第46話 太古の厄災
戦闘へ突入し、僕は魔眼を発動させながら夕源さんに教えてもらった事を思い出す。
○ ○ ○
「まず、鳳老院の5人。不徳大帝、蓬莱上帝、冥府大君、煉獄帝君、華国大聖。この5人で成り立っていて、各々が長年の修行の末に身につけた秘術を使う。この秘術をどうにかしない限り、勝ち目はない」
「なら、俺達は各個撃破で…」
「いや、それは危険です」
ジンの提案をすかさず止める。これには勿論明確な理由がある。
「今回戦えるのは、僕達と吾妻さんを含めた8人。人数的にも、元メシア騎士団が3人いる事からも有利に思えますが、僕達はパーティーです。それぞれに役割があって、やっと成り立つ。クミさんは近接で戦えても、吾妻さんは戦えません。逆に、魔法に関しては吾妻さんの右に出るものはいない」
そう。僕達はパーティー。各個撃破にしてしまえば、戦力が分散するというより、役割が果たせずに負けてしまう。
相手がそれぞれ秘術を扱うのなら尚更だ。個に長けた仙人相手に少数で挑むのは無理がある。
「ここは5対8で行きましょう。そっちの方が各役割を果たして戦えます。それに…」
「それに?」
もったいぶった言い方だったから、隣に座るアスがその続きを促すように聞き返す。
「僕には魔眼があります。彼らの秘術も、無効化できるかと」
○ ○ ○
僕らに対して、不徳大帝は自身の秘術「帝烙御前」を発動させる。
範囲内にいる生命、無機物にその体重、またはその重さを加重することが出来る。
自身の武器を加重し、強力な一撃にする事も相手を封じ込める事も可能な力。
しかし、ノア以外の全員が範囲から抜け出した。
残ったノアに不徳大帝は空気を加重し、ノアを地面に抑えつける。
ノア1人に攻撃が集中した隙を狙い、アニーナの弓が不徳大帝を捉える。その矢は地面に叩きつけられ、届くことは無い。
しかし、その隙にノアは「転身魔法」を使い、自身と瓦礫を入れ替えて秘術から抜け出す。
「チッ…小癪な……」
不徳大帝の攻撃を交わした瞬間。次の攻撃が僕らを襲う。
冥府大君の秘術「染琉影之院」。影を自由自在に操る術で、手印を結んだ瞬間、足元から影が細く伸びて矢のようにこちらへ放たれる。
「行くぞ!ジン!」
「おう!師匠!」
『天壁不動!!』
2人の息ぴったりな防御に、秘術が弾かれる。僕はそれを見逃さない。魔眼で既に2人の秘術を適応した。
不徳大帝がもう一度僕の体重を加重するも、僕に対してその秘術は効かない。
「なにっ!?」
「クミさん!」
鳳老院は秘術を無効化されたことにかなり驚いた様子だ。
その僅かな隙にクミさんの一撃が周囲一体を斬り刻む。
「水仙流 泡累々!!」
鳳老院の宮殿は柱を斬られ、そのまま砂煙と共に一部が崩れ去った。
○ ○ ○
僕達はボーガスさんとジンの「天壁不動」で、簡単に瓦礫から脱出する。
しかし、簡単に抜け出したのはあっちも同じようだ。
「おのれ…よくも苔にしてくれたな……人間風情が」
鳳老院と夜宵さんの周囲を囲っている結界。蓬莱上帝の秘術「仙桃山」だ。
結界を展開し、自身や鳳老院達を守る秘術。結界で相手を挟み込むなどの攻撃も出来るとか。夕源さんの情報がなかったら油断していただろう。
鳳老院は個人で完結している。それが故に総力戦に持ち込めば、互いの秘術が連携が取れず、僕達に遅れをとる。
しかも、僕達には最強のサポーターが居る。
「吾妻さん!」
「了解!勇敢な戦士よ。その猛き力に女神の褒美を与えん。汝、祝福の元にその活躍を我に見せよ!第六門 女神の祝福!!」
吾妻さんの魔法で体力、魔力が驚く程増える。まるで自分の体が別人のようだ。
これが最強のサポート魔法使い。
クミさんと修行した半年間の時に、吾妻さんについて聴いたことがある。
クミさん曰く、メシア騎士団の数々の激戦を乗り越えれたのは、吾妻さんが居てくれたかららしい。
それを今、僕はひしひしと感じている。
戦場において、自分の力が底上げされると言う安心感は計り知れない。吾妻さん1人で初心者パーティーも上級者パーティーに化ける。そんな存在だ。
○ ○ ○
崩れ去った宮殿の上で互いに睨み合う。
不徳大帝は今にも血管がはち切れそうなほど青筋が浮かび上がっており、魔力の揺らぎからもその怒りを感じ取れる。
