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魔王と勇者が死んだ後、俺が世界の主になる  作者: 我妻 ベルリ
第三章 仙船 大千郷の英雄編
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第40話 夢廻り〜コワレル〜

 ノアは、度重なる死への恐怖、激痛を合計5回味わった。11歳の子供が到底耐えられるわけがない。

 更に加え、自分の行動が全て結果を伴わない無力感。毎回殺される苦痛。仲間を助けなければいけない焦りから来る過度なストレス。その全てがノアへと降り注ぎ、許容量を超えた。

 ノアは、廃人と化していた。

 意識はあるが、何に対しても無気力。自分から行動する事もなく、歩くことすらままならない。

 ただただ虚空を見つめ、息をするだけの人形に成り果てていた。


 病院へ搬送されてノアとクミ達は、変わり果てたノアを見つめ、結朝(ゆいちょう)の検査結果を待つ。


 「ね、ねぇ?ノアは治るんだよね?」


 香薬(かやく)の問いかけに結朝は返事を渋る。

 空舟(くうしゅう)から搬送された少年、彼は何の異常も無いからだ。身体には何の問題もない。話によれば、寸前まで普通に会話をしていて、少し寝落ちしたかと思えば、こんな状態になっていたとか。

 正直に言って手の施しようがない。結朝の「極楽浄土(ごくらくじょうど)」は、身体は治せても精神には干渉しない。

 つまり、この場では誰もノアを治療することはできない。

 ベットの上でただ静かに息をするだけ。ノアは何も反応しない。


 そして、ノアの自我がほぼ失われ、保てなくなった今。身体及び意識の主導権はもう一つの意識、マリスへと移った。


ーーー

ーー


 意識が移っても暫くは動かない。視線はそのまま動かさないようにし、周りの音を耳を傾ける。

 

 「なんで……なんでよぉ!」


 俺の腕に体重がかけられる。確か…香薬とかいう奴が顔を埋めて泣いている。


 「なぁ、クミさんよ。このままアスと一緒…って事はないよな?」

 「……わかりません。アスに関しては怪我が原因なので治療が可能です。でも、ノアに関しては原因不明。しかも怪我が原因ではないので、治療不可能です。下手をしたらこのまま目覚めない事も………」


 声を聞くに、ジン、クミがノアの体について話していた。聞いているだけでも重苦しい雰囲気が伝わってくる。

 少し話した後、クミ達はここに居ても仕方ないと考えたのか、病室を去ろうとする。しかし、香薬がそれを拒み、俺の腕を強く握りしめる。


 「嫌だ!嫌!ノア!起きてよ〜!なんでなのよ!」

 「……香薬、ここで泣いていても何も解決しない。ほら……行こう……」

 「離して!いや!ノア〜!!!」


 アニーナに連れられ、その声も聞こえなくなる。

 病室が静まり返ったところで、ようやく体を動かす。


 「はぁ〜〜、あいつモテモテだな」


 この前意識が移った時は、「シルヴァト」の時だった。あれはノアが気絶し、一時的に意識が移っただけ。しかし、今回は違う。

 これは、ほぼ完璧に近い意識の掌握。身体も意識もほぼ俺のものになっている。ノアが自力で意識を取り戻すか、俺が返す方法以外にノアがこの体を動かす事はない。


 これだから「仙船は危険」と言ったんだ。

 仙船で何かが起こっている。その事は()えていた。

 ここでノアに何かあれば、不完全な器のまま俺に意識を渡すことになる。今のノアはまだ実力も経験も足りない。俺の器として不完全。


 「仕方ないか…」

 

