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魔王と勇者が死んだ後、俺が世界の主になる  作者: 我妻 ベルリ
第一章 ヘルエア島の少年編
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第12話 強襲

 時間は少し前に遡る。

 

 迷宮の大変動によってノアと逸れたクミ達は、第18層に落ちていた。

 落ちると言っても、着地して落ちて、着地して落ちて…を繰り返しながら落ちていったので致命傷になるようなダメージは避ける事ができた。

 それでも、落下によるダメージは少なからず体を蝕む。


 「皆んな大丈夫ですか?アスは?怪我は?」

 「ちょっと痛いけど…大丈夫です…」

 「ちょっと。私達の事も心配してくれて良いんじゃないかい?」

 「アニーナちゃんの言う通りよ?私もか弱いレディなのに〜」

 「おい。俺も居るぞ」


 薄暗い広場。ノア以外のメンバーは無事のようだ。

 それにしても、ノアと逸れてしまった。目の前で落ちていったノアの顔を思い出す度に不安と焦燥感が体を走り抜ける。

 いや。今この場での焦りは命取りだ。私が一番知っているだろ。

 ノアの周りにも冒険者は居た。ノア一人とは考え難い。それに…今のノアなら簡単に死ぬことはないはず。私がすべき事は………。


 「皆んな大丈夫そうですね。このまま最下層へと向かいます」

 「お、おい!ノアは良いのか?それに、俺達は師匠を探しに来たんじゃ」

 「こうなってしまっては、そんな事言ってられません。ノアは簡単に死ぬほど(やわ)じゃありません。彼なら大丈夫です」

 「僕もそう思います。僕達の目的はどこへ行っても変わらない。最下層へ向かう途中で合流出来るかもしれない。そうですよね?」


 アスの子供らしからぬ冷静な判断に、ジンも少しばつが悪そうにする。

 私達は慎重に迷宮を降り始めた。


 ○ ○ ○


 迷宮競走(ダンジョンレース)が始まってから既に2時間が経過した。

 私達は第28層まで降りて来た。迷宮は私達に更に鋭い刃を向ける。


 「アス!私の後に続いて!」

 「はい!」

 

 ゴブリンの集団に私の斬撃が直撃して、数体が宙に舞う。その後に続いてアスの剣が残りのゴブリンの肉を裂く。


 「ガァア!!」

 「よし!」

 「おい!油断すんな!次来るぞ!」


 アスが肩を撫で下ろした瞬間、新たな魔物が姿を表す。

 大型の狼の魔物。フェンリルが低音の唸り声を鳴らしながら近づいてくる。


 「グラルルルル…」

 「アス下がって」


 アスが後方に下がった瞬間、フェンリルが飛びかかる。アスが下がるよりも速く、フェンリルは鉤爪(かぎづめ)を振り下ろす。

 それよりも速く斬りふせる…事もできたが、今回はアスが近すぎる。私の剣技に巻き込まれる危険性があった。

 私は腰に刺していた魔法の杖を抜き、詠唱する。


 「一門!魔法弾(マジックバレット)!」


 杖の先から、石くらいの大きさの光球(こうきゅう)が放たれ、フェンリルの右目を撃ち抜く。


 「ヴァオオオン!」

 「刀神(とうしん)流 亜空刃(あくうば)


 杖を口に咥え、剣を振り下ろす。

 フェンリルは体の半分以上を切り取られ、霧散(むさん)して消えた。

 

 桃の木で出来た魔法の杖。ノアと武器屋で買った私専用の杖だ。ノアのように大きな杖ではなく、30cm程のコンパクトな形をしている。私は剣を主軸とした戦闘方法なので、補助に使う杖はこう言った場面でとても使い勝手がいい。


