 「えぇっと?クミさん?どう言う事ですか?」


 僕の質問にジンが答えた。


 「俺の師匠の名はボーガス・ダイヤス。元メシア騎士団の戦士だ」

 「ええ!?」


 クミさん以外の全員は驚きを隠せず、大声をあげてしまう。周りの客から一斉に視線を浴びる。

 ボーガス・ダイヤス。兄と同じメシア騎士団の戦士。大陸一の力持ちで特殊な盾を使っていた。

 そんな伝説的な戦士が永久(とこしえ)のエルダに?疑問が疑問を呼ぶ状態。僕達はさらに混乱する。


 「詳しく話して貰えますか?」

 「ああ。俺もそのつもりだったしな」


 そう言うと、ジンは酒を一口だけ飲み、話し始める。


 「俺は戦争で家族を失った。そんな俺を拾って育ててくれたのが師匠だった。12歳で家族を失って、拾われて、そこから師匠と一緒に旅をして来た」


 って事は…ジンは17歳か。僕とアスと同じ様に第一次 魔族滅却(まぞくめっきゃく)戦争で大切なものを失っている。


 「この街に来た時に、迷宮の変動がパターン化したって聞いた師匠が凄い驚いた反応をしたんだ。「ありえん。何か変わってしまう原因があるはずだ」ってな」


 クミさんと同じだ。5年前から変わったらしいけど、僕達もその深刻さを理解できない。


 「それで、師匠は俺を残して1人で迷宮に潜ったんだ。俺も反対したけど、危険だって言われてたし…師匠の凄さは俺が一番理解してたからそのまま行かせちまった。でも、1週間…2週間経っても帰ってこない。だから、俺は後を追って潜ったんだ。ここ数日潜り続けたが、手がかりゼロ。そんな時にお前達と出会った…って感じだ」


 ジンは口の渇きを潤す様に酒を一気に飲み干す。

 彼の人生、そして迷宮への目的が知れた所で、アニーナさんが酒を飲みながらクミさんへと質問をする。


 「………さっきの話からして、あなたもメシア騎士団なんですか?」

 「え?…ええ、はい。元メシア騎士団の剣士。クミ・ヴィバールです」

 「ぶっ!」


 アニーナさんは酒を吹き出し、咳き込む。僕はアニーナさんを(なだ)めながら疑問をぶつける。


 「名前は知ってたんじゃ?」

 「…ゲホッ。クミという名前しか登録されてなかったし、まさかそんなお方だと、僕達が思わないじゃないか!ゲホッゲホッ」

 「あら、アニーナちゃんと違って私はわかってたわよ?さっきも咄嗟にどう動くのか見てたけど、あれは本物ね」


 ここでチャックマンさんが、なぜガーゴイルに襲われた時に息を潜めていたのかが明らかになった。クミさんの正体を炙り出すための行動だったらしい。


 「は〜?君だけ見抜いていたって言うのか!?じゃあなんで僕に教えてくれなかったんだ!」

 「気づいてると思って〜。アニーナちゃんの勘の悪さを侮ってたかしら?ごめんなさ〜い」

 「クソオカマ野郎が!僕を馬鹿にしやがって!」

 

 酔いもあるのか、アニーナさんが段々ヒートアップして行く。

 それをなんとか止めながら、話は移り変わる。


 「それで?どうするのよ。私達は目的もバラバラ。迷宮に潜るの?このままおさらば?」


 チャックマンさんの言葉に、皆んなが静かになる。自分のすべき事を考えている。

 僕達の目的は、ただの修行。アニーナさん達は小遣い稼ぎ。ジンはボーガスさんを探す事。皆んな潜る目的はあっても、バラバラだ。

 そんな中、クミさんが口を開く。


 「私は……ボーガスを探しに行きたいです。いえ、探しに行くべきです」


 クミさんの以外な提案。その理由をこの場にいる全員が知りたがる。


 「理由はボーガスと同じです。私も迷宮の変化に違和感があるんです」

 「師匠と同じ?」

 「ええ。私の知る限り、数百年も変化しなかった迷宮が突然変化するのはおかしい。普通はあり得ません」

 「クミちゃん、それは魔王が討伐されたから…」

 「いいえ。魔王が生まれる前からあった永久のエルダが、魔王の命と繋がっているはずがない。……迷宮が変化するほどの何か…いや、誰かがいる。そう考えるべきです」


 クミさんの表情はどんどん暗くなっていく。

 つまり、迷宮は誰かによって変化させられているという事。そんな人物が存在するのかどうかはさておき、そうなるとボーガスさんが危ない事になる。


 「し、師匠は?」

 「ええ。流石の私も心配です。…私はここにいるメンバーでダンジョンレースに出たいと考えています。ボーガスの事ですから最深部まだ潜っているはず。最深部まで潜るには、レースに参加するのが一番早いと思います」

