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魔王と勇者が死んだ後、俺が世界の主になる  作者: 我妻 ベルリ
第三章 仙船 大千郷の英雄編
49/50

第48話 仙船大戦 〜震動〜

羅曜(らよう)の「染琉影之院(せんりゅうかげのいん)」は、影を実体化することも可能。

 影を液状と捉え、自由自在に形を変え、攻撃する。

 

 多方面から攻撃を受けるも、丹玄(たんげん)はそれを全て剣で受ける。

 

 「ほう!全て捌くか!ならこれはどうだ?」

 

 羅曜の周囲に影を凝縮した滴が多数浮かぶ。圧縮された影は刃の形に変化し、放たれる。

 目の前に広がる無数の刃に、羅曜は絶望の表情をしていると確信した。

 しかし、その考えは丹玄の顔を見て打ち砕かれる。


 「そんなものが通じるとでも?」

 「…なに?」


 丹玄は、まるで舞の如く華麗に。そして、修羅の如き殺気を放ってその全てを切り伏せる。

 形を崩され、その場に散らばり消える影の中に、燃えるような殺気を滾らせながらも、静かに剣を握る剣士が立っていた。

 

 (舐めてかかったわけでも無いが……。腐っても羅の一族と言うわけか。単騎で突っ込むくらいには腕が立つな…)


 羅曜は丹玄の実力を見直し、魔力を高める。

 丹玄もそれを察知し、大技が来ることを予想して更に相手の一挙手一投足に注視する。


 「見せてやろう。長年の研鑽、秘術の高みを……」


 ○ ○ ○


 場面は清寧(せいねん)平原へと移る。


 互いの軍が一斉に走り出し、入り乱れる戦場。

 四方八方から雄叫びや叫び声、魔物の唸り声が聞こえてくる。

 

 僕らは戦場をまっすぐに駆け抜け、戦場のど真ん中へ辿り着く。

 そして、すぐに全員が戦闘体制へ入る。

 たった1人の前で僕らは陣を組む。

 厄災はただ笑みを浮かべるだけだ。


 「大将自ら赴いてどうする。お前達は俺を討てばこの戦が終わるとでも?」

 

 羅刹は嘲笑うように夕源さんを煽る。


 「いや。だが、君をここで抑えなければそれこそ僕らはなす術がないからね。君に割けるだけの最大戦力をぶつけるのさ」


 夕源さんを始めとした、吾妻さん、僕達を合わせたパーティー。正直、これ程の戦力ならシルヴァトも怖くはないと思う。

 しかし、それでも羅刹の態度は変わらない。それどころか、余裕のような…。僕達に興味がないようにすら感じる。


 「なら、見せて貰おうか…その最大戦力とやらを………」


 羅刹は地面に突き刺していた槍を引き抜き、こちらに向けて刃を向ける。

 それに合わせて夕源さんも矛を構える。


 次の瞬間ーー


 カァアアアン!!!


 2人は激しくぶつかり合い、刃を削り合い火花を散らす。

 2人が互いに距離を取った瞬間、僕とアニーナは遠距離攻撃を仕掛ける。


 「突風(ガスト)(ショット)!」

 「第三門(だいさんもん) 源子圧海(げんしあっかい)の一滴」


 アニーナの矢と圧縮された水弾が羅刹を捉えて放たれる。

 しかし、最も簡単にその攻撃を槍で切り伏せてしまう。


 「ふんっ。つまらんな」


 独り言のように吐き捨てると、標的を僕とアニーナでは無く、クミさん達へと切り替えた。


 「ジン!ボーガス!」


 クミさんは一歩後ろへ下がり、2人は前へ飛び出して息を合わせる。


 「おうよ!」

 「任せな!」


 2人の「天壁不動(てんへきふどう)」は羅刹の突きを弾き返す。


 「ほう……俺の対策はしてある訳だ……」


 「2人とも下がって!!」


 僕は2人にそう叫びながら、無言で魔法弾(マジックバレット)を連続で打ち込む。


 隙をつかれた羅刹に直撃するも、砂煙の中からかすり傷一つついていない姿で現れる。


 「やっぱりこの威力じゃダメか……」

 「小僧…無詠唱での魔法発動か…。少しは面白そうだな」


 そう言うと、羅刹は槍に魔力を込める。


 「知っているのだろう?俺の魔法とその対処を。それが通じるか試してやる」


 羅刹の魔法は「震動」。

 魔力を震動させるだけの単純な魔法。

 しかし、その魔法にこれまで数々の魔法使い、騎士が敗れてきた。

 

