第48物語 白紙に染み付いた黒インク
「やれやれ、あたしゃ王の器は疲れたよ」
「何言ってるんですか! プルミエさんが王様辞めたらこの国は混乱しますよ!」
「……まーたグズり出した。もはやただの愚痴ですらないわね……」
プルミエ一行は、未だ平和とは呼べないこの世界の改善の為に、自国の一室で会議をしていた。
しかし、その会議も進展虚しく中断した。
なぜ進まないかと言われれば……プルミエが全くリーダーシップとして機能しないことである。
「ヨリィーが意地悪いったー! ここまで建て直すのにどんだけ苦労したか!」
「はいはい、よく頑張った」
「絶対心込めてないでしょそれ!」
ヨリィーらがいがみ合うなか、すっかり見慣れた様子で部屋の隅に置かれたキッチンに移動し、しれっとおでんを作っているアルヒェがいる。
彼女のたっての希望でどの部屋にも必ずひとつはキッチンがある謎の城と化してしまったが、かなりお気に召しているようだ。
「ボク思うんですよ。白紙に落ちて染み付いた黒インクって、すぐ侵食して使い物にならなくなるじゃないですか」
「へ?」
「なによ急に」
アルヒェは唐突に口を開き、おでんを作る手を止めぬまま背中で語る。
「例えばですよ? このおでんの鍋の中は様々な具材がありますよね。卵にお肉にこんにゃくに……。でもここにカラシをひとつまみでも入れたら、人によっては辛くて食べられなくなりますよね」
「何が言いたいのよ? 」
ヨリィーはただただ疑問が増幅していた。
まるで、無い頭を絞って無理やり言葉にしたような意味不明な例えと言動に困惑すら見せていた。
「連携がより大事になると思うんですこれから。各々が勝手に動いたりすれば、それがきっかけで台無しになってしまう。あっ、まだかろうじて機能している他国との連携って意味も含みますからね?! 外交は大事です!」
ヨリィーはすっごく大きなため息を吐きながら、呆れていた。
何をそんなに当たり前のことを改まって話すのか、というか理解に苦しむ例えで口にしたのか……。
おでんが食べたいだけだろとツッコミたくなったヨリィーだが、本人は至って真面目そうなのでやめてあげた。
「連携もそうだけれど、黒化現象の解決やその他諸々の解決すらままならない状態で、どうやって……」
「あたし、いい案があるよ!」
さっきまでグズってたプルミエが重い腰を上げるようにして、口を開いた。
「期待はしないけど、聞くだけ聞くわ」
「ひどい! っとと、案はねーー」
____各国と同盟を組み、軍事演習を経て連携体制を強める!……なんてどうかな?
このやり方は、あくまで現実での話。
どちらかと言えばアメリカがやりそうなことである。
けれど、大した知識も何も無いプルミエなりに絞った案であった。
「同盟はともかくとして……軍事演習ねぇ……」
っと、話してる間に部屋の外で爆発音が鳴り響いた。
「大変です! 黒い何かが我らの国を攻撃しています!」
城内にいるアルヒェの団員が、現在の状況を報告しに来ていた。
鎧すら身にまとわず急いで知らせに来たのだろう。
「わかりました! お二人共! 早速黒インクの要因が現れたようです! くれぐれも失敗せぬよう!」
「えぇ、ある意味予定調和って感じで恐ろしいわ」
「こらヨリィー! 狙ってやったみたいな怖いこと言わないの!」
あいも変わらずゴタゴタなプルミエ一行、部屋を飛び出しすぐに国内の広場に向かった。
道中パニックになり逃げ惑う民間人達を避難所に誘導したり、身動きが取れない者を率先して助けに回ったり、助からなかったものを後続の団員に弔いのための葬儀場に送ったりなど手配しようやくたどり着いた。