これまで自分達が一番上だったのだから、ここまでめちゃくちゃにされて、さぞ苛立っているのだろう。
「小賢しい羽虫どもが……!やむを得ん!今ここで羅刹の封印を解く!冥府大君!!」
「っ!!合図を出します!全員一斉攻撃!!」
鳳老院が羅刹の封印解除に乗り出した時、僕が上空に魔力弾を放って、天護軍に合図する事になっている。
羅刹の封印解除は誰であろうと即極刑。それは鳳老院も例外では無い。
天護軍は鳳老院を攻撃できる。
封印を解くためなのか、冥府大君の魔力が大量に膨れ上がるのを感じる。
それを防ぐ為、クミさん達は一斉に攻撃を仕掛ける。
その時ーー
「ぐはっ…!?」
鮮血が吹き出し、瓦礫の上に飛び散る。
その血は……冥府大君に秘術で腹部を貫かれた不徳大帝のものだった。
「な、何をしている……!?」
「貴様ら鳳老院の役目も終わりだ。こんな餓鬼どもに足元を掬われるようでは羅刹様の邪魔にしかならないからな」
「貴様……一体…?」
「それを死体がきにするか?」
そのまま不徳大帝は、冥府大君の秘術である影に沈んでいった。
その場の全員が困惑していると、残りの鳳老院も影に飲み込まれていく。
僕達は訳もわからずその場をただ眺めるだけだった。
すぐに夕源さんや丹玄さんも合流し、その場を目の当たりにする。
「なっ!?こ、これは…」
「あれは……羅曜!!」
丹玄さんは、冥府大君のことを「羅曜」と呼んだ。名前を知っている間柄。何故別の呼び名を知っているのか、どんな関係なのか。
それを考える間もなく、冥府大君は僕達に揚々と話しかける。
「ここまでよくやったな。特にそこの小僧。魔眼まで持ち合わせるとは…。人間でなければこの世を支配もできただろうに、残念だ」
「そんな事をはどうでも良いです。あなた達…いや、あなたの目的はなんですか」
「そう事を急くな。まず、私の秘術について話そう」
そう言うと、冥府大君は自身の影を半径10メートルほどに広げ、魔力を高め始める。
「私の秘術「染琉影之院」は、簡単に言えば私の影を操る秘術。しかし、その真価は影を操る部分ではなく、影自体が事実的な異空間である事だ」
冥府大君の影が魔力の高まりに比例して拡大する。
僕達の足元を影に覆われ、僕達全員の警戒が限界まで高まる。
しかし、僕達は動けない。
既に厄災の魔力を。殺気を感じ取ってしまっているのだ。
「私も教えて貰うまで気が付かなかったが、影に沈めたものは、私の任意で魔力へと変換される。鳳老院の連中は、羅刹様を贄として時帝龍を甦らそうとしていたが、逆だ。我らの主人を老人どもの贄によって降臨させるのだ」
冥府大君の前の影がぶくぶくを泡立ち、やがて黒い水柱が上がる。
「さぁ、始まるぞ。鬼神の如き厄災、その全盛が」
黒い水柱共に現れたのは、腕が四本あり、角の生えた魔物のような人間。片方の角は折れており、宍色の髪が靡いている。
仮面が右目の部分以外崩れており、鋭い眼光と薄気味悪い笑みから溢れ見える牙は、僕達の恐怖を掻き立てる。
首を何回か回す度、ゴキゴキと音を立てて首が鳴る。
「はぁ〜〜…………。久しいな…この空気は……。貴様だろ?この時代の栄の護神は」
その目線は夕源さんへと向けられ、それを感じ取った夕源さんは、額に汗を浮かべながら返答する。
「ああ。僕が今の護神の持ち主さ」
「ふんっ。いつの時代も変わらぬな。それに比べて…。そこの紫頭の餓鬼は歴代の栄の中でも逸材と見える。面白い場面に呼んだな、羅曜」
「はっ。お久しゅうございます羅刹様」
そう言うと、羅曜は夜宵さんを拘束し、影を広げる。
「貴様ら、時間をくれてやる。夜明け共に我らは時帝龍を呼び出し、地上にいる人間どもを殺し、戦争を開始する。夕源と言ったな?仙船の全てを注いでかかって来い!我らを止めてみせろ」
そう叫んだかと思えば、羅曜の影が羅刹と夜宵さんを包み込み始める。
「なっ!?まっ、待て!!」
「あ??!!」
僕が連れ戻そうと動くも、その瞬間に鋭い殺気が向けられ、僕は止まる。
いや、止められる。
「この小さい船如き…今落としたっていいんだぞ……?それではつまらんからなぁ…戦の準備を整えてから出直せ。蛆が」
そう言い残し、厄災は影に沈んでいった。
その場に残ったのは、何も出来なかった僕達と瓦礫だけだった。