 「(羅刹の震動は、魔力を込めたものも震動させられる。つまり、魔力の籠った拳や武器も危険。剣や盾で防いでも内側から攻撃されるから接近戦のクミさん達は不利。なるべく僕がこいつを対処する!)では、試させてもらいますね」


 僕は魔眼を発動させる。

 それを見るや否や羅刹はニヤリと笑い、僕に突進を仕掛ける。

 転身魔法を使って羅刹の背後を取り、刀状の水を数十弾打ち込む。

 しかし、羅刹は槍から魔力を放出し、水を全て打ち消す。


 距離をとりながら魔法を次々放つ。それを羅刹は全て槍で捌き、こちらへ槍を投擲する。


 「(魔力込みの槍!あれを喰らってはまずい!)第五門!超圧咆線(オーバープレッサー)!!」


 杖の先から、限界まで圧縮した魔力が一気に放たれる。光線は槍を打ち砕き、羅刹へ直撃する。

 

 粉塵が舞う中、僕達は砂煙の中を警戒する。


 「やったか!?」

 「いや、こんなものでやられる奴じゃない…」

 

 ジンの期待を夕源さんは冷静に否定する。

 全員が構える中、奴はどこから仕掛けてーー


 グラッーー


 「!?」


 地面が激しく揺れ、地面が唸るような轟音を鳴らす。

 全員が立っている事さえ出来ない。

 羅刹だ。奴が地面に魔力を流して揺らしてるんだ。


 「皆んな!気をつけ」

 「貴様がな」


 僕が警戒するよう呼びかけるより速く、奴は姿を現した。

 地響きで音を消し、一気に距離を詰められた。


 僕は咄嗟に防御するも、それを無視するように体に激しい衝撃と揺さぶりが訪れる。


 「がはっ!?」


 ノアは勢いよく吹き飛ばされる。

 後ろから香薬(かやく)とクミが斬りかかるも、4本の腕がそれをいとも簡単に受け止める。

 そのまま振り飛ばされ、2人は地面に激しく打ち付けられる。


 「我々を災いから護りたまえ。天元楊騎(てんげんようき)!!」


 夕源の背後から、光り輝く巨大な護神が姿を現す。

 握られた巨大な矛を羅刹目掛け振り下ろすも、それさえ羅刹は弾き返す。


 「破砕掌(はっさいしょう)!」

 「なっ!?これも弾くのか…!」

 「この程度か?(えい)の一族が聞いて呆れるな!」


 4本の拳に魔力を込め、腕を広げる姿はまさに鬼神。

 厄災とまで恐れられるその魔法使いは、たった一人で巨大で重い絶望を与える。


 「さっきの小僧。あれが魔眼持ちの餓鬼だな?有する能力は、一度見た攻撃は通じんようにする…だったか。ならば、一度目の攻撃は通じるのだろう?それに、地面の震動は効いていたな。"攻撃"でなければ対処も出来ないか…」


 羅刹は既に羅曜から相手の情報を知らされていた。特に、繁華街でのアスとノアの戦いは羅曜が特に詳細を伝えている。


 「流石…と言ったところでしょうか。総一郎、間に合いましたか?」

 「ああ。ギリギリだったけどね。それでもダメージは大きいと思う。それまで繋ぐよ」

 「ええ。では、行きます!」


 クミ、香薬、アスは剣を構え、一斉に斬りかかる。


 「(何を考えている?接近戦をさせない為の小僧だろ…)死にたがりが…」


 3人同時の攻撃にも羅刹は対処する。3人の剣撃を全て受け止め、攻撃の中の微かな隙にアスと香薬にそれぞれ拳を打ち込む。


 「これで一対一だな。決着を今つけてーー」


 ザシュッ


 羅刹がクミと対峙した瞬間、背後から動けるはずのないアスと香薬が斬りかかった。

 その驚きで固まったところにクミは更に追撃を加える。


 「水仙流 大海一閃(たいかいいっせん)!」


 斬撃が腹部を切り裂き、血が吹き出す。ようやく明確なダメージを与えることが出来た。


 「がはっ…(何故あの餓鬼どもが動ける?体に一撃を喰らっている筈。脳まで震動し、動けなくする筈だ…。なんのカラクリが……)」

 

