散歩
三題噺もどき―よんひゃくにじゅうご。
温かな日和が、春の訪れを告げようとしている。
つい通日前まで雨続きだったくせに、門出の祝福をとでもいう様に、ここ数日は貼れが続いている。それでも風は冷たいんだけど。
「……」
しかしまぁ、晴れているおかげで、気力が沈み込みすぎることもなく。
妹のおかげもあるにはあるが。……何とも、できた妹を持ったものだ。
「……」
今日は気分が乗ったので、久しぶりに1人で散歩に出ていた。
特にこれと言って予定はないが、カーテンを開いて、晴れた空をみていると。
なんとなく、歩いてみようと思ったまでだ。
「……」
今は太陽がほぼ真上にいる時間帯だ。
やさしい温もりが世界を包み、ようやく春が来るのだなぁと。
ぼんやりと思っている。
「……」
道路沿いの花壇にも色とりどりの花が植えられ、キラキラと輝いている。
少し離れたところにある小さな公園には、菜の花も咲いており、もう少ししたらその上に桜の花が開くはずだ。
「……」
歩きなれた道を、ゆっくりと歩いていく。
今日は先も言ったように、特に目的地もなく歩いているので、いつも以上にゆっくり歩いている。
歩き始めて数十分ほどしかたっていないが、少し汗ばんできた。
今日は暖かいが、歩くには少し暑かったようだ。
「……ぁ」
ふと、景色の中に現れた集団に目が止まった。
つい声が漏れたのは、その集団に見覚えがあったからだ。
―集団というか、彼らがその身を包んだ制服にだな。
「……」
この近辺にある学校の、制服だ。
私も妹も、そこに通っていた。
あの頃からデザインの変わらない制服。―数年前に新しくなるみたいな噂を小耳に挟んだが、まだ変更はされていないようだ。
「……」
昔ながらの、制服。
可愛いいセーラーとか、ブレザーとかはない。
制服を着ている方からしても、他のがよかったと口を揃えていう程に、古臭いデザイン。
……ジャージは新しくなっているんだけどなぁ。
「……」
そんな制服に身を包んだ集団は、同じような花を、その胸にさしていた。
ピンク色の、薔薇のようなカーネーションのような……たくさんの花びらがついた可愛らしい花。その下には、リボンがついているのか、ひらひらと風に舞っている。
そして、肩に下げた鞄から、丸い筒のようなものが飛び出していた。
「……」
そういえばもう、そんな時期なのか……。いや、あそこは少し早かったのだったか。
もう、何年も前の記憶だから、私のはあてにならない。妹に聞けばわかるかもしれないが。
「……」
彼らはこの後、どこに向かうのだろう。
輝かしい未来に胸を弾ませ。
これからの想像をたくさんして。
「……」
キラキラと眩しい彼ら。
楽しそうな彼らを見ていると、時の流れに逆行してあの頃をやり直したくなってしまう。
それができれば、きっと今、私はこんな風にはなっていないだろうに。
「……」
あの頃にあった色々は、今でも私の中に深い爪跡として残ってしまっていて。
治せるものでもないし、忘れられるものもでもない。
爪跡は、今でも浮き出て、かさぶたがはがれる。
「……」
楽しかった思い出だって、確かにあるはずなんだけど。
そういうものに限って、使い捨てカメラのフィルムのように簡単に色あせていく。
朧げになっていって、嫌なものだけが、現像写真として残る。
「……」
苦い記憶をもっていない人なんて、そうそう居ないだろうけど。
それを、どう感じるか、それを抱えきれるか。そんなものは人それぞれでしかない。
それを比較すべきではないし、羨むものでもない。
「……」
それでも、比べてしまうし、羨ましく思ってしまう。
隣の芝生は青く見えるし。人の花は赤いし。
いつでも、他人は羨ましいモノなのだ。
生きて居れば、誰しも他人が妬ましいものだ。
「……」
そうではありながらも、他人との共存は避けられないし。
人は一人では生きていけないらしいので。
それを今、身をもってして実感している。
何もかもうまくいかないけれど。
それでも生きないといけない。
「……」
……こうして、訥々と考えていると、なんだか嫌気がさしてくる。
まぁ、それでも、今こうしてのんびり散歩出来ているのも他人のおかげだし。
生きようとしている証のようなものだし。
「……」
他人に感謝までは出来ないが。
うん。
妹に感謝ぐらいはしなくてはな。
お題:爪跡・使い捨てカメラ・制服