第5物語 地獄と化したヴァラルフ王国
"選ばれた創造者は、築いた文明を納める。"
千夜とヨリィーの2人は、ヴァラルフ王国の入口であるアーチにとたどり着いたものの……肝心の街がないという自体に困惑している。
ただ、ヨリィーは心当たりがあるようで千夜に提案する。
「千夜、アーチを調べてみなさい。もしかしたら何かあるかも……」
「調べてみる! 」
特に疑うこともせず、ヨリィーに言われた通りアーチを調べてみる。
改めて見ると、整備されていないのかところどころさびているのがわかる。
千夜が調べている間、ヨリィーは険しい表情をしてなにか考え事をしている。
「(おかしい、確実に何かおかしい。ウチは何故こんなことが分かる?前にここに来たことがあったかしら。気のせい……よね。)」
「よーちゃん! なにか見つけたよ! 書いてある! ……よーちゃん? 」
「……?あぁ、ごめんなさいね。引っかかることがあって考えてたの。それより何が書いてあったのかしら? 」
「えっとねー」
千夜は書いてあるものを読み上げる。
削られたように書いてあるその文字は、日本語で書いてあった。
"創造者へ。△、〇、□をそれぞれひとつずつ使って別の形を作りなさい"
「って書いてあったよ! 力を使うのかな……? 」
「そうだと思うわ。試してみたらいいと思うわよ」
「わかった! "△〇□それぞれひとつずつ使い、〇を顔に3角を口に、□を目に!これで考える顔をつくる!"」
そう言って唱えたが何も反応は無い。
周りの風景なども変化はない。
「……どうしてその発想になるのよ……。ひとつずつなんだから複雑な顔はできないわよ……」
「それなら……! "先の形を使い!△はこんにゃくに、□ははんぺんに、〇は卵にしておでんをつくる! "」
「食べ物……」
ヨリィーが呆れかけてる時、確かに空間におでんの形がでてきた。
立体ではないため、食べられない。
でも、作った瞬間……
「おでんっ!! ボクのおでん! ふべぁっ! 」
どこからか声が聞こえてきたかと思うと、空から空中に描かれたようなおでんに飛びつく。
しかし、本物では無いために体をすり抜けて行き地面に腹部からぶつかる。
「えっええっと……だっ、大丈夫……?」
「何が起きたのかウチ理解できないけど、とりあえず死んでは無いのはわかるわ」
千夜が、空から落ちてきた人物の元に駆け寄り手を差し出す。
服装を見れば、どこか自分と雰囲気が似ている現代のような服を着ている。
ミニスカートを履いていて、上半身は真ん中に止まったボタンの周りにフリルを身につけている。
色合いは黒と青がメインになっていて、1部水色の細かい装飾が施されている。
髪型は、片側だけ三つ編みで結んでいる黒髪の女性のように見える。
「ううっ、大丈夫です。ありがとうございます」
自分が起き上がる為に手を差し出してくれた千夜に感謝をしつつ、その手を取って感謝の言葉を告げる。
「えへへ、おでんが好きなんだね」
「まぁはい……。っとと、貴女方は? 我が国になんの用でしょうか」
初めて声を出したそのものの声は、どこか男性のような声を持っている。
しかし、容姿や体つきが女性的でどっちの性別なのかが判断つかない。
いわゆる性別不明というものなのだろう。
「あたし達は、この世界のことを聞こうと思って……山からここまできた! あっあたしは狭山千夜っ! よろしくね! 」
「ヨリィー。ウチは千夜の導き手よ」
「名乗っていただけたのならボクも。ボクの名前はアルヒェ・ハイリヒ。ヴァラルフ王国の騎士団長です。よろしくお願いいたします」
どこか宇宙を思わせるような綺麗な装飾の服をたなびかせながら、丁寧に挨拶をする。
「それで、この世界のこと……ですか。貴女方のような創造者様が、ヨリィーさんのような方を連れて同じことを過去に聞きに来たことがありますが、そういうことなら実際に見てもらった方が早いですね。いらしてくださいな」
アルヒェが2人に対して手招きをし、アーチの先にきてと促す。
「あの人が突然出てきたのだから、ほんとにここに街があるのは間違いないみたい。いこ! よーちゃん」
「……わかったわ」
アーチの先を2人がくぐれば一瞬空間が歪み、次の瞬間にはどこかの建物の広場にいた。
きっとここがヴァラルフ王国なのだろうが……、そう呼ぶにはあまりに悲惨だった。
「っ! うっ、ごっ、ごめんなさい……」
「……これは、なかなか……」
ふたりが目にしたのは、腐食臭漂うあちこちに死体が転がったまさに地獄とも言える空間だった。
鎧のようなものを纏った兵士や国民と思われるものたち。
並びに女性子供関係なく皆殺しにあったかのように血まみれで倒れていることが分かる。
「……口で説明するのも辛い話ですが、簡単に言うとこの状況を作り出したのは国王陛下です。貪欲な考えをみせなければこんなことには……すいません、少しだけ取り乱しました」
騎士として、王に忠誠を誓い守り抜いた我が国が……王の考えひとつで壊滅したという話を簡易的に説明された。
とうぜんアルヒェは怒りを露わにしていたが、押さえ込んだ。
「……残酷というか、レイヴェン諸国も酷いことをするわね」
「酷いなんてもんじゃないです。もうなんと表現するのがいいか分からないくらいです。怒りを通り越して笑いが出るほどですから……」
「そんな……」
この惨状を見て嘔吐した千夜が復帰し、話を聞いて表情を曇らせた。
どれだけ戦おうと、こうなってしまうということなのだろうか?それだけ創造者の存在は愚かなのだろうか?色々考えながら千夜は話を聞いて複雑に思っていた。
これは遊びじゃなくて、ほんとに命をかけた戦いなんだ……そう思いながら……。
名前:狭山千夜
2つ名:創造者
基礎能力:真言ノ刻
強み:知識さえあれば、地の文を使用して創造・改ざんが可能。
弱み:使用者の知識が壊滅的だと意味をなさない。仮に知識があっても世界の都合のいいように"添削"される。
仲間:ヨリィー・ディメンション
仲間の愛称:よーちゃん