第41話 夢廻り〜ナンドデモ〜
8回目。
飛将さんと吾妻さんの修行で、僕は既に2個新しい技を手に入れていた。
一つは飛将さんが教えてくれた「水仙流 覇鯨」。体の力を抜いて流れるように、最速で相手の懐へ飛び込み、全身に力を入れて最大威力の一撃を叩き込む。
まさに捨て身の一撃。故にその一撃が当たれば戦況を覆すことが出来る。
もう一つは、吾妻さんに教えて貰った「第五門 超圧砲線」だ。
魔力を限界まで圧縮して、超高密度の魔力をぶつける魔法。原型は「魔力弾」と似ていて、上位互換と言える。
魔力の細かい操作を必要としない代わりに、その分圧縮に力を注げる。
もちろん、この二つの技だけでは足りない。
だけど順調だ。このままいければ…。
○ ○ ○
12回目。
「魔眼?」
僕のきょとん、とした顔を見て吾妻さんは小さくため息を吐いた。そのまま横を向くと、今まさにボコボコにされているクミさんを眺める。
「クミは何も教えてないんだな…」
「あはは…ほら、クミさんって教える方じゃないって言うか…」
「あ〜わかる、わかるわ〜。一緒に旅してた時も、体術を教えて貰おうと思ってもアイツの口からは、感覚だ〜とか、ズバッ!とか擬音しか教えてもらえなかったもんな」
なんだか…クミさんらしいと言うか。
吾妻さんはそのまま違うエピソードも話しそうになったが、慌てて話を元に戻す。
「コホンッ、魔眼だったね。魔眼とは、眼に宿る魔法の事で、限られた魔法使いしか使えない眼の事さ。魔力を眼球に込めて魔法を使う。当然体に負担はかかるけど、魔眼はどれも戦況を覆すような能力を持ってるんだ。実際、魔王に対して苦戦したのは魔眼によるものが大きいんだ」
魔眼。これを身につければ、白髪の青年にも謎の人物にも勝てるかもしれない。
「どうやったらその魔眼を身につけられるんですか?」
「う〜ん、長年の修行の末に使えるようになったって人も居るし、生まれつき持ってる人もいる。まぁ生まれつきなんてのは、世界で1人だけなんだけどね」
強力な力にはそれに見合った代償が必要…って事か。思ったよりも希少な力らしい。
実際に今の今まで魔眼なんてものは聞いた事がない。それ程使う魔法使いが少ないと言う事。
しかし、習得の難易度は人間の生きる時間での話。今の僕には関係ない。魔眼を手に入れるのにいくら時間がかかろうと、手に入れるまでやり直すだけ。
僕はまた首に剣を突き立てる。
○ ○ ○
26回目。
魔法「第五門 転身魔法」獲得。
○ ○ ○
29回目。
魔法の詠唱短縮が可能。
水仙流体術を獲得。
○ ○ ○
34回目。
魔法の無詠唱が可能。
アスの魔物化と対峙。戦闘開始の6秒後、死亡。
○ ○ ○
47回目。
いつもなら修行へ話を持っていくのだが、今回は違う。
修行を開始してから既に47回目。日数で言えば1ヶ月半は経っているだろうか。
「そう言えば、なんで吾妻さんは仙船に居るんですか?」
それは単純な疑問だ。単純が故に気にも留めなかった。
何故ここに居るのか。
仙船へ来た事がある吾妻さんなら、呪文を唱えて使者に連れてきて貰うことも出来るだろう。でも、理由がない。
夕源さんとも会って、非常時に呼ばれる腕輪も貰っていることからも、ただふらっと来た訳ではなさそうだ。
僕の問いかけに吾妻さんは少し驚いた表情をするも、きちんと話してくれるようでクミさんも呼んで話をすることになった。
「どうしました?わざわざ全員を集めて」
「まぁね。クミとノアくんにも話しておきたくて」
いつもなら外で修業している時間帯。今回は道場の中で話を聞く。
何故か飛将さんも居て、吾妻さんと飛将さんは険しい表情を浮かべている。
「今回僕が仙船に来た理由を話す前に、ノアくん。君は『羅刹』と言う名を知っているかい?」
「羅刹…確か、魔王に仕えた半魔の魔法使いですよね」
その名前は、旅に出る前の半年間に勉強していた。
羅刹。仙船出身の仙人で、史上最悪の魔法使い。
優秀な魔法使いでありながら、その残虐な行動や思想が原因で仙船を追放された。
その後、魔王へ忠誠を誓い、半分魔物化した異形の姿をしているとか。腕が四本、二本の角、強靭な肉体。強さ、見た目共にまさに鬼神。
確か、仙船に戻って復讐しようとしたけど、クミさん達が封印したとか。
「そうだ。知っているなら説明を省こう。羅刹は今まさに復活しようとしている」
