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魔王と勇者が死んだ後、俺が世界の主になる  作者: 我妻 ベルリ
第一章 ヘルエア島の少年編
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第7話 ダンジョン

 冬がゆっくりと溶かされて、森には小動物の活気が戻りつつある。

 エデル村を離れて、もう1週間が経った頃。僕達は迷宮都市カルスに訪れていた。

 今まで訪れた場所で一番大きな場所。初めての「都市」に僕とアスは驚きながらも、目を輝かしていた。


 大勢の人が行き交い、商人の力強い声が聞こえてくる。見た事もない食べ物、煌びやかに光るアクセサリー、そして大量に並べられた武器の数々。大剣、片手剣、盾に斧。魔法の杖に薬草まで、幅広く備えられている。

 

 武器屋の前で立ち止まった僕とアスの後ろから、クミさんは「なぜこんなに揃っているのか」。その訳を話してくれる。


 「この街の真ん中には、『永久(とこしえ)のエルダ』と言う迷宮(ダンジョン)があるんです。数百年もの間、その迷宮を攻略できた人物は1人もいません。その迷宮を攻略しようとする冒険者が集い、最初は小さな集団だったのが、村になって今の街へと発展したんです。ここに訪れるほとんどの人物が迷宮攻略を目的としていますからね」


 クミさんは街の中心部にある大きな三角形の建物を指差す。

 あれが永久のエルダ。地表に出ているのは、全体の約3%にしか満たないらしく、その大部分は地下に埋まっているらしい。

 僕達は迷宮に向かって歩き始めた。迷宮に近づくにつれて、冒険者や商人が増えて来た。騎士の人も居て、迷宮に流れ込む様に人々が一ヶ所に集まっていく。


 「ここが永久のエルダです。実は、明日はここに潜ろうと思ってます」

 「え?!急に!?ノアはまだしも、僕は護身用の剣術しか身につけてませんよ?」


 僕達はクミさんの急な提案に驚きを隠せない。特に、アスは本格的な剣術を扱っているわけじゃ無い。不安は僕以上だろう。


 「だからですよ。確かに、下に行けば行くほど魔物も(トラップ)も強く、多くなる。逆に、浅い層は簡単です。未攻略の迷宮と言っても、1から10層で湧く魔物は今のあなた達なら余裕で倒せるはずです。ヘルエア島を出た後の旅はもっと過酷になります。その為にも、今このタイミングで力をつけておく必要があります」


 クミさんの説明に納得したのかアスは深く頷いた。

 確かに、下に潜らない限り危険性は低くなる。攻略が目的ではない僕達には丁度いいのかもしれない。


 「じゃあ明日の為に今日は準備ですか?」

 「いえ、迷宮に潜るには『案内人(ナビサポーター)』が必須です。永久のエルダは内部が定期的に変形します。その為、案内人が居ないと迷宮に潜ることすらできません。なので、今日はギルドに行って案内人を探します」


 内部構造が定期的に変化する。変化する迷宮を何年も攻略出来ていない。それが「永久(とこしえ)」の名前の由来らしい。常に変わり続ける迷宮の攻略は容易ではないだろう。

 クミさんについて行き、案内人(ナビサポーター)を探す為に訪れたのはギルドと呼ばれる所だった。

 迷宮に入る為には、ここに名前を登録しておく必要があるのだとか。


 「カルス冒険者組合『エルダギルド』へようこそ。ギルドの登録ですか?」

 「はい。それと、案内人も探しているんですけど…」

 「案内人…ですか………」


 ギルドの受付嬢は少し眉を(ひそ)め、顔を曇らせる。


 「何か不都合でも?」

 「実は……最近、迷宮の変動パターンが解析されて、初の迷宮攻略が出来るかもと言われているんです。それで、ギルド中の冒険者を集めてレースが行われるんです」

 「レース?」


 僕の疑問に受付嬢は頷き、説明を続ける。


 「迷宮競走(ダンジョンレース)。一斉に迷宮へと潜って、誰が一番最初に攻略出来るか競い合うんです。一位の冒険者が莫大な財宝を総取りできる。その為に今は、皆んな血眼になって準備を進めています。案内人もまだ残っているかどうか………」


