テスト
パーティ「お疲れ様ぁ」
軽い依頼を終えてギルドに報告したひとつの冒険者のチームがあった。
ヒサメ「それにしても今回はぺろりんさんがいて助かったね」
ぺろりん「いえ、そんなことはないよ」
トウヤ「いや、ヒサメが毒喰らってその対処が早く出来たのはぺろりんさんのおかげだろう」
ヒサメ「うんうん。って僕そんなにヤバかったの!?」
ミヲ「ヤバいというか……もう死んでいたといっても過言ではないですね」
ヒサメ「えぇー!?」
ぺろりん「たまたま知ってた症状なだけですよ」
トウヤ「それでもこいつが助かったのはぺろりんさんのお陰なんだから、お礼くらい言わせてくれ」
ぺろりん「まぁ助かってよかったです。ヒサメ君も今後気を付けてください」
ヒサメ「うん。気を付けるね」
ミヲ「ところで何でぺろりんさんみたいな人が俺らの仲間になったんですか?」
ヒサメ「それ、僕も知りたい!」
ぺろりん「特に理由はないですよ。強いて言えばヒサメ君が可愛かったから、ですかね」
ヒサメ「え?」
ミヲ「マジ?」
トウヤ「本気か?」
ぺろりん「さぁ、どうですかね?」
ヒサメ「もうぅ!ぺろりんさん!」
ぺろりん「はははっ、それじゃ私はこの辺で失礼しますよ。帰って自家製の紅茶飲みたいのでね」
そう言ってぺろりんは街の雑踏に消えていった。
数ヵ月前
ぺろりん「さて、今日のターゲットはっと……あの店に行くんでしたか」
私は暗殺者ギルドからの依頼でとある人物を暗殺しようとしていた。
暗殺して欲しい理由なんて下らない事だから忘れましたが、今のご時世、些細な理由で暗殺してくれとか当たり前だしな。
ターゲットが来るまで時間もあることですし、下見がてら紅茶でも飲みますかね。
カランカラン♪
ヒサメ「いらっしゃいませ」
明るい声色で店員が声をかけてくる。
ヒサメ「お一人様ですか?」
明るい髪をポニーテールにしてどこかの民族衣裳、たしか『着物』だったか?それを纏った店員が対応に来る。
ぺろりん「えぇ一人です。席は空いていますか?」
見たところそこそこ客は入っているがまぁ座れるだろう。
ヒサメ「空いてますよ。こちらへどうぞ」
カウンター席に案内されると同時にメニューを渡される。
ヒサメ「ご注文決まったらお伺いするのでお呼びください!」
ハキハキと明るい声でそう言う店員はニコニコと笑顔を振り撒いていた。正直この手の人種は苦手だ。
メニューを見ていると先ほどの店員がニコニコとこちらを見ている。
ぺろりん「あの、何か?」
ヒサメ「あっ、ごめんなさい。僕この店に来るお客さん皆覚えてるんだけど、お兄さんみたいなお客さん初めてで見ちゃってました」
店に来る客、全員覚えているだと?最悪ターゲットと一緒にこいつも消さなきゃ。
ぺろりん「そうだったんですね。お姉さんみたいな可愛い方に見られると緊張してしまいますね」
ヒサメ「可愛いって、ありがとう!でも僕は男だよ」
ぺろりん「男……いや、すみません。男のあなたに可愛いとは、失礼でしたね」
ヒサメ「ううん、嬉しい。だって僕は男の娘だからね」
ぺろりん「(男の子?)……注文良いですか?」
男の子がなんなのかよくわからないが取り敢えず注文をして店内を確認することにしよう。
ヒサメ「はーい。ご注文は何ですか?」
ぺろりん「アールグレイをひとつとフレンチトーストをひとつ。お願いしますね」
ヒサメ「アールグレイとフレンチトーストをひとつずつですね。他にありませんか?」
ぺろりん「いえ、以上でお願いします」
ヒサメ「かしこまりました。しばらくお待ちください」
注文を取ると店員は裏に引っ込んでいった。改めて店内を見渡す。
席はそこまで多くはない。だが全体的に落ち着いていて寛げる所謂、隠れた名店と言ったところだろう。私も仕事じゃなければ寛いで行きたいくらいだ。
