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魔王と勇者が死んだ後、俺が世界の主になる  作者: 我妻 ベルリ
第一章 ヘルエア島の少年編
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第14話 私って強いの♡

 チャックマンの一言。その言葉に込められた()()に僕達は気がついてしまう。

 

 「死ぬ気………ですか?」

 「………」


 そう静かに問いただすクミさんに、チャックマンは背を向ける。

 顔を見なくても理解できてしまう覚悟。僕は咄嗟にその覚悟を拒絶してしまう。


 「な、なんで…。チャックマン!そんな…」

 「ごめんなさいね…ノアちゃん」


 それだけ伝えたチャックマンは…何かを詠唱し始める。


 「我は契約を破り捨てる。如何なる罰も甘んじてこの身に受け入れよう。残りの者の安寧を祈ってここに契約を破り捨てん」

 「!?これは……?」


 チャックマンの詠唱が終わった後、体が回復し始める。正確には水銀の毒は感じるが、体に不思議と魔力が湧き、痛みが引く。

 詠唱の内容からしてなんらかの契約破棄。魔法で結ばれた契約は、簡単に破棄できるものじゃない。大概の契約は、破れば自身に不利が働くからだ。魔力没収、運動能力の低下。場合によっては体の部位の欠損、寿命の没収、即死まであり得る。

 とにかくチャックマンは何かしらの罰を受け入れた事になる。この場を…僕達を救い出す為の自己犠牲に他ならない。


 「何をしたんですか!チャックマン!」

 「…実はね。私…あなた達と契約を結んでたのよ。酒場で乾杯したのを覚えてるかしら?乾杯の挨拶に、詠唱を混ぜ込んで契約を結んだの。互いの安全を誓い合う契約をね」


 酒場で乾杯……。確か1週間前にジンと出会って、皆んなで一緒に迷宮に潜る事を決めた日。

 今思えば…確かに不思議な挨拶だった。あの時から契約を密かに結ばされていた…と言う事になる。


 「「命綱(リネア・デ・ヴィータ)」。誰かが命の危機に陥っても、皆んなの力を分け与えて命を保てる契約。私が迷宮に潜っても、ノアちゃんと離れても平気だったのは、この契約のお陰で簡単には死なないってわかってたからなのよ」


 契約の説明を終えると、チャックマンはゆっくり振り返る。その顔は…寂しさと申し訳なさが入り混じったような顔だった。

 横たわったままの僕達を見つめた後…静かに説明の続きをする。


 「そして…契約を破棄すると、私には罰が。あなた達には褒賞が与えられるの。私は魔力没収に一時的な身体の麻痺。あなた達には魔力と傷の回復。この場であなた達を回復させる事が必要不可欠だと判断した。だからやったのよ」

 「そんな…それじゃあまるで!」

 「生け贄…かしら?それで良いのよ。あなた達があの銀野郎を倒して、英雄になるの。でも、その英雄のメンバーに私は要らないわ」


 チャックマンの覚悟。自分を犠牲にしてでも、僕達を治す。それを止めたくても、この体はまだ水銀に蝕まれている。

 僕は叫ぶように言葉で止めようとする。声は震え、聞こえてくる僕の声は、なぜか自分が泣きそうになっている事に気がつく。


 「じゃあせめて!ここから逃げれば…!」

 「ノアちゃん……仲間見捨てて、明日から胸張って生きてけんのかぁ!!」


 チャックマンの野太い声が迷宮に響き渡る。この人の覚悟は止められない。いや、これ以上止めることは…チャックマンへの侮辱になってしまう。


 「じゃあねノアちゃん。アニーナちゃんも………こんな私と一緒に冒険してくれて、ありがとう。楽しかったわ!」


 最後の言葉を口にした後、チャックマンはまた振り向き、シルヴァトと対面する。

 丁度鎖の拘束が崩壊し、シルヴァトがチャックマンを見つめる。


 「人間はやはり理解できん。私を恐れず、自ら犠牲になって勝てもしない私に立ち向かう。愚かで無意味な死だな。お前のような()の自己犠牲を何度も見て来たが、お前らの死になんの価値もない」

 「あら?あなたに2つ、間違いを教えてあげるわ。一つ。私の犠牲でノアちゃん達が助かる。あなたを殺すのは後ろにいるこの子達よ。侮られちゃ困るわ…」


 チャックマンは上着を脱ぎ捨て、上裸になる。ピンクの上着を脱ぎ捨てた事で、鍛え上げられた肉体が露わになる。


 「そして一つ。…………私は立派なオンナよぉお!」


 …………ん?