 「え?」


 複数の冒険者が一斉に潜る迷宮競走(ダンジョンレース)は、確かに最深部まで潜る時には大勢の冒険者が居た方が潜りやすい。

 それでも、僕とアスは思わず声を上げる。理由は簡単。実力不足、足手纏いだ。アニーナさん、チャックマンさん、ジンとクミさん。僕達2人との実力差は明らか。


 「クミさん、僕達はこの迷宮に修行出来てるんですよね?僕達にはレースに参加できるほどの実力はありません」

 

 アスの言っている事は間違いじゃ無い。僕も半年間修行はしている。でも、それは生き延びれる最低限の実力。アスに関しては護身術程度の剣術のみ。他の冒険者とは雲泥の差だ。

 しかし、クミさんはアスの言葉を理解した上で話す。


 「レース開始まであと1週間ほどあった筈。その1週間で、あなた達に基礎を叩き込みます。不安なのはわかりますが、私の目的は人探し。レースの最前線で争う冒険者達の一歩後ろを行けば、敵も(トラップ)もある程度回避して行けるでしょう」

 「冒険者の後ろを行って、僕達はボーガスさんを探す。財宝に夢中になってる奴らに邪魔される心配もないって事か」


 アニーナさんは顎に手を当てながら考え込む。


 「この場に居る全員が協力すれば、特に難しい訳でもないと思います。……どうですか?」

 「私は賛成よ。小遣い稼ぎのつもりだったけど、これだけ面白くなって来たなら、この波に乗らないとっ♡アニーナちゃんはどお?」

 「…そうだね。僕も賛成だよ。やらない理由がない」

 「俺は言うまでもねぇ。師匠を見つけられればそれで良い」

 「ノアとアスは?あなた達には無理を承知で言っています。自分の思った事を話して下さい」


 僕とアスは一瞬目を合わせた。

 お互いの目には固く決まった覚悟が映し出されていた。


 『やります!!』


 僕達の揃った返事にクミさんはゆっくりと頷いた。


 「それじゃあ今から私達はチーム。何があっても裏切らず、助け合うの。ほら、皆んな飲み物を持って」

 「飲み物ですか?」


 僕の質問にチャックマンさんは「知らないの?」と聞いてくる。飲み物を酌み交わす事は、結束や団結の意味があるんだとか。仲間を迎える時にするらしい。エデル村でずっと1人だったので、こう言った風習は知らなかった。


 「それじゃあ…私達は()()()()()を誓い、()()()()()()と明るい未来を信じて…カンパーイ♡」

 

 初めて人達とこうして近い距離で話し合い、誓い合った。僕は人見知りのはずだが…気づけば、そんなものは忘れていた。




 酒場の少し離れた席。ノア達の座る窓側の席とは対照的に、店の奥の薄暗いテーブル席である冒険者達がノア達を見つめている。まるで、狼が獲物の兎を狩るために観察する様に


 「おい、アイツらの顔覚えとけ」

 「……珍しいね、あんな奴らを気にするなんて。あんなガキがいるグループなんて気にする必要無いでしょ」

 

 長身の男と黒髪の女が、周りにかからない様に静かに話す。

 長身の男は何杯目かも分からない酒をグッと一気に飲み干す。


 「アイツぁ化けるぜ?俺の鋭い勘だ。……鋭い俺の勘♪ 撃っちまう俺のgun♪ 風穴開けるBANBANBAN♪」

 「また変な歌作らないで。あと、歌わないで」

 「るせぇっ。これは俺の生命活動だ!ラップがmylife!とにかく、アイツらを見とけ。………いつでも殺せる様にな」


 競走(レース)は既に始まっている。獲物を狩る狼の存在を知らぬまま、ノア達は迷宮競走(ダンジョンレース)の準備を始める。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