「!?それは本当ですか!」
「ああ。僕がその証拠だ」
羅刹が復活。それは、もう一度厄災が訪れることを指している。
吾妻さんの来た理由はその対処の為。それなら納得がいく。警報が鳴る腕輪もいざと言う時の為のもの。
「でも、あの封印が破られるなんて事はありえません…。奴には魔力を完全に無くす『滅魔の仮面』を総一郎がつけて、体に数百の杭を打ち込んでます。いくら奴だからといってあれをたった数年で破るだなんて……」
「ああ。僕の封印はまだ解けない。内からではなく外からだ」
内からではなく外から。つまりそれはーー
「封印を解こうとしてる人たちがいるって事ですか?」
「その通りだ」
「一体誰がそんな事を!」
僕の問いに飛将さんが口を開いた。
「鳳老院の連中か」
「その通りです。奴らは羅刹の封印を解こうとしている」
「あ、あの…?なんちゃら院って?」
吾妻さんと飛将さんの会話についていけずに思わず話を止めて聞いてしまう。この場でわかってないのは僕だけらしい。
訳の分からない単語にぽかんとしていると、吾妻さんが僕に説明してくれる。
「鳳老院は、長老と呼ばれる300年以上生きる5人の仙人で構成される組織だよ。長い年月生きてるだけあって一人一人が強くて、更に権力も持ってる。まぁ厄介な人達とでも覚えといてよ」
「その人たちは仙人なんですよね?味方じゃないんですか?」
「奴らは味方なんかじゃないよ。いや、誰の味方でもないと行ったほうがいいかな」
飛将さんは苦笑しながらそう語る。
少しばかりため息を吐いてから、飛将さんは鳳老院について話始めた。
「奴らは仙人はもっと高貴な一族で、自分達こそ世界の頂点にふさわしいと考えてる。多分…時帝龍でも甦らしたいんじゃないか?龍を従えさせて世界征服とか?」
「まぁ大体飛将さんの考えであってますよ。奴らは強大な魔力を持つ羅刹を生贄に時帝龍 歳明を復活させて、仙船の世界的な権力の保持、それと自分達の永遠の命を望んでいる。それを防ぐ為に僕が来たんです」
話の内容はどんどん規模が大きくなり、置いていかれそうだ。
でも、「永遠の命」。これには心当たり…と言うか、今の僕のことを指すのだろう。完全に死ぬ事はなく、永遠を生きる事ができる。
いや、歳明は時を操る事のできる能力を持つとか。なら、自分達の時間を止めるかも…。
仙船が三種のうち一体をの龍を保有する。それはつまり、国家を揺るがす武力を持つと言うこと。仙船は空飛ぶ戦艦と化し、世界中が、中央帝国とその傘下の諸国が黙ってない。確実に世界戦争へ発展する。
事態は思ったりも大きい。
「夕源さんはどうするつもりなんですか?」
先程まで考え込んでいたクミさんがようやく口を開く。
確か、夕源さんは仙船の船長だけでなく、仙船を護る天護軍の総大将だった筈。こんな事態になっていて何もしないはずがない。
「夕源さんは表立って動けない。鳳老院相手に好き勝手出来ないさ。この仙船での鳳老院の権力は絶対。だから、僕と飛将さん。それとクミ達にも協力して貰いたい」
「それは…」
「やりましょう」
「え?」
クミさんが答えを渋る。それを待たずに僕が協力を申し出る。
勿論、僕は何度もやり直すから此処での返答は何の意味もない。それでも。
「どうせこのままじゃ、僕達も無関係じゃいられない。それに、ここで見過ごせませんよ」
クミさんは驚いた表情をした後、少しの間俯き、答えを出す。
「わかりました。やりましょう」
「ありがとう!感謝するよ」
このループでやるべき事はアスを救うことだけじゃない。もっと大きなものを僕は背負った。
もっと強くならないと。
「勿論、私も協力しよう。それに、ノアくんもいるなら安心だしな」
「え?僕ですか?」
僕が聞き返すと、謙遜していると肩を叩かれながら笑われる。
確かに繰り返している分強くなっている。が、今の僕じゃアスは……。
「いや、君は本当に強いよ。剣も魔法もとても11歳とは思えない。丹玄も君には勝てないんじゃないかな」
「丹玄って誰ですか?」
「私も聞いた事ないですね」
クミさんも知らないのか、僕と一緒に飛将さんへ質問する。
「ああ、まだ教えてなかったか。数年前に出来た弟子でね?クミと同じ白髪の青年でーー」
「白髪の青年!?」
予想もしなかったところでその正体を知る事になる。




