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想起回顧譚  作者: なやし
5/7

05.王国

馬車は順調に進み続ける。

ガタガタと揺れる音で目が覚めた。

馬車に乗ってすぐ寝てしまっていたようだ。


「おはようございます!昨日はありがとうございました!」

リナだ。いつも元気だな。


「気にしないでくれ、他にもやりたいことがあったから丁度良かったんだ。」


今気づいたが、もう昼になっているようだ。

ホブが起きたことに気づいて話しかけてきた。

「あと一時間もあれば、ノヒータ駐屯地に着く!

 荷物のチェックがあると思うから目を覚ましといてくれ!」


返事をし、軽く準備をしておこう。

そういえばグラムはどこにいるんだ?

荷台の中を探してみる、どこにも見当たらない。


「リナ、グラムはどこ行った?」

まさか落ちたのか?最悪が頭をよぎる。


「あぁ、グラムちゃんなら上ですよ」

上?


外から荷台の上に声をかけてみる。

「はーい、なんか用ー?」


本当に荷台の上にいた。

「いや、居たならいいんだ。」


ノヒータ駐屯地にまもなく着く。

駐屯地というよりは王国騎士団が管理する関所のようだ。


「止まれ!」

入り口付近に立っている騎士が声を張る。

馬車を止め、ホブが話をしている。

さっきホブが言っていたように荷物の検査があるようだ。

馬車は指示される通りに進み、門を抜けた先の開けた場所で止まった。


「あんたら、一回降りてくれ!」

ホブの指示に従い外に出る。

外には三人の騎士がいた。全身を鎧で纏っていて表情が分からない。


「荷物の検査をさせてもらう。持っている物を全て出してくれ。」

騎士の一人がそう言った。

騎士に指定されたテーブルの上に荷物を出した。


俺の持ち物を見た騎士が話しかけてくる。

「ほう、魔力核コアの持ち主か。ちなみに、王国には何の用で?」


「知人に会いに行く。手紙を渡す用もあるしな。」

騎士はそうかと言いそれ以上は詮索しなかった。


隣でも同じようにリナがやり取りをしている。

「小物がずいぶんとあるな。こんな大量のナイフは何に使うんだ?」

表情こそ見えないが、少し戸惑っているように見えた。


「私は大道芸人でして、芸のために必要なんですよ!」

そう言ってナイフでジャグリングをして見せた。


「分かった、分かった。あんたのことどこかで見たことあるような気がするんだけど、どこかで芸を披露していたか?」

騎士はリナの方を見ながら問いかける。


「いやいやいや、気のせいじゃないですかね。」

そう言いながら露骨に顔を伏せる。


腑に落ちないようだったが、思い出せなかったようでそのまま話は流れた。

検査はその後も続いたが、特に指摘されることもなく順調に終わった。


「よし、特に問題はないようだ。王国側の出口まで案内しよう。」

やっと終わった。馬車に乗り込みため息が溢れた。


「お疲れさん。無事に終わって良かったぜ!ここさえ抜ければ王国まではすぐに着くからな!」

ホブに聞こえていたのか、慰めの声をかけてくれた。


グラムも疲れたのか荷台で寝そべっている。

色々あったが、今日中には王国に着けそうだ。


「リナは王国に着いたらどうするんだ?」


「そうですね!王国には知人がいるのでその人の所にお世話になろうと思っています!」


「えぇー、もうリナとお別れなのー?もう一晩一緒にいたいなー」

グラムが横になりながら駄々をこねている。

いつのまにかずいぶん懐いているようだ。


「ほんとですか!実は、日が暮れる頃に突然押しかけるのも悪いと思っていて、どうしようか迷っていたんですよ!」

「迷惑じゃないなら一緒に泊まってもよろしいですか?」

リナは申し訳なさそうにこちらを見ている。


「グラムもこう言っているし、俺たちとしてもその方が嬉しいよ。」

横ではグラムとリナが手を取り合って喜んでいる。

嬉しそうでなによりだ。


丁度、馬車のスピードが上がった。ノヒータ駐屯地を出たようだ。


荷台から出てホブの隣に座る。

「それにしても、駐屯地の割には騎士が少なかったような気がしたな。」

遅めの昼ごはんを食べながら疑問を投げかける。


「いつもはもっといるんだけどな!最近あった地震の対応で各地に散ってるんだろうな!」

ホブの大声が響く、なるほどな騎士団も大変だ。


「治安が良くなってきたと思ったら今度は天災だもんな!商売上がったりだぜ!」

ホブは少し不機嫌そうな顔をして呟く。


「治安が悪かったのか、何があったんだ?」