 「怪我はありませんか?」

 「はい。ありがとうございますクミさん」

 「本当にクミは強いよね。さすがは元メシア騎士団の剣士」

 「そりゃそうよ。ヴァルヴァトス第七幹部とやり合った話は有名よね?」

 「ああ、あれか!人類が一度も勝てなかった魔族の幹部をメシア騎士団は5年で倒しちまったって言うやつだろ?本当なのか?」


 まるでお伽話のような言い方……。


 「実際に倒したのは六体です。一体は……致命傷を与えましたが、逃しました。いえ、勝てませんでした」

 「勝てなかった…。銀世界のシルヴァトですよね?」


 その名を聞いた私は、ふと5年前のことを思い出した。

 

 燃え盛る魔王城。二体の幹部は殺す事ができた。最後の一体。奴だけは…どうやっても勝てなかった。

 ヴァルヴァトス第七幹部の中でも最強。最後は…致命傷を与える事ができたが、私達も限界寸前だった。奴が逃げずにあのまま戦っていたら、負けていたのは私達だった。

 魔王を除いた魔族の中で頂点に立つ魔物。奴は今どこで何をしているのだろう。生きているのか、それとも復讐の機会を伺っているのか。


 「…ミさん?クミさん!?」

 「っ!?」

 「どうしたんですか?ぼーっとして。大丈夫ですか?」

 「え、ええ。大丈夫です。…先を急ぎましょう」


 私は剣を鞘に納め、歩き出す。

 この迷宮に潜ってから感じていた違和感。数百年攻略されることのなかった難攻不落の迷宮「永久(とこしえ)のエルダ」。それが突然変化し始めた。先程の大きな変動も、潜るたびに感じる冷たい違和感も…その全てが私に最悪な展開を予想させる。


 ○ ○ ○


 第39層へと降りて来た私達は、迷宮の残酷な光景を目の当たりにした。


 「うっ……」

 「これは…可哀想な子たち…」


 冒険者の無惨な死体。ここまで他の冒険者とすれ違っていなかったが、やはり他の冒険者は迷宮の脅威に抗えていなかった。

 大きな変動で落下死した者。魔物に襲われ、無惨な姿になっている者。財宝欲しさに同士討ちをした者。それらの成れの果てが転がっている。

 ドス黒い血溜まりに私達の顔が映る。下層に降りる度に魔物も強くなる。その現実を改めて目の前に叩きつけられたようだった。


 「行きましょう」


 私達は静かに先に進む。ノアの心配は進む度に強くなった。


 第40層に辿り着くと声が聞こえてくる。冒険者の生き残りなのか、人間の声が聞こえる。


 「魔法使いは負傷者の治療!戦える者は私について来い!」

 「私達も加勢します!」

 「!あなたたちは…!」


 声の正体はフリンケル・シュタインだった。自身の騎士団と生き残った冒険者を庇いながら魔物と戦闘を続けていた。

 私達が加勢したことで戦況は優勢に。怪我人を出すことなく倒す事ができた。


 「ありがとう助かったよ。確か…上で私達を止めてくれた子供だよな?」

 「は、はい!その節はとんだご無礼を…!」

 「いや、あの言葉がなければ私達の立場は無かった。それに、君の言う通りだった。あの場での争いは無意味だった。すまない。そしてありがとう勇気ある少年」


 さすが帝国騎士団の団長。礼儀正しく、子供にも立場関係なく接する姿はまさに騎士の鑑だろう。


 「状況はどうですか?」

 「貴方は…クミ・ヴィバール様!?メ、メシア騎士団の剣士様が何故ここに!?」

 「え、えぇ?」


 帝国騎士団なら私の事を知っていてもおかしくはないが………そんなに?