 僕達も一瞬思考が停止する。なんか…触れちゃいけない気がする。

 シルヴァトも……なんか難しい顔をしている。


 「確かに…女の見た目はしてはいるが…………はぁ、やはり人間は理解できん。……まぁしかし、その覚悟は褒めてやろう。今なら取り消しても許すぞ?」


 シルヴァトは薄く笑う。チャックマンは構え、応えるように笑う。


 「ンフフ…♡かかってこいよぉ!!」


 ○ ○ ○


 オレは…生まれた時から冒険に興味を持っていた。

 アイデン王国の普通の家の生まれ。裕福でも無いが、貧困でも無い。両親は…普通の親だ。姉も居たが、とても頼りになる強くて、男の子のような姉だった。そんな家族に不満も無いし、オレも大好きだった。

 

 アイデン王国は城壁に囲まれていて、オレはずっと外の世界に出たいと考えていた。

 いつも姉に童話を読んでもらっていた。外の世界の勇者の話。色んな国があり、色んな種族がいて、色んな物で溢れる世界。姉と一緒にそんな世界を妄想していた。


 姉とオレの夢は冒険者だった。何度も読み返した勇者の冒険譚。見たこともない草花が載った図鑑。何百年も攻略されてない恐ろしい迷宮記録。その全てがオレ達の好奇心を湧き立てた。

 

 姉は先に冒険者になった。国を出て、世界中を冒険するんだ。そう言い残して旅に出た。

 その直後だった………戦争が始まったのは。


 その前から何度も紛争はあったけど…本格的に人族と魔族が軍を率いた戦争は初めてだった。

 駆け出しの冒険者だった姉は、世界を巡ることなく帰国して来た。

 女は戦力にならない。だから、姉は故郷で静かに暮らす事を選んだ。親の決めた男性と結婚し、家庭を築こうとした。

 

 オレは…夢を諦めた姉が見ていられなかったし、嫌いだった。

 だから、オレは…私になった。


 私が女になって勇敢な冒険者になってみせる。そうすれば、姉が…女が強い事を示せるから。そうだと信じたかったから。


 20年ほど経った後、勇者マリス・ゴールドによって魔王が討たれ、20年間続いた戦争が終わった。

 私もすっかりおじさんになっちゃった。

 姉は立派な母親になって、穏やかな人妻に落ち着いていた。けど、私は冒険者を続けた。あの時追い求めていた外の世界を自分で冒険して、本に書かれた事を見たいから。姉にも話したかったから。


 私の事を皆んなが白い目でみる。そりゃそうだ。女の格好をした男を誰が相手する。これからも1人だと思ってた。

 けど…。


 「ねぇ、変なおっさん。私と一緒にあの魔物討伐クエスト受けてくれない?」


 アニーナちゃんは私を誘ってくれた。あの時、すっごく嬉しかったのよ?見た目を気にせず仲間になってくれた事がね。

 戦争が終わって5年間は、色んなところを冒険した。アニーナちゃんと2人で色んな場所に行って、戦って。私に妹ができた感覚だった。なんだか、姉の気持ちを理解できた気がした。


 そんなこんなで辿り着いたのが、永久(とこしえ)のエルダ。本で見た未攻略迷宮。そこで、私はノアちゃん、クミちゃん、アスちゃん、ジンちゃんに出会えた。

 この1週間は本当に楽しかった。これぞ冒険者って感じがしてね。

 ここで終わっても………良いと思えた。


 ○ ○ ○


 はぁ…はぁ…はぁ…。

 何分稼げた?ノアちゃん達が回復するまで…あと5分はあるか?

 手足が痺れて、うまく動かない。やっぱり契約破棄の罰はキツイわね。


 「おりゃああ!」

 「もう終わりか?」

 

 目の前の顔面めがけて右拳を叩き込む。しかし、それを躱され、逆にカウンターを喰らう。

 水銀の弾丸が数発撃たれる。

 なんとかそれを気合いで耐え抜く。


 「ぐふっ!…まだまだぁあ!」


 私の魔法は自身と仲間にバフをかけるだけの魔法。戦闘に関しては、肉弾戦しか無い。

 普通に考えれば、魔族最強とのタイマンなんて馬鹿げてる。

 それでも。

 それでも……。


 「…はぁ…はぁ…ゲホッ!ゲホゲホッ!…はぁ…」

 「終わりだな。お前の足掻きもここまでだ」


 もう…手も足も動かせない。ここまでかしら。でも……。


 「最後に言い残す事はあるか?それくらいは聞いてやろう」

 「…はぁ…ンフフ♡私は冒険者よ。各地を冒険して、最後をこの迷宮で終えるなんて………光栄ッ!!!」


 チャックマンの声は響き渡り、シルヴァトを睨みつける。

 シルヴァトは剣を振り上げ、微笑みながら冒険者に最後の質問をする。


 「貴様…名をなんと言う」

 「…チャックマン・ハート♡」

 「無駄な死だが…覚えておこう」


 ありがとう皆んな。アニーナちゃん。そして……お姉ちゃん。





 

 チャックマンは床に倒れ込む。体からは血が流れ、その場に血溜まりができている。


 皆んなが回復するまで…残り3分。


 「二門!黒雲(アン・ビリッツ)(ダ・シュトーテ)(ヴァーケン)!」


 ノアは至近距離かつ、最大火力の魔法をシルヴァトに叩き込む。

 動けるまで回復するのにあと3分は必要な筈。しかし、ノアだけがシルヴァトに仇を取るために動き出した。

 数メートルほど吹き飛ばされたシルヴァトは、驚きよりもノアへの興味が勝っていた。

 先程まで自分を恐れ、怯えていた子供が。チャックマン・ハートの死によって恐怖を克服し、勝負を挑んで来た。


 「やはり…人間は理解出来んなぁ!?」

 「シルヴァトォ!!」


 ノアの全てを賭けた、3分間の戦いの火蓋は切って落とされた。


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