 俺は立ち上がり、静かに病室を去る。そして、廊下に貼られていたポスターを一枚剥がし、その裏にメモを残す。


 お前にはまだやって貰うことがある。ここじゃ終われないだろ?ノア。


ーーー

ーー


 ……僕は静かに目を覚ます。

 気がつけば、僕は白いベットに寄りかかっていた。

 兄の声が聞こえたような気がして、ゆっくり体を起こすと目の前にアスが寝ていた。


 「あ………れ………?こ……こ………」


 もう死にたくない。もうわからない。

 この繰り返す世界に絶望して、僕は自我を投げ捨てた。

 はずだけど……。

 自分で捨てたはずの意識は曖昧だけど機能していて、手にはポスター?が握られている。それと、腰には剣も。

 もう決めたんだ。何もしない。何をしても変わらないなら、もうこのまま…。

 そう決めた筈なのに。

 僕は自然と手にしたポスターの裏側を見ていた。


 『目的が達せられるまで。そうすれば、望んだものが手に入る。時間は無限にある。その剣を使ってやり直せ。目を向ければなんでもある。頼んだ』


 短い文。その一文、一文字をじっと眺める。


 「兄さん?」

 

 ありえない。けど、目にしている字は間違いなく兄の字だった。

 どうして、どうやって。訳がわからないが、一つだけわかったことがある。

 自分が何をすべきなのか。


 僕は腰に刺さった剣を抜き、刃を…自分の首に添える。


 あの劇…「廻夢龍譚(かいむりゅうたん)」は僕と同じく同じ時間を繰り返す。

 つまり、時間は無限にある。死ぬことで時間が繰り返されるのなら、自分で死ぬ事で時間を調整できる。

 今の僕じゃ何も出来ない。なら、身につけるまで繰り返す。

 それが、僕が導き出した答え。

 兄が伝えたかった事だと直感する。


 「フーッ…フーッ…フッ!!」


 鋭い痛みが走った瞬間、意識はプツンと途切れる。


 ○ ○ ○ ○ ○ ○


 ○ ○ ○


 ○


 肩を揺すぶられ僕は目を覚ます。


 「よし、成功だ」

 「ノア?何が成功なんですか?」

 「へ?あ、なんでもないです!あはは」


 つい口に出てた…。でも、これで証明された。自殺する事でやり直せる。


 ここから僕がやるべき事は三つ。

 一つ目、まずは強くなる。

 兄さんの残したメッセージにあった「目を向ければなんでもある」という言葉の通りだ。ここには飛将(ひしょう)さんと吾妻(あづま)さんが居る。

 なら、あの二人に教えて貰えばいい。何度も繰り返して教えて貰い続ける。そうすれば、強くなる筈だ。

 二つ目、繰り返しからの脱出方法を探す。

 何故、僕が「廻夢龍譚」に巻き込まれたのか。そもそもあの話は本当なのか。内容からして、夕源さんと結朝さんは何か知っていそうだ。

 栄の一族…あれが本当なら、「夜」の名を関する人がいる筈だ。それを調べる。

 三つ目、僕を殺した2人の正体を明かす事。

 僕はアスの魔物化に殺される以外に2人に殺されている。

 白髪の青年と謎の人物。白髪の方は姿を見ているけど、謎の人物に関しては声以外の情報がない。更に、2人ともどこの誰なのか、何が目的なのか。

 それも含めて調べる。


 ○ ○ ○


 クミさんを連れて一度来た道を初めて通る。見えて来たのは飛将さんの道場。

 もう一度門を叩き、飛将さんが飛び出してくるのを待つ。

 ここからどうにかして修行する。その時間を繰り返せば、実質上限なしに強くなれる。

 ただ、飛将さんとは初対面。話をうまく持っていって稽古する流れへ持っていくには…。

 どうするか考えていると、静かだった門が激しく蹴り開けられる。

 今回は飛び蹴りではなく、門の中から飛将さんが仁王立ちで現れる。

 相変わらず怖い。


 「おうおうおう。クミ…久しぶりだなぁ…?」

 「あ、はい……ご無沙汰です…」

 「何年も連絡よこさずプラプラしやがって。いい度胸だ、魔王を討ち取ったからって調子に乗ったその心、叩き直してやる!」

 「ええ〜!?し、師匠それだけは〜…」


 あ、あれ?自然と修行の流れ?こんだけ考えてたのに?