 冒険者が多かったのは、このレースを聞きつけた人達が押し寄せたからだったのか。


 名前の登録をした後、ギルドの隣にある酒場で休憩しながら作戦を立てることにした。


 「クミさんどうするんですか?案内人、見つかりませんね」

 「そうですね…。レースだなんて…」


 アスとクミさんは頭を抱えて悩む。

 酒場を見渡すと冒険者達で賑わっていた。数百年間も攻略されなかった迷宮が攻略されるとなれば、当然の反応だろう。

 ウエイターが運んできたオレンジジュースを一口飲む。口の中に柑橘の香りと甘みが広がったところで、後ろから突然見知らぬ声が聞こえて来た。


 「ねぇ、あなた達、案内人探してるんじゃない?」

 「え?」


 後ろを振り返ると……不思議な男女が立っていた。

 女性の方は、まるで男性の様なクールな印象を受けた。一本にまとめられた白い髪と高身長は、クールな雰囲気を醸し出している。執事のようなベスト姿が更に凛々しさを感じさせた。

 男の方は………逆に女性らしさを感じ…た。坊主の青髭のおっさん。なのに、チークやアイシャドウに紅をさして化粧している。服も上下ピンク色。ちょっと…いや、だいぶ怖い。


 「あら、怖がらせてごめんなさい♡でも、案内人が居なくて困ってる様子だったから…助けたくなっちゃってッ」

 「えぇ…と、あなた達は?」


 クミさんも警戒半分、不気味さ半分で2人に話しかける。クミさんもこんな人は初めて見たらしい。


 「僕はアニーナ・ブラン」

 「私はチャックマン・ハートよ〜」


 一人称が逆な気がする…。

 僕達の反応なんか気にしていないのか、声をかけた理由を話し出す。


 「僕達もエルダに潜ろうとしてるんだが、2人じゃ不安でね」

 「あな〜た達が丁度案内人を探しているって受付嬢ちゃんが言ってたから話しかけたのよ♡」

 「そうでしたか…ですが、私達はレースには参加しませんよ?上層までしか降りません」


 アスがこちらの目的を伝える。

 ここに居る冒険者の殆どはレース目的。そのレースに参加する意思がない僕達は、当然案内人を探すにも苦労する、と思ったのだけど…。


 「それで良いわ。私達もレースが目的じゃない。ちょっと魔物を狩ってお小遣いを稼ぎたかっただけよ」

 「僕は弓使い兼案内人だ。チャックマンは優秀な戦士だが、君達が加わっくれれば安心して小遣い稼ぎができる。君たちもレースが目的じゃないなら、子供2人を守れる人間が増えて、丁度良いんじゃないか?」


