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歌姫  作者: きいち
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「かわいい〜い女の子居るかなぁ!」

「巫山戯んな、謝罪しろってんだ!この尻軽!」

「尻軽って女性に対してじゃないか?男なら……チン軽?」

「カイトが重くても軽くてもどっちでもいいんだよ!兎に角僕を巻き込むな!!」

「ふぇいふぇい。全くテスったら堅物ね」



 ぷりぷり怒るテス相手にやっだぁ、奥さんと今にも言い出しそうな合いの手を挟みながら折角やってきた街とは反対方向の森へとまた脚を向ける。領主のところへ伺うに手土産の一つもないのは物悲しい。という訳で獣の一匹を狩りにきたという次第だ。拠点が傍にあるというのは心が安らぐというものでカイトやテスの足取りも軽く森の奥へとずんずん突き進んでいく。


踏み固められた獣道に獣が居るのは少数でそんなことも知らない都会っ子の二人はうろうろと街の人が木の実をとる辺りの原っぱを歩き回っている。



「けもの…居ないな……」

「影も形も見えないとは、枯れているんじゃないか?」

「そんな馬鹿な。」



 数時間かけてやっとそこそこ脂ののったうさぎを手に取る。これで領主の婚活社交パーティー…いや、地元の交流会に参加しても面目が立つのか?最近根無し草が板につきすぎて都会の常識を忘れかけている気がすることに焦りを覚えなくもないが、何はともわれ挨拶にいく。


 ほくほく顔で参加させて貰った領主の家は田舎にあるには見事だった。素材が安いわけがなく、ここいらで取れないものを運ぶということはお金がかかるのだ。建てるだけなら王都の方が安いくらいである。ただし土地はべらぼうに高い。この辺で王都より安いのは有り余る土地と木材くらいだ。2人とも馬鹿みたく口をあんぐりと上げながら屋敷の立派さに感嘆の息を吐いた。



「アーチが見事だ、それに所々点在している薔薇も」「職人の愛を感じるな」



 田舎で見ると空恐ろしい技術に見えたが植物が多く土地が広い村の方が植木職人としては幸せなのかもしれないと溜息を零しながら会場の中へと入っていく。隅の方には先程墓場であった女の子が立っており、彼女も見事な庭に目を奪われているのかひっそりと佇んでいる。


 しかしやはり服装は先程と同じ頭から爪先までインクを被ったかのように真っ黒な出で立ちだ。場違いな服装に眉間に皺が寄るも村娘の一張羅なんてそんなものなのかもしれない。辺りを見渡すと服の色こそ違えど似たような品質の姿をした女達が楽しそうにしている。最も彼女のように足首どころか膝頭が出るような踊り子のような服装をしている人物はいないが。


 思えば自分達も旅装束。とても立派なものとは言い難い。それでも耳を澄ませば会話を邪魔しない管楽器の音が滑らかに空間にひっそりと寄り添う。地元の素材がふんだんに使われているのにひと工夫加えている上品なソースに硝子細工のような緻密な盛り付け。どれをひとつとってもこの領主は田舎に溶け込む気がないことを見て取れる。王都に憧れるのかそれとも王都に居たのかによってまた人物描写が変わるが随分と自信家のようだとカイトは解釈をした。


 と料理にも芸術にも何も興味を持ったことがないカイトが評価を下すのもおかしな話だし、貴族であることに拘りすらないが、これでも王都に居を構える貴族の末席を埋めていた自負はある。余っている爵位を強請ることも、婿に行くこともせず平民に下ったが、除籍したわけでもあるまいし、一族でなくなることはないのだ。平民なのに上品な立ち振る舞いが求められることには些か窮屈さを感じるものの、これがカイトのプライドだ。という訳で内心好き勝手に評価しながらも、だからこそ目にも美味しく盛り付けてある料理については棚上げしてゆっくりと咀嚼した。


「あ、これこの前王都で流行ってるってサニーが言っていたソースかな。オレンジが効いていて結構爽やか。肉の油っぽさがない。」

「お前は女絡みじゃないと記憶出来ないのか。」

「そんなことはないけど、女子って美味しいものが好きなんだよ。」

「男も好きだろ。」

「系統が違う。女はお人形のような綺麗な料理が好きで、男はガツンと肉が好き。」


 くるくると手にしたフォークを回しながらという訳でガツンとした肉が食いたい。と結びながら上品な手つきでローストビーフを口にする。テスはこんな手つきで食べるのにがつんと濃いめの味付けの肉を食らいつく幼馴染の姿を想像出来ない。いや、臓器ボロ雑巾なのに何肉なんか食っちゃってるの??


 しょうもないものを見る心底見下げた目で見つめてくるテスの視線をものともせず、次は何を食べようかなと視線を彷徨わせると先程の葬式女とぴかぴか領主が連れ立って立ち去るのをみた。


「いかにも連れ立ってって怪しげだよねー?」

「お前ねぇ……若い女と若い領主なら普通でしょ。見初めたにしては彼女の雰囲気がぼーとしたままだけど……。」

「にしてもあの子……あんな雰囲気にも似合わず魔力が凄い。」


 さてもう一口と肉に手を伸ばしたところで無理した内臓が悲鳴をあげてぶじゃっと舞台俳優のように派手に吐血する。手馴れた動作で口内の血液を吐き捨てると口許をナプキンで拭い。


「……食べ過ぎた。」

「そうでしょうね!」


 すっかり当人すらも手馴れてしまい忘れかけているが、枯渇したなけなしの魔力を己の溢れんばかりの魔術センスで無理矢理臓器を動かしているのが、カイトの現状。カイト曰く、「絡繰人形みたいだろ。」幼馴染に勝手に人間辞めるなと悪態ついた記憶は未だ色褪せない。








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