 ○ ○ ○


 クミさんと飛将さんは実戦形式の稽古を始める。

 稽古と言っても、互いに真剣を使った本気の剣のやり取り。

 と言うか、殺し合いに近い。

 見ているだけでも、剣と剣がぶつかる衝撃、音、地面の揺れが離れていてもわかる。

 そして、何よりも驚いたのは、飛将さんの剣技。


 水仙流。流れるような剣筋、相手の攻撃を受け流してカウンターを狙う剣。

 しかし、僕の目の前にあるのは猛攻を仕掛ける飛将さん。クミさんは躱す、捌くことが精一杯だ。

 あのクミさんが押されるなんて…。

 流れるよう。それは剣だけでなく、体捌きまでもが流れているようだ。無駄がなく、技を放つと、そのまま次の技の体制へ構える。

 連撃。止まることのない激流のような体捌きと剣筋。こちらの技は受け流され、防いでも止まる事なく技が飛び出す。

 水仙流師範。それは、流派の達人であり一番の使い手と言う意味だ。まさに飛将さんに相応しい。

 激しい攻防の末、クミさんは剣を弾き飛ばされ、無防備になったところを飛将さんにボコボコに殴られて、その稽古は止まった。

 あんなに殴ることなかったのに…。


 「ふ〜!スッキリした〜!おっ、今のをちゃんと見ていたかな?」

 「は、はい…。ボコボコにされるところまでしっかりと…」

 「あっはっは!大師匠としてかっこいいとこ見せなきゃね!」


 あれはかっこいいと言うより、恐怖を感じるのでは?

 そんな事を聞けるはずもなく、飛将さんの言う事に頷くしかなかった。

 そして、次は僕に修行をつけて貰いたいことを話す。


 「飛将さん!僕にも剣を教えてくれませんか?」

 「……ふふ。クミの弟子にしては根性があるじゃないか」

 「私は…根性無しではありません……」


 後ろで、ボコボコにされて寝て休んでいるクミさんが会話に割り込む。

 それに対して、また怖い顔をした飛将さんがーー


 「ほう?そんな口がきけるなら、まだいけるね?今度は水仙流体術をその身に教えてあげるぞ?」

 「……いえ、なんでもありません」


 クミさんはこれ以上は冗談じゃすまないと感じたのか、口をそこで閉じた。

 最初から閉じておけばいいのに。


 僕と飛将さんが稽古に明け暮れていると、飛将さんが立ち止まり、視線を僕から外す。僕もその方向を見ると、吾妻さんが修行を眺めていた。

 そうか、前もこのぐらいの時間で来たんだった。


 「やぁクミ。久しぶりだね。それと…君は?」

 「僕はノア・ファトリィブです」

 「君が!?……そうか、マリスの弟か。会えて嬉しいよ」


 僕と吾妻さんは握手を交わす。前回は叶わなかったな。

 僕と吾妻さんはそのまま兄の話、僕も魔法を使う事を話した。


 「良かったら少しでも魔法を教えてくれませんか?」

 「お!良いよ〜!僕は体術以外は何でもできるからね!」


 よし!剣だけじゃくて、魔法まで鍛えられる。これを繰り返せば…!


 ○ ○ ○

 

 1時間ほど修行した頃。

 吾妻さんの腕輪から警報が鳴り響く。アスの魔物化が始まった合図だ。

 時間切れだ。


 「これは…!?クミ、飛将さん来てください!ノアくんも………ノアくん?!何してるんだ!」


 僕は無言で真剣を首に向ける。

 クミさんの声は聞こえた。多分僕の自殺を止める発言だろう。そんなものは僕にはいらない。

 クミさんも、飛将さんも、吾妻さんも焦りすぎだよ……。

 僕は大丈夫だから。

 繰り返せば良いんだ。

 繰り返せば。




 

 ザシュッ。


 ○ ○ ○ ○ ○ ○


 ○ ○ ○


 ○


 肩を揺すぶられ僕は目を覚ます。


 

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