唄
パーティー会場に着いたのなら決して一人になってはいけないよ。
マーリンは村の人にそう言われていた。ぼーとしているように見える彼女では騙されて危ない目に合わないか心配しているようだ。しかし彼女は自身の体を見てヤレるかどうかもわからないから、そんな心配は無用だと上の空でこくりとひとつ頷いた。自分のことであるのにどこ吹く風の様子に村の人達はますます心配に思ったが、流れ者の少女のことにそこまで気を使うことも無く、行ってらっしゃいと気軽に送り出した。
パーティー会場は平民でも立ち入りしやすいようにと綺麗に剪定した庭先に料理を置いたガーデンパーティーだった。服装もフリルたっぷりの可愛いドレスといったものではなく街に買い物に行く時におめかしするような簡素なワンピースが多い。平服のマーリンは何となく気後れを感じたが気にせずパーティー会場の隅にぼーと立っていた。壁の花と言うには黒い制服は浮いている。此方を見るとひそひそと陰口を叩く視線を咎めることはせずに庭の一角を見ていた。
「君の髪は綺麗だね。魔力が満ちている」
食い入るように髪を見つめる視線が気持ち悪い。何をやっている訳でもないのにぞわぞわと這い寄る不快感を覚えるが特に気にした様子なくマーリンは突っ立っていた。象牙のように白い肌。表情が変わることも無く、何も映さないようにも見える真っ黒い瞳が磨かれた宝石のように美しい。着ている服が真っ黒で少々奇天烈なセンスをしているが、それを補ってあまりある美しさを持っている。魔力がある者には、マーリンの制御が甘く身から溢れた魔力が羽衣を纏うようにキラキラと体の表面を踊るように飛び跳ねるように目に映る。それは明らかに異様な魔力量を身体に宿していることを意味していた。
領主の目線は彼女ではなく、髪を見詰めている。むしろ髪に話しかけているようにさえ思える。髪は当然自らの意思で言葉を返すこともなく、視線の合わないことをマーリンは得体の知れないことと認識した。そんなマーリンの気持ちなど知る由もなく領主は自らの筋書きに乗せようと傲慢にも己のことを誘い出す。
「此方においで、綺麗なものを見せてあげよう」
マーリンはこくりと首を縦に動かすと伯爵の後を着いて歩き出した。だって彼が向かう先にはキラキラと光り輝く美味しそうなものが見えているのだもの。お腹が空くのは辛いこと。キラキラと光り輝くそれ以外をいくら食べても心が満たされない。それに変なことがあるのならば、こんな真昼間の人の目が豊富な時間に手を引いたりはしない。と何処か画面の向こうの理性が僅かな糸を刺激するように囁く。それは平和な国に住まうマーリンの常識に過ぎないのだが。