やはりここで暗殺を狙うなら毒殺が一番楽だろうか?店には申し訳ないがそれが一番私が怪しまれないだろう。
だとすれば一般に流通していて素人でも買える毒を使えば違和感もないだろう。
私は頭の中で暗殺プランを考えながら注文した料理を待っていた。
ヒサメ「お待たせしました。フレンチトーストにアールグレイ、以上でよろしいですか?」
暗殺に使う毒の種類を考えていたら時間が経っていたようだ。
ぺろりん「えぇ、ありがとうございます。美味しそうだ」
配膳されたフレンチトーストは見るだけでよだれが出るくらい濃厚なバターとハチミツが染み込んでいるし、アールグレイもそんなフレンチトーストに負けないくらい爽やかな香りでこちらを楽しませてくれる。
うん。この店は当たりだ。こんな当たりの店を潰すような策を練っている私が少し恥ずかしくなった。それにしても……
ぺろりん「まだ何か?」
店員は配膳してまだそこにいた。
ヒサメ「え?あっ、その……お兄さんって冒険者?」
店員はそんなことを聞いてきた。
ぺろりん「まぁ、そんなとこです」
暗殺者何て言えないし、見た目盗賊職っぽいので無難な答えをいう。
ヒサメ「わぁ!凄い!凄い!」
ぺろりん「そんなに珍しいものではないでしょう?その辺にもいるでしょうし」
今のご時世冒険者なんて珍しくもない。その辺にいる人間に聞き回ればすぐ見つかる。
ヒサメ「確かに珍しくはないんだけど、うちのお店にあんまり来ないんだよ!それにお兄さんはなんか……こう、普通じゃない気がする!」
まぁ冒険者ではないのでこの店員のいうことは間違っていないのだが。
ぺろりん「ははっ、まだ駆け出しでしてね。冒険者というよりはまだ一般市民という方が近いかもしれません」
ヒサメ「そういうんじゃないんだけどなぁ」
ともかくこの話題はまずいので別の話題に切り替えよう。ボロが出る前に。
ぺろりん「店員さんは冒険者に興味があるんですか?」
ヒサメ「うん!だって僕、冒険者になりたいんだ!あ、あと、僕の事はヒサメって呼んで欲しいな」
ぺろりん「ヒサメさん……ですね。私はぺろりんと言います」
正直、暗殺者の名前にあまり意味はないが名乗られたから返す。当たり前の事をするだけだ。
ヒサメ「ぺろりんさんかぁ、あ、僕の事はヒサメ君って呼んでくれると嬉しいな」
ヒサメ「それでね!僕、冒険者になりたくて、ここで仲間になってくれそうな人を探しているんだ!」
店員……ヒサメの顔には憧れと期待を寄せたようなそんな表情が見えかくれしていた。
ヒサメ「それでね……」
ヒサメが言葉を重ねようとすると大きな音と共にチンピラが店に入ってくる。
チンピラA「よぅよぅ、ここにエドガーっつぅやつきてねぇか?」
チンピラB「おぅ、隠してもいいことねぇぞ!」
チンピラC「アニキの声が聞こえねぇのか?あぁ!」
エドガー、私のターゲットで私がここにいる理由だ。なんでこんなチンピラどもが……。
ヒサメ「ここはお茶と料理を楽しむところだよ!それに君たちみたいな奴らの来るところじゃない!」
ヒサメが叫ぶ。よく見ると手や足が震えているのが見てとれた。それに気付いたのかチンピラもニヤニヤしながらこちらへ向かってくる。
チンピラB「おぅおぅ、可愛いねーちゃんがいるじゃねぇか。こんなとこにいないでオレと遊ばねぇか?」
そう言ってヒサメの腕をとる。
ヒサメ「離してよ!」
どうにか振り払おうとするが、腕力の差は決定的なのだろう。チンピラがニヤニヤするだけでその腕は握られたままだ。
ぺろりん「はぁ、食事がまずくなるんで出ていってもらって良いですか?」
深いため息と共にそう口に出した。するとチンピラがこちらを見る。
チンピラB「あ"ぁ"!?んだこら、オレに文句あるってのか!兄ちゃんよぉ!?」
ぺろりん「えぇ、食事中なの見てわかりませんか?意味もなく恐喝紛いな大声を上げるだけ上げて、周りが迷惑をしているのがわかりませんか?
