第44物語 方舟の役割 後編
「っ、くぅ……デリート、ボクと一緒にいた時間覚えてないのですか……?」
「沢山馬鹿なことしたり、沢山色んな人に迷惑かけたり……」
「化け物になっても、思い出は残るはずですよね……? お願いですから戻ってください! そうでないと、ボクは……」
アルヒェは必死に語りかける。
できることなら倒したくないし、傷つけたくないから。
でも、そんな甘えた言葉が通用しないことがわかると、対応せざるを経なかった。
そしてそのまま、化け物と化したデリートを休ませてあげようと交戦している。
爪なのか触手なのか判断できないくらい不定形な何かで攻撃されているため、アルヒェもかなり苦戦している。
どこから攻撃が来るのかすら判断できないのだ。
「飛翼でも対応に困る程の攻撃性能を持ってるなんて……」
「……仕方ないですね。本気でいきますっ!」
―――形式切替:魔斬!
自身の装備のほとんどを武器に纏わせることで、大太刀から大剣へと変異する。
残った装備といえば、胸当てや腕、下半身と最低限隠す場所は隠している。
先の飛翼よりも機動力や防御面はかなり劣るが、その大ぶりの動作から放たれる魔法攻撃は、大地をもえぐる程の高威力斬撃となるアルヒェにとっての必殺技である。
「こんな、技は使いたく、ありませんでしたが……せめてこれで楽に……」
アルヒェが放った一撃は、確かにデリートにヒットし真っ二つにすることは出来た。
そのまま倒せるかと思ったが、直ぐに元に戻った。
口から軽く吐血しながら放った一撃が無駄となったのだ。
「自己再生……ですか。もう時間切れ、です……。ボクではデリートを……」
―――そうやって諦めるのかい? 騎士のプライドはどこに行ったの?
アルヒェの脳内に、どこからか男性の声が聞こえてくる。
優しい口調のように聞こえるが、アルヒェを叱咤している。
「その声は! ウェリス様……。見て分かりませんか? ボクの攻撃が通らないんです……諦めたって……」
―――なるほど。つまり君は、敵前逃亡をするのかい? 目の前で仲間が殺されそうになってるのを見殺しにするつもりで。
「!! いえ、そのつもりは……」
アルヒェにとっては、騎士団長としてレイヴェン諸国と戦争した事を思い出す言葉だった。
国王陛下の命令とはいえやりたくもない戦いを強いられ何度もその刃に血を吸わせてきた。
その様子はさながら戦場の鬼とも言える振る舞いだった。
だが、同時に死にたくない一心で何度も逃げ、判断を誤り、結局自分以外みんな死なせてしまったことでトラウマになっている。
―――俺は君をそのように育てたつもりはないんだがねぇ……。正直失望したよ。
「まっまってくださいウェリス様! ぼ、ボクが……ボクが間違ってました……。ですが、倒し方が分からないのも事実なんです! 信じてください!」
―――……………。
「ウェリス様………!」
もうその場に居ないウェリスに、捨てられた気がした。
あの方を失望させたのは自分の実力不足のせいだと自分を追い詰める。
その間にも、デリートはゆっくりとにじりよってくる。
「なすすべなし……」
アルヒェは覚悟を決め、両目をつむり自分の死を待つ。
しかし次の瞬間、デリートの攻撃を何者かが受け止めたのを見た。
「やれやれ、我が愛しの弟子は手がかかる」
「ウェリス様!」
なんということか、体は光でおおわれているものの……確かな形を持って、その剣でデリートからの攻撃を受け止めていたのだ。
しかも明らかに彼の方が優勢である。
その場に具現化して現れたからか、その場にいるような声の聞こえ方もしている。
「この化け物はもはや生き物ですらない。ただのバグの塊だ。だけど、対処法はある」
ウェリスは、まるでアルヒェに指導するようにデリートに攻撃を仕掛け続ける。
「再生し切る前に、ひたすら攻撃を続ければいい。細切れにされてなおも再生しようとすることはまず無い」
――――聖光ノ斬撃
ウェリスがデリートに対して、剣を横に向けたあと斬り抜ける。
その瞬間に、何十もの光に包まれた斬撃がデリートを切り刻む。
その攻撃に回数制限がないのかと言わんばかりに何度も何度も同じところを攻撃している。
「ウェリス様の応用能力……。久しぶりに見ました」
「……もうこれで倒したようなもんだ。実際こいつは不死身だし、俺も情けないことにこいつにやられたからな