そこに居たのは……
「ようやくでてきたなぁ! プルミエ! 我がリピートを退屈させるなんて、どうかしてるんじゃない?」
すっかり変わり果ててしまったリピート本人だった。
その容姿たるや、悪魔なのかドラゴンなのかなんなのか分からない程だ。
「あなた、キャラ変わったね……。すごく黒くなってるし……」
「そこ心配してる場合?! これは黒化現象よ! でもリピートがなぜ……?」
「……飲まされたのかもしれません。とにかく、話してる暇はありません。対抗しましょう!」
3人は、己が持つ武器を鞘から抜き、目の前のリピートに斬りかかる。
プルミエは正面から斬りかかり、アルヒェとヨリィーは側面から別れて斬りかかる。
……しかし
「無駄だよぅ! 」
ガキィィ! と3人の刃はリピートの変異した皮膚部位によって弾かれてしまった。
特に抵抗を見せた訳でもないのに。
「忘れてました、リピートは元が強いのを。改めて言いますが、リピートは名前の通り、何度も繰り返してくる強敵です。その円環を、終わらせましょう! ボク達で!」
アルヒェは弾かれてなお受身を取り一旦後ろに下がった。
ヨリィーやプルミエも時を同じくして後ろに下がったが、こちらは判断が遅かった。
__複製印刷!
ヨリィーは咄嗟に辛うじて剣で受け流したから比較的軽傷で済んだものの、2人は背後に出てきたリピートの複製体により胸部から腹部にかけて重い斬撃を放たれた。
これに対して対抗できなかったのがプルミエだった。
「が……ぁ」
大量に血を流し、膝を付く力もなくそのまま仰向けに倒れてしまった。
「プルミエっ!!」
ヨリィーの声は震えた。
よもや物語の主人公がこうもあっさりやられるなんておかしい! そう内心思ったが、前もあったような気がしないでもない……。
「怠惰が招いたミスだよもう1人のあたし。これじゃあ残基:0101と何ら変わらないね? あっちは一矢報いたけど、102番目のあなたは大したことないのね? 世界の立て直しからやり直してないからかな?」
101巡目と違うのは……既にある程度は復興を重ねていたこと。
まだまだ改善点があるとはいえ、最初の頃に比べたら平和な方だった。
そんな状態からのスタートだったからか、平和ボケしたのではないかとリピートは問いつめる。
「それとアルヒェ、あなたは相変わらずフラグを建てるのが上手いのね? 騎士団時代の時もそうだった。勝ち戦だからと思い込んで攻め立てて、でもその油断のせいで壊滅した。忘れたの?」
「!!ボクは……」
アルヒェの構える剣が地面をむく。
力が抜けて、あの日のトラウマを蘇らせてしまって怯えてしまっている。
「あらら、どこに剣先を向けているのかな? 以前は決闘だったから命までは取らなかったけれど、今回はそうもいかないってのに! 」
リピートは、一瞬にしてアルヒェとの距離を詰めて、リピートの攻撃を剣でガードするアルヒェの剣ごと貫通して腹部に1発、めり込むような強烈な拳を叩き込む。
「……!ぐぁっは」
口から数滴の血を吐き、吹き飛ばされ地面に倒れる。
「ひとつ、アルヒェは騎士ノ傲慢を使わなかった」
「ひとつ、連携のれの文字もなく各自が思う動きをした」
「ひとつ、"フラグ"を建てた。ヨリィー、もうあなただけが立ってても勝ち目は無い、諦めた方が身のためだよ? もう君たちは、黒インクに侵されかけてる元白紙なのだから」
「くぅ……」
ヨリィーはそれでも刃を向けることを辞めなかった。
倒れたプルミエの前にたち、まるで彼女を守るかのような立ち位置で迎え撃とうとする。
しかし、構える剣は片手であり、もう片方は後ろに手を回していた。
__ヨリィーは"添削"する。無意味だとしても、一時的でも、プルミエは奇跡的に立ち上がる!
「物語添削!!」
その時、どこかで奇跡が起きたような気がした。
名前:狭山千夜
新たな名前:プルミエ・エール
2つ名:創造者リビルド
基礎能力:真言ノ刻リフィクション
強み:知識さえあれば、地の文えいしょうを使用して創造・改ざんが可能。
弱み:使用者の知識が壊滅的だと意味をなさない。仮に知識があっても世界の都合のいいように"添削"される。
応用能力:華癒ノ陣ブロッサムキュア
強み:死亡以外ならあらゆる生命をジャスミンの花の香りで治癒出来てしまう。例え部位が欠損しようと、痛みを伴ってもその痛みすら忘れ失った部位が再生する。
弱み:半径300m圏内でしか効果がなく、怪我人を範囲内に連れていくかその範囲内で怪我をするかしないと発動しない。
既にこの世から魂がはなれた死体は蘇生できない。
また、範囲内なら死んでさえ居なければ敵味方問わないため利敵行為として利用されやすい。
修正能力デバッカー:自動文体マリオネット・シュブリ
説明:デバックモード。デメリット・足枷として身についた。
神のツールと呼ぶにふさわしいこの異能力は、状況に応じてリーズナブルに装備を切り替えたり異能力を自由に操ったりできる、アルヒェと似た能力。
複数のモード変更を行えるが、その全ては自分の意思で発動することは出来ず、システムの判断に左右されるため完全ランダムである。
仲間:ヨリィー・ディメンション
仲間の愛称:よーちゃん
ヨリィーの能力:物語添削リバーストーリー
強み:対象の添削可能範囲を見つけ、それを添削し自分の力として創造・改善出来る。
弱み:サポート特化故に、攻撃用として能力を行使するのは実質不可能。
相手の方が技量を上回れば添削は行えないため能力は使えない。
サポート特化なのに添削元に力を与えれない。
仲間:アルヒェ・ハイリヒ
役職:幻想の方舟/騎士団長
能力:騎士ノ傲慢ナインツプライドニア
強み:自強化+武器変異系異能力。状況に応じて様々な形態に移行できる自強化装甲と、それに対応する為の武器変異を同時に行うだけあって、様々な状況に対して臨機応変に対応出来る万能性に優れている。
弱み:単純な能力相手には強いが、複雑な能力相手には無力で、死を超越することは不可能なため、死に直結する事象に対しては耐性をつけることは出来ない。