第42話 夢廻り〜ハクチュウム〜
青年の名前は麗・丹玄。
飛将さんが数年前に孤児だったところを保護したのだと言う。
家族は居らず、道場で世話をしながら剣を教えていた。
この数年で彼は実力をつけていき、夕源さんに認められて天護軍中将まで上り詰めたのだとか。
現在は夕源さんの指示で不信者の捜索と、鳳老院の監視をしているらしい。
「ノアくんは丹玄に会ったのかい?」
飛将さんは首を傾げてそう聞く。
思わず声を上げてしまったが、此処では初めてなんだ。知らないふりをしなければ。
「い、いや〜?白い髪の人を昨日繁華街で見かけたな〜?と思って」
飛将さんの視線が痛い。流石に適当な嘘だとバレたか?
「そうなのか!まぁ目立つしな!アイツ!」
よ、よかった〜!バレてない!
…これでなんとなくわかった。僕が何故病室で襲われたのか。
恐らく、丹玄さんは不信者…謎の人物を探していたのだ。
謎の人物も白髪の青年も病室でしか見ていない。つまり、2人とも病室に用があったんだ。
謎の人物は、アスを魔物化させようとしている。丹玄さんはそれを阻止、あるいは謎の人物の捕縛しようと動いていたのかも知れない。
そこに居合わせた僕を謎の人物だと勘違いして殺していた。これなら、突然僕が襲われる理由が理解できる。
つまり、
白髪の青年→丹玄さん 敵じゃない
謎の人物→敵
こう言う事になる。
誤解さえ解ければ協力関係に持っていけるかもしれない。
ようやくこの繰り返しにも希望が見えてきた。
○ ○ ○
48回目。
仙船へ来て、夕源さんへ挨拶するタイミングで僕だけその場に残った。
舵取り塔の部屋で夕源さんと2人きり。相手はただ困惑してる様子だった。いや、クミさん達も同じ顔をしていた。
「どうしたんだい?ノアくん。皆んなと行かなくていいのかい?」
夕源さんの問いかけに僕は何も答えない。少しの沈黙の後、僕は覚悟を決めて話す。
「48回目です」
「…ん?な、何がかな?」
「この時間を、僕は48回繰り返してます。『廻夢龍譚』と同じ…って言ったらわかりますか?」
「…!」
夕源さんはハッとした様な顔をした後、眉を顰める。まるで何かを察したかの様だ。
僕はそのまま畳み掛ける様に質問をぶつける。そこには多少八つ当たりも入っていたかもしれない。
このループには少なくとも栄一族が関わっている。夕源さんは直接的には関わってなくとも、何か情報は持ってるはず。なら、それを今此処で洗いざらい吐いてもらう。
「あれは実話ですよね?何か知ってるんでしょ?全て話してもらいますよ」
夕源さんは口を開こうとはしない。ただひたすらに口を閉ざす。
段々と僕の中で何かが沸々と湧き上がってくる。
「48回目ですよ?48回の死を経験したんだ。何度やっても慣れない痛み、恐怖を味わい続けてきたんだ!あなたがなにも知らないはずないでしょ!?結朝さん、夕源さん。あと1人『夜』の字が入った人が居るはずだ。その人を教えろ!!」
僕の荒々しい声が部屋中に響き、さざ波の様に消える。反響した声を聞いて初めて上がった息を落ち着ける。
夕源さんは変わらず顔を顰めたまま。
部屋に沈黙が訪れる。途方もなく長い時間を過ごす気分だ。
その沈黙を破る様にようやく夕源さんが口を開く。
「……まずは謝ろう。君をそこまで追い詰めてしまって申し訳ない。一族を代表して君に謝罪する」
一族を代表する。それはつまり、このループはやはり『廻夢龍譚』と同じ栄一族のものという事。それに僕は巻き込まれたことを指す。
「なんで僕はこんな事に?」
「それについてなんだが…原因はわからない。繰り返される時間から解き放たれる術を知らない。僕は力になれないんだ」
「あなた達一族の術では無いんですか?」
「正確には一族ではない。僕は護神の力。結朝は治癒の力…」
「『夜』の名を関するもう1人……ですね?」
夕源さんは小さく頷く。
やはりもう1人の術。僕のループは「廻夢龍譚」通りなんだ。
だとしたらその人物は…?