地震があったのは聞いていたが、それ以前のことは何も知らない。


「知らないのか?五年前に王国の君主制が崩壊して、かなりのいざこざがあったんだ。」

「無法地帯になった王国を、王国騎士団と魔術師会が主体となり再建をしたのがニ年程前になるな」

「俺もその時は田舎の方に避難していたから、詳しくは知らねぇが、王国に戻った時はかなり荒れ果てていたぜ」

ホブは見たことのない神妙な面持ちで話した。


「そんなことがあったのか。」


「まぁ、今となっては面影もないくらい綺麗だけどな!終わったことを言ったってしょうがねぇ!」

「盛り上げるためにも俺みたいな商人の頑張り時よ!」

さっきとは打って変わって、ガハハと笑い飛ばしている。

ホブの前向きな姿勢は見習いたいところだ。


それから、他愛もない会話をしているうちに、王国が見えてきた。


「見えてきたぜ!あれがプロステア王国だ!」

あれが王国か、今まで経由してきた町とは比べものにならないくらい大きい。

荷台に戻り、後ろの二人にも告げる。荷物をまとめて降りる準備をしておこう。


程なくして王国の入り口に近づく。

駐屯地と同じように門には騎士がいるようだ。

ホブが話をつけてくれたようでスムーズに王国に入れた。

馬車が所定の位置に止まったので、荷台から順番に降りる。ホブも既に降りている。


「ホブ、タナリ村から王国までありがとな。」

馬車がなかったらもっと時間がかかっただろう。


「お互い様よ!短い間だったけど楽しかったぜ。」

ホブと握手を交わす。グラムとリナも別れを告げている。


「これも何かの縁だ。また会った時はよろしくな!」

そう言ったホブと別れて町の方へと歩き始める。


既に日は沈みだしているのに、辺りにはすごい数の人がいる。グラムなら分かるかもしれない。


「グラム、宿の場所は分かるか?」


「ひさしぶりに来たから分かんないやー」

まいったな、グラムも分からないみたいだ。リナも横で首を振っている。誰かに聞くしかないようだ。


「先にご飯を食べに行こうか。」

二人ともお腹が空いていたのか嬉しそうにしている。

人混みの中を流れのままに道を進んでいく。


食材、服、武器、小物など様々な店が通りに並んでいる。あった、食事処だ。夜はあそこで食べようか。


グラムとリナに声をかけ、店の方へ歩みを進める。

店の中は小綺麗で、多くの人で賑わっていた。

空いている席に腰かけ、メニューに目をやる。どうやら色んなメニューがある大衆食堂なようだ。


「グラムこれ食べたい!あっ、これもいいなー」

リナも真剣な目でメニューを見ている。


その後、注文をして料理がくるのを待つ。


「グラムは会いに行くライラさんがどこにいるのか分かるのか?」


「えっ、ライラ?」

グラムに聞いたつもりが、反応したのはリナの方だった。


「私が会いに行くのもライラなんですよ!」

リナが興奮気味に言った。


「ライラの場所は分かると思うよー、グラムたちが会いに行くのは魔術師会のライラだよー」

言い方が少し気になるが分かるのならいいか。


「私の会うライラも魔力核コアを持っていたので同一人物かもしれませんね!」

リナは嬉しそうにしている。


「じゃあ、せっかくならライラさんに会うまで一緒に行こうか。」

いいんですか、とリナは嬉しそうにしている。


そうこうしているうちに、肉や魚、色とりどりの料理が次々に運ばれてくる。最終的には机いっぱいの料理が到着した。


二人ともこの量を見ても動じていない。それどころか目を輝かせている。食べられるならいいんだけど…


夢中でご飯を食べ続ける。あっという間に、机の上には並んでいた料理はなくなり、皿が積み上げられていた。


もうお腹いっぱいだ。二人とも俺の手が止まった後も食べ続けていた。今度から料理を作る時は量を増やすようにしよう。


食事を終え、会計時に宿の場所を聞き、食事処を後にして宿に向かうことにした。


宿は部屋も大きく綺麗だった。部屋に入り、旅の疲れか王国に無事辿り着いたことに安堵しため息が出た。


グラムとリナは風呂に入りに行くようだ。一人部屋に残り物思いに耽る。


振り返ると、たった数日の旅だったが内容の濃い充実した日々だったと思う。出会う人に助けられ、皆良い人ばかりだった。


魔力核コアの制御はまだ完璧にはできない。ライラさんがコツを教えてくれるのだろうか。それよりも唯一の手がかりであるフランシアについて何か分かることがあればいいのだが…


明日からやることを確認しつつ、心機一転気合いを入れ直した。



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