『オオカミとプレスマンを持ったおばあさん』
おなかをすかせたオオカミが、獲物を探して歩いていました。もう、いい歳になりまして、そんなに狩りがうまくいかないのです。小さくて、足が遅い獲物でないと、捕まえることができません。ウサギなんかは、近ごろ、わざと目の前を走り過ぎたりして、挑発されるくらいです。
おばあさんが赤ん坊を抱いていました。おばあさんは、食べ切れません。しかも、肉が硬そうです。でも、赤ん坊はおいしそうです。おばあさんが赤ん坊を置いてどこかへ行ってくれないかなと思って、オオカミは、おばあさんに見つからないように気をつけて、幸運を待ちました。
赤ん坊は随分泣いていました。おばあさんが頑張ってあやすのですが、全く泣き止もうとしません。おばあさんは閉口して、そんなに泣くとオオカミのえじきにするよ、と、言うと、赤ん坊をにらみました。赤ん坊は、さすがに、そんな脅し文句では、おとなしくなりませんでした。おばあさんは、赤ん坊を抱いて、家に入っていきました。
オオカミは喜びました。待て、の格好をして、家の前でしばらく待ちました。
しばらく待ちましたが、何事も起きません。赤ん坊の泣き声も聞こえません。
あ、いや、おばあさんが家から出てきました。さっきまでの赤ん坊と同じ赤ん坊とは思えないほど御機嫌でした。おばあさんも御機嫌でした。おばあさんは言いました。何てかわいい子だろう、お前がオオカミに襲われそうになったら、おばあちゃんがやっつけてやるからね。そう、このプレスマンでぶすっと。
オオカミは、人間の矛盾した発言に首をかしげながら、空腹を満たすために川に向かったのでした。
教訓:オオカミは魚を捕るのが上手なのかと思ってはいけない。水を飲むだけである。