「もう1人の名前は「栄・夜宵」さ。僕達は三人兄弟なんだ。僕も久しく見てないよ…ここ何百年間姿を隠してるんだ…。だから、僕も、誰も彼を見てないんだ。君は知らぬうちに彼に出会い巻き込まれた事になる。僕達にもそれを解放させてあげられない」
申し訳そうに頭を下げる姿に、僕の怒りは自然と熱をひかせていた。
謎は解明できても、解放される事はない。
だが、今はそれで良い。
ただひたすらに時間が欲しい。全ての時間を力を変換し、必ずループ後の結果を変える。
まだ僕には変えられる力がない。
僕はまだ足りない。
○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○
○
◾️◾️◾️回目。
既にノアは自身が何回目のループなのか、何回自殺を試みたのかを把握出来ていない。
その数、約500を優に超えている。
約一年もの間、ノアは一回も休む事なく自身の修行へ費やし、その実力は既に別人へと変わり果てていた。
何度も繰り返した仙船の2日目。
夕暮れ時の繁華街は賑わい、周囲からは子供の遊ぶ声、店主のよく響く声、様々な声が聞こえてくる。
人混みの中を割くように僕は淡々と歩く。その雰囲気には似合わない僕の存在はどこか浮いて見えるだろう。
繁華街を歩くと、前に華やかな舞台が見える。集まる人々は煌びやかな舞台上を眺めている。
僕はその中を息を殺して進み、1人の男の腕を掴む。
その男は紫髪の顔の整った男だった。
「久しぶりですね木・月旦さん。いや、栄・夜宵さん」
「………ついに見つけ出したんだね」
この人だと確信したのはもう随分と前だ。と言うのも、彼と出逢ったのは1回目の時。ループする前に出会った後、彼と話す事は無かった。必然的に誰かは突き止められた。
勿論、確信は無かった。が、既に僕の中に失敗することと言う恐怖は消え去っていた。
「時間がありません。来てもらえませんか?」
それだけ言うと、夜宵さんは何かを悟ったのか僕の後をついて来る。
そのまま歩き続け、僕達は夕源さんの居る部屋へ向かった。
「やあ、ノアく………夜宵………?夜宵か!?」
「ああ、久しぶり……だね兄さん」
長い間空いた時間は2人を簡単には近づけない。しかし、もう遠ざかる事はない。
「お二人とも!時間がありません!夕源さんは今動けるだけの軍を繁華街へ!あ、あと吾妻さんも呼んでください!」
「な、急になんだい?突然軍を動かすって…。それに君がなんで吾妻くんが来ていることを?」
「説明は後です!すぐにお願いします!夜宵さんはこのループの解除を」
「……すまない。出来ない」
その一言を聞いて、絶望感を味わうどころか、この状況を僕は予想できてしまっていた。
もう何も感じない。
「僕も解除方法が見つからず、この何百年間1人で魔法を抑えていたんだ。でも、君と出逢った瞬間、魔法が発動してしまった。止まることのない時間のループを君に課してしまった。本当に……すまな…」
「良いです。解除出来ないんじゃないかって思っていたので…。でも、僕は変わらない運命を受け入れる気はありません。夜宵さん、空舟は運転できますか?」
○ ○ ○
舵取り塔から飛び立った空舟は繁華街の上を優雅に飛ぶ。
丁度その時、繁華街から爆発音が聞こえる。
アスだ。
繁華街は黒煙と炎に包まれ始め、人々の叫び声がここまで聞こえてくる。夜宵さんもその光景を目の当たりにして、顔を歪める。
その中、僕は沈みゆく夕焼けを眺める。何度も見た地獄のような街並み。見慣れた…と言ったら怒られるだろうか。
実際に僕は何度も見て、何度も死んだ。今は街よりも自分の目的に集中したい。
アスを無力化してこの夜を越える。
それだけを考えて僕は空舟の縁へと腰掛ける。
「ノアくん?そこは危険だよ!このまま飛んでいると、こっちまで危険に」
「夜宵さんは見ていてください。繰り返した末の結末を」
「え?ちょっーー」
そのままダイビングするように体を宙に投げる。
浮遊感と風を感じて僕は繁華街へと落下する。その先には魔物化したアス。
ようやく君を助けられるよーー
ノアは地面に勢いよくぶつかるかと思たが、空中で体勢を変え、腰に帯刀した剣と左手に握っていた杖を構える。
そして、無音で魔法を発動し直径約50メートルほどの水の塊を作り出す。
その魔法と同時に、ノアの眼光が鋭く光り、禍々しい魔力を放つ。
魔眼 再眼の発動。