 過剰な反応に若干引きつつ、私は現状の説明してもらった。


 ○ ○ ○


 第44層。僕達はなんとか最下層の手前までやって来た。

 残ったのは……僕を含めて5人だけ。残りの冒険者は途中で負傷し、潜る事が困難な為、迷宮を脱出してもらった。

 香薬(かやく)さん、バンロさん、案内人(ナビゲーター)のモロさん、魔法使いのタリオさん。それと僕。この5人でなんとかここまでやって来た。

 

 「皆さん…大丈夫ですか?」

 「ああ、ここまで来たんだ。俺らなら行けるさ」

 「私も大丈夫だよ。覚悟は出来てる」

 「俺達も!」

 「ああ!やってやろうぜ!」


 皆んなの顔には疲れが見える。それでも、ここまで来たと言う現実が自信に変わっている。

 

 「それじゃあ…行きましょう!」

 

 僕達は最下層の第45層に降りた。

 辺りは嫌な静けさに包まれており、足音だけが響き渡る。

 45層は巨大な神殿のようになっており、複数の扉があるだけで、何も無い。何も無いが、何かがある。そんな気がする。

 辺りを見渡していると、少し離れた所にある扉が勢い良く吹き飛んでくる。


 「……あぁ?なんでここに例のガキがいるんだぁ?おい香薬!どうなってやがる」


 降りて来たのはギルドのトッププレイヤー、サノス・ビルヴァン。その後ろには「BB(ダブルバレット)」の冒険者が居た。

 

 「彼は殺さない。これは…私の判断」

 「てめぇの判断なんか関係ねぇんだよ。何のためにてめぇがいると思ったんだぁ?」

 「この子は別。私がここまで来れたのはこの子…ノアのおかげ。彼を殺すなんて出来ない」

 「香薬…てめぇ俺に楯突くのか?」


 静かだった所にサノスの怒号が響く。緊張感が走ったその時。


 「君は相変わらずだなサノス。ここを出たら君を牢獄に入れてやりたいよ」

 「あ?生きてたのかよクソ騎士様」

 「クミさん!!無事だったんですね!」


 後ろの扉から現れたのは、帝国騎士団のフリンケルさん。そして、クミさんとアス。アニーナにチャックマンとジン。皆んな無事だった。僕はその事実に安堵する。


 「なんだぁ?勢揃いだなぁ?全員ぶっ殺してやろうか?ここで決着つけてやるよ!財宝は俺らのだぁ!」

 「まだ君はそんな事を!」


 フリンケルさんとサノスさんが互いに身構える。僕達も、目の前で始まろうとしている争いに構えた。



 その瞬間…。


 『!?』


 全員が一番奥にある大きくて古ぼけた鉄の扉を睨む。


 刹那。空気が変わり、果てしない緊張感と体の底から湧き上がる恐怖に、全員が体の制御を失った。

 歯が、ガタガタと音を立てて震える。冷や汗が首筋に沿って流れ、呼吸を忘れてしまうほど目の前の事実に困惑し、恐怖する。


 この迷宮の違和感。迷宮が変化した理由、さっきの大きな変動、クミさんの感じていた何か。その正体が分かった。


 古ぼけた鉄の扉が、ギギギと音を立てて開かれる。

 そして不気味な足音と、その何かの声が聞こえる。


 「28…29…30……人か。この私の復活を見届けるには物足りぬが………まぁいい。」


 銀髪の髪。人間のような肌。その頭には大きな悪魔のような角が生えており、貴族のような服に身を包んでいる。瞳は冷たく、クミさんを優しく見つめる。まるで、旧友と再会できたかのように。


 そして、まるで人間のような言葉を話す。

 魔物は魔力量が多ければ多いほど知能が高い。魔力探知でも感じ取れるように………僕の目の前には絶望する程の膨大な魔力が立ち塞がった。


「久しいな………クミ・ヴィバール」

 「おま…えは…………シルヴァト…!」


 その名前を聞いて…僕は脚から力が抜けそうになる。


 ヴァルヴァトス第七幹部。その生き残りであり、魔族最強の称号を持つ魔物。

 

 「銀世界のシルヴァト」


 僕の目の前に現れたのは、クミさん達が勝てなかった最強の敵。


 迷宮競走(ダンジョンレース)のゴール地点には、この永久のエルダに眠っていた絶望の財宝が僕達を出迎えた。


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