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全てを組み上げるにはパーツが足りない。君がまた微笑んでくれるにはその笑みを完璧にする八重歯、烏の濡れ羽のような艶のある髪、射抜くように鋭いのに愛嬌のある丸い瞳。鈴を転がすような声はこの前手に入れた。再び目を覚ますことを期待してもう一度温度が無くなった掌を握る。自分の熱が移ればいいのに。
どれだけ握りしめても氷のように冷たく硬い掌に哀しみを覚えると零れ落ちそうなくらい目玉を歪めた。
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沢山の来客の哀しみを塗り潰してにっこりと笑みを浮かべる。この完璧なまでに作られた笑顔こそが上流階級の証であると館の主は思っている。どの女性も素朴であり簡素。美人とは程遠くこの土地の風土を感じさせる純粋さがあった。令嬢と言うには年頃と家柄だけのものであり、その家柄というのも王都に居を構える矜恃で呼吸が出来るような洗練されたものではなく、地に足をつけ人々に混じり地面に手をつくような堅実さがある。要はど田舎であった。力を思うがまま好きに振る舞うには領地が当然都合がよいが、あの子に相応しい品が見つからないのは一長一短といったところか。己が死ぬまでにひとつひとつ吟味する楽しみがあって良い…と嗤うことにした。
品のいいものを集めるには自身も品を良くしてこそ。滑らかなビロードの生地が指先を滑り落ちひとつ頷く。地産地消大いに結構。己を着飾ることにより地元が発展すると信じているが、身に纏っている光沢が集まっている人と温度差を感じる。とはいえ如何にも成金趣味のキラキラぴかぴかな意匠ではなく、濃紺の生地に同色の刺繍を施すことによって光加減で模様が浮あがるといった品を好んでいるせいか悪目立ちまではしていない。村人にとって地位は雲の上の人、誰1人選ばれるなんて思っておらず領主一族が儲けたから、村に還元したのだろうくらいしか思っていない。だからこそお洒落をしても一張羅を着てきたくらいに留まっているし、中には普段着に髪を丹念にとかして生花をさしているだけのような少女もいる。
ふと視線を上げると形のいい口許が…この私が満足する前菜の鴨のハムを啄んでいるのが見えた。あの啄み方は彼女のデルフィの食べ方だ。ふと『来年は日照りが起こる見込みです…今年度の備蓄の予算の修正を…』と小言を言う姿が重なって見える。上品な仕草とはちぐはぐにいちいち賢ぶるところが目に余る女だった。瞬きをして思考を振り払ってじっと食い入るように見つめる。いや、黒子がいらない。あの口は不合格だ。
やはりこんな村で探すというのが間違いなのか。諦めを宿し伏せた瞳にでも溢れんばかりの眩しさを受けて顔を上げた。そこには生命力が迸るキラキラとエフェクトを纏うような綺麗な黒髪があった。
なんと立派な黒髪か。その少女らしい外見よりも力強く生命の神秘を現していることに領主は感動すら覚えて息を止めた。その神々しさに膝をついて頭を垂れてしまいたくなる衝動を押し殺し、ふらふらとその長い髪へと近づいた。




