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魔王と勇者が死んだ後、俺が世界の主になる  作者: 我妻 ベルリ
第一章 ヘルエア島の少年編
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第3話 エデル村の暮らし

 ここは、アルカナ大陸の最東端「ヘルエア島」。そのヘルエア島の更に端にある小さな村「エデル村」は、周辺を森に囲われ、自然豊かな場所だ。村の真ん中には村長の家があり、皆んな優しくのどかな村。そんな場所で僕は育った。

 辺りは畑に囲まれて、秋になると収穫祭が行われる。

 夏の終わり頃から始めたクミさんとの修行は、既に2ヶ月が過ぎていた。


 「はあっ!くっ!おりゃぁあ!」


 右側から首を狙った大振り、左脇腹を狙った突きからの足払い。

 見える。段々と剣筋が見えて来た。

 片手のクミさんとなら少しは戦える様になって来た。

 とは言っても、クミさんは大分手加減してくれている。クミさんからの話ではまだ魔族と対峙した時に、ギリギリ生きて帰ってこられるかどうからしい。大陸中を移動して来たクミさんが言うのなら間違い無いだろう。

 木刀と木刀がぶつかり合い、辺りに重い木の衝撃音が響いていた。

 クミさんの頭を狙った上からの一閃。それを待ち望んでいたかの様に、剣で受ける…ふりをして左脚を斜め前に出し、相手の懐に入りながら攻撃を受け流す。

 クミの一瞬驚いた表情。流した剣を素早く一回転させ、振りかぶって、クミさんの右肩目掛けて一気に振り下ろす!


 「やぁぁあ!!」

 「…惜しい」


 当たる…と思った瞬間、僕の会心の一撃さえもクミさんにいとも容易く受け流される。そのまま流れる様にクミさんの剣撃が僕の体に放たれる。

 少しの浮遊感が走った後、地面と強くぶつかる。

 息が上がり、糸が切れた様に呼吸が急に荒くなる。

 クミさんはこちらにゆっくり歩み寄り、手を伸ばす。


 「惜しかったですね。でも、2ヶ月で水仙(すいせん)流の『受け流し』を使いこなせているのですから、充分な成長と言えます」

 「…はい。………でも、実戦になったら歯が立たないんですよね?」

 「………それは、確かにそうですね。もし今、目の前に魔族が現れたとします。そうしたら生きて帰る事ができるかどうか…怪しいところでしょう。でも、焦ることはありませんよ。あなたには才能がありますから」


 クミさんの言葉に嘘偽りはない。子供の僕でもわかる純粋な言葉。だからこそ、クミさんの取り繕った嘘は子供の僕もすぐわかるし、それがつらく感じてしまう。


 ○ ○ ○


 今日は1週間ぶりの休日。

 クミさんが言うには、休むのも修行らしい。魔力、体力、精神力を養うには休む事が不可欠だとか。なので、1日の休みを定期的に設けてくれる。


 雲ひとつない快晴。太陽の光は約束の丘の大きな木を優しく照らしている。木にもたれかかるように寝そべると、日差しは葉っぱによってのんびりとした日差しに変わり、ゆったりとした時間が流れる。

 深く息を吐いて目を瞑る。穏やかな時間。


 もう少しで寝られそう…と言う時に遠くの方から僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。その声に昼寝を邪魔されたような不快感を覚えることはない。むしろ、僕はその声の主人を待っていたのだから。


 「ノアー!ごめんね?待たせちゃった?」

 「ううん。今来たところだよ」

 「なら良かった!じゃあ今日もよろしくね!あっ!今日もちゃ〜んと持って来たよ?」


 そう言うと、彼女は手に持っていたバスケットから、果物とパンにチーズと鹿の干し肉を挟んだサンドイッチと言う食べ物をチラッと覗かせてくれる。

 彼女の名前は、ムニ・シトラス。

 僕の唯一の同世代の友達だ。


 彼女と知り合ったのはつい最近だ。僕が魔法の練習をする為に人目につかない森に入った時のことだ。

 その日は少し霧がかかっていた。魔法の練習をしていると、どこからか声が聞こえて来た。助けてと泣き叫ぶ声。

 声のする方向に向かうと、そこには足首を挫いて歩けなくなったムニが居た。視界が悪い森で、躓き、足を怪我してしまったらしい。

 僕は彼女に、クミさんに習った治癒魔法をかけて怪我を治してあげた。

 これがきっかけで仲良くなり、魔法に興味を示した彼女は週に一度ご飯を作って来てくれる。その代わり、僕の魔法を見せる、と言う関係になっていた。


 「今日はどんな魔法を見せてくれるの!?」


 バスケットを少し離れた場所に置き、彼女は目を輝かせながら聞いてくる。

 僕は少し悩んだ後、少しだけカッコつけようと最近習った魔法を見せようと思い、魔力を杖に込める。

 