 羅刹はもう一度注意深くクミ達を観察する。

 そして、戦場の一番後ろ。後方にいる吾妻の存在に気がつく。


 「(あの魔法使い…俺を封印した奴か。魔力を抑え、最小限の魔力で魔法を発動しているな。あれが奴らの生命線か…)小賢しい真似を!」


 羅刹は2本の腕に魔力を込め、それを波動のように吾妻に向けて放つ。


 「!!させるかっ!」


 ジンとボーガスは「天壁不動」で吾妻を護るも、波動は魔法の壁を揺らし、打ち破る。

 吾妻に当たる寸前で、夕源の「天元楊騎」が攻撃を防ぐ。


 「チッ。デカブツが…」

 「気が付かれた!クミさん!香薬さん!」


 吾妻は全員に一度だけダメージを無効にする守護魔法をかけていた。攻撃を喰らえば、また掛け直さないといけないが、羅刹の攻撃も防ぐことが出来る。

 その魔法の存在がバレたことを察したアスは、吾妻への攻撃を止めるため、一斉に攻撃を仕掛ける。

 3人同時の攻撃をまたもや羅刹は受け止める。


 「何度やっても同じこと!この程度で…!」

 「今だよ!ノア!」

 「なっ!?」


 羅刹の死角。完全に存在を消していたノアが、背後から斬撃を放つ。


 「(魔力を使わない剣撃。故に直前まで気が付かれない。この一撃を叩き込む!) 水仙流!覇鯨ーー」


 ノアが渾身の一撃を放とうとした瞬間。

 空気が凍りつくような殺気を全員が感じとる。

 次の瞬間、羅刹の魔力が一気に跳ね上がり、全員を戦慄へと引きずり落とす。


 ノアはその刹那、夕源からの忠告を思い出していた。


 ○ ○ ○


 「"聖域"?」

 「ああ、仙人に伝わる奥義さ。自身の魔力を辺り一面に放って、周囲を自分の魔力で埋めつく技。人間の魔法の中にも結界魔法があるだろう?魔法の壁を築いて相手を閉じ込めたりする魔法。それに近いよ」


 結界魔法は聞いたことがある。魔法の壁で相手を閉じ込めたり、逆に自分を守ったり。広範囲に魔法を展開する、高度な魔法だ。

 「聖域」は、周囲に自分の魔力を撒き散らし、自分の魔力で戦場を埋め尽くす。そうする事で、自分の魔法を四方八方から放ったり、索敵されないようにしたり。戦場をひっくり返す最終手段なのだと言う。


 「本来、聖域は自分の魔法を必ず当てるようにしたり、威力を上げたり…。自分の魔法を数段階上昇させるために使うものだ。でも、羅刹の聖域は違う。あれを展開された瞬間に………」


 夕源さんは一度呼吸を整えてから続きを話した。


 「僕達の負けが確定する」


 ○ ○ ○


 羅刹は3人の剣撃を受け止めながら、静かに。そして厄災と言わしめた殺気を放ち、呪文を唱えた。


 「(われ)、頭を垂らしてつくばう大地。その(いただき)を統べる者。『大地拍動(だいちはくどう)』」


 呪文を唱え終えると、羅刹の背後に巨大な心臓を模した魔力の塊が現れた。人間の心臓とほぼ同じ形。禍々しい魔力が、羅刹の恐怖を戦場全体に知らしめていた。


 その巨大な心臓が


 ドクッ


 と、たった一度拍動した瞬間。

 地面が砕けて足場がなくなり、自分が落ちているのか飛ばされているのか。上下左右、方向感覚が無くなるほどの激しい揺れと轟音。

 ただなす術なく戦場が揺れに飲み込まれていく。

 その波は戦場全体に広がり、敵味方関係なく広がる。

 まさに天変地異。

 めちゃくちゃな戦場の中でただ一人。羅刹の悪魔のような高笑いが轟音に混じって響き渡っていた。

 

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