 予想外の利害の一致。確かに子供2人を連れて迷宮に潜る。クミさんの強さは知っているけど、少しでも不安要素を排除しておく事は大切だ。


 「クミさん。良いんじゃないですか?」

 「待ってよノア。いきなり過ぎない?悪いけど、信用できるのか、まだわからないよ」


 僕と対照的にアスは2人を拒絶する。確かに出会ってすぐの相手に命を預けれる程の信用はない。

 クミさんは静かに考えた後、答えを導き出した。


 「……わかりました。手を組みましょう。もし…2人に危険が及びそうになった時は………私が()()斬り伏せます。2人は安心してください」


 クミさんはアニーナさんとチャックマンさんを見つめる。危険な状況は私1人でどうにか出来る。圧倒的な実力を持つクミさんの雰囲気に、2人は一瞬顔を引き()らせる。


 「…わかった。なら交渉成立だな。明日、早速潜りたいんだが、良いか?」

 「ええ。私達も丁度明日潜ろうとしていたので大丈夫です」


 こうしてアニーナさんとチャックマンさんが加わることが決まり、そこで解散となった。

 宿屋に向かった後は、旅の疲れもあってすぐに寝てしまった。


 ○ ○ ○


 次の日の朝。まだ日が上りきっていない薄暗い中でも迷宮に潜ろうとする冒険者は少なくない。

 迷宮の入り口で待っていると、2人がやって来た。


 「全員揃っているな。なら、早速行こうか」


 アニーナさんの背中には荷物と弓が背負われていた。その一方でチャックマンさんは武器どころか、荷物も何も無い。本当にこの人たちについて行って大丈夫だろうか、と心配になる。



 迷宮に潜って1時間。第5層へとやって来た。

 長い廊下をひたすらに歩く。まるで迷路のような道を、アニーナさんは魔法の地図で迷う事なく進んで行く。


 「そう言えば、いつから変動パターンが解析されたんですか?私が訪れた時は、そんな研究すらされていなかったはずですが」


 クミさんはアニーナさんに質問を投げかける。ここには一度訪れた事があるらしい。


 「来たことがあるのか?5年前に、ある冒険者が変動は何通りかの変わり方しかしないことに気がついてね。それで研究し始めたら、たった6パターンしかない事に気がついたんだ」

 「6パターン?そんな筈はない。ここはそんな簡単な迷宮じゃないはずです」

 「そうね。クミちゃんの言う通りよ」

 「………クミちゃん?」


 クミさんは呼ばれ方に疑問を持ったが、それを気にせずチャックマンさんは話し始める。


 「正確には、5年前から急にパターン化した、と言い表したほうがいいわね。丁度戦争が終わった後からね。原因は分かってないけど、魔王が倒されたことが影響していると言われているわ」

 「魔王…ですか」


 会話はそこで途切れた。

 薄暗い廊下を歩いていると、少し(ひら)けた場所に出た。神殿のような造りになっており、不気味な雰囲気が漂っていた。

 クミさんは静かに剣を抜いた。そして静かに呟く。


 「ノア、アス。構えて」


 僕は魔法の杖を。アスは剣を抜く。

 アニーナさんとチャックマンさんも構え、緊張が走る。その時。

 天井の割れ目から3体の魔物が飛び出して来た。羽を羽ばたかせてこちらに突進してくる。


 「ガーゴイルね!アニーナちゃん!」


 アニーナさんは静かに弓を構えて狙いを定め、ガーゴイルを射抜く。2体が力無く落ちて、最後の一体が再度突進してくる。


 「チッ…一体逃した」

 「僕がやります!」


 詠唱し終えた状態で待機していたので、後は狙うだけ。まっすぐ飛んでくるガーゴイルに光線を撃ち込む。


 「魔法弾(マジックバレット)!」

 「ギャァアア!」


 最後の一体も撃ち落とし、その場に一瞬の静寂が訪れる。

 しかし、すぐにその静かさは魔物の断末魔によって失われた。


 「なっ!?」

 「これは…」


 天井の割れ目から出て来たのはガーゴイル。しかし、数が段違いだった。パッと見ただけでも20体は居る。


 「まだ5層なのに…どうして」

 「アニーナちゃん!考えるのは後!ノアちゃんと一緒に出来るだけ撃ち落として!クミちゃんとアスベルちゃんは降りて来たガーゴイルに備えて!」


 チャックマンさんの予想外の判断能力と指示に驚きながらも、目の前のガーゴイルに集中する。

 しかし、数が数だけに劣勢を強いられる。

 1体のガーゴイルがアスに急接近した。一番能力不足なところを狙われた。


 「アス!」

 「っ!?」


 僕が魔法を撃つよりも速くガーゴイルは飛んで来る。

 間に合わない。

 アスに向かって、ガーゴイルは大きく腕を振りかぶった。

 その瞬間、アスの目の前に魔法の(シールド)が現れ、ガーゴイルが吹き飛ばされる。

 僕達の前には、見知らぬ男が飛び出していた。


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