あぁそんなことわかるだけの頭もないのですか。嘆かわしい」
そういうとチンピラは顔を赤くしてヒサメの手を離しこちらに襲いかかってくる。
チンピラの大きく開かれている口にフレンチトーストを叩き込む。
チンピラB「あっちぃ!」
ぺろりん「ほら、ここのフレンチトーストは絶品でしょう?今回は私が奢りますよ」
そう言ってチンピラを仲間の方へ蹴飛ばし牽制する。と同時にチンピラのボスっぽい人間に解るように暗殺者ギルドの合図を出す。
チンピラのボスは気付いたのか、顔を青ざめさせて
チンピラA「ちっ、いねぇなら仕方ねぇ。邪魔したな!」
と急ぎ足で店を出ていった。
チンピラC「アニキ!?まってくだせぇ!」
取り巻きも逃げるようにボスへと着いていく。
それにしても……ダブルブッキングですか。
私が信用できないといわれたも同然ですね。
ヒサメ「あ、あの……」
ヒサメがこちらに戸惑うように声をかけてきた。そろそろ潮時かな。
ぺろりん「さて、急用を思い出しました。お勘定はここに置いておきますよ。あ、お釣りは結構です」
そういって銀貨を置いていく。そして私は足早に店から出た。
ぺろりん「舐めたことしてくれたじゃないか。ギルドに行きますかね」
私はギルドに歩き出した。
それから私はギルドに着くと今回の依頼を請け負った職員を呼び出した。
職員「何か問題でもありました?」
ぺろりん「えぇ、まさか同じ依頼を複数人に配っているとは思いませんでしたよ。私は降りさせてもらいますね」
私の言葉に職員は顔をしかめる。
職員「ぺろりん様。一度受けた依頼を断るのなら……」
ぺろりん「えぇ、知ってますよ?ペナルティがあるのでしょう?もはやそれも私には関係ありませんね」
職員「それはどういった……」
ぺろりん「今日で私が暗殺者をやめるからですよ。随分と舐めた真似してくれたじゃないですか」
私の言葉に職員は驚きを露にする。そして……
職員「そう簡単に辞めれるとでも?」
と声音を低くして威嚇してくる。まぁ怖くもないですけどね。
ぺろりん「辞めれますよ。だってここに私以上に人を殺した暗殺者はいませんからね。それとも、私を殺しますか?ただで殺される気はないので抵抗しますが」
そういうと職員は顔を青ざめさせて視線が泳ぐ。
???「てめぇ、ぺろりん。あんま受付をいじめんじゃねぇよ」
奥の扉から卑屈そうな男が出てくる。
ぺろりん「おや、ギルドマスターじゃないですか。で?私を止めますか?」
ギルドマスター「勝手にしやがれ。その代わりオレらの事をばらしたら……」
ぺろりん「そんなことはしませんよ。そんなことするくらいならここで皆様を毒殺した方が楽ですからね」
ギルドマスター「ならいい。さっさと出ていきやがれ」
そういってギルドマスターは私を追い払う。
ぺろりん「くれぐれも私の関係者に手を出さないでくださいね?もしあなた方の仕業と判れば私が潰しますよ」
ギルドマスター「しねぇし、やらせねぇよ」
ぺろりん「なら結構。それでは……」
私はそういって暗殺者ギルドをあとにした。
ぺろりん「さて、明日からどうしますかね?」
そういいつつも私の心は決まっていた。あの底抜けに明るい冒険者の卵と一緒に行くのも悪くないと……。
END