 これも最近習った事だが、魔法には難易度によって「(もん)」と言うものが存在するらしい。門は自分の限界値的なものであり、その門を開ける事ができると、魔法の威力も上がるのだとか。

 門の開け方は、純粋な鍛錬。一つ上の門の魔法が扱えるようになった時に、初めて門が開けられる…と言う事らしい。


 1〜10段階ある門によって使える魔法、必要な魔力、詠唱の難易度も変わるらしい。一門の魔法は「魔法弾(マジックバレット)」魔力を撃ち出すだけのように簡単なもの。10段階目。魔法の限界と言われている全門(ぜんもん)の魔法は、戦場をひっくり返す事ができるほどの威力だとか。


 当然、僕に全門なんてすごい魔法は使えないので、二門の魔法を彼女の前で見せる事にした。

 これでもすごい事らしい。大抵の人間は三門まで開けれたら良い方で、四門で熟練の魔法使い、五門以上で天才と呼ばれ、全門を開ける者は歴史に名を残す大魔法使い。この世に数名しか居ないとか。


 心臓の辺りから、海のような魔力を感じ取って杖の先に流す。この作業も、もう慣れて来た。

 彼女の期待の視線を横目に、僕は詠唱を始める。


 「二門!優雅な響。静寂に包まれし流流(りゅうりゅう)の精霊。その神聖な水の力よ。我に力を与えん!水魚遊軍(すいぎょゆうぐん)!」


 ちなみに、詠唱や魔法の名前はその魔法が開発された場所の言語に(なぞら)えるらしい。この魔法は「大千郷(だいせんきょう)」と言う場所で作られた魔法らしい。


 杖の先から水でできた1匹の魚が空中へと泳ぎ出す。少し空を泳いだ後、爆散して微かに虹がかかる。


 「凄い!お魚さんから虹が出た!」


 彼女は手を叩きながら目を輝かせる。隣の僕は少し鼻高くなりながら彼女に魔法を見せていく。

 何個か魔法を見せた後、彼女の持って来てくれたお昼を食べる事にした。

 バスケットの中から美味しそうなサンドイッチを取り出し、かぶりと(かじ)り付く。


 「ん〜っ!美味しいよ!ムニ!」

 「ほんとっ!?ならよかった!どんどん食べてね!」


 ムニが持って来てくれる料理はいつも美味しい。

 彼女と知り合ってから何度かこうしてお昼をご馳走してもらって来たが、どれも美味しかった。

 親が居なくなり、兄が料理をしてくれることはあったが、その味も少しずつ忘れてしまう。僕もあの時は5歳だ。あの時は味なんて感じようとしてなかった。その事を少しだけ、今になって後悔する。


 ご飯を食べ終わり、二人で木陰で横になる。そよ風が二人のことを撫で、ゆったりとした時間が流れる。

 のんびりとしていると、つい昨日のクミさんから言われた事を思い出す。

 自分はまだ実力不足。旅に出るために修行を始めて2ヶ月。あと4ヶ月で自分は本当に強くなるのだろうか。

 そんな不安な表情に気がついたのか、ムニが心配そうにこちらを見つめる。横を見ると彼女の茶色い髪が波びいている。


 「ノア?どうしたの?」

 「いや…僕、今のままで本当に旅に行けるか不安で…。クミさ…師匠にもまだまだだ、って言われちゃったし」


 あれ、なんでこんな事言ってるんだろう。

 多分、彼女だからこんな弱音を吐けるんだろう。この村で唯一の友達。兄がいなくなってから、ずっと一人で過ごして来た。クミさんを除いて弱音を吐ける人間は彼女だけだった。

 そんな僕のことをムニは優しく髪を撫でてくれる。


 「大丈夫だよノア。あなたの魔法は凄いし、とっても綺麗な魔法だと私は思う。それに、多分お師匠さんもノアのことをちゃんと認めてるんじゃないかな」

 「う〜ん…どうなんだろうね。でも、師匠は凄い人だから…師匠からしたら、僕はまだまだなんだよ」

 「そうなのかな〜?ノアは凄いと思うけどなー。ほらっ前にもみずせん流?って名前の剣術見せてくれたでしょ?あれも凄かった!」

 「みずせん………あ〜!水仙流(すいせん)ね?」

 「そうそう!あれもう一回見たいな!かっこよかったし!」


 彼女のお願いを断り切れず、渋々了承した。

 その後もムニと二人で色んなことをして遊んでいると、気づけば世界はオレンジ色に染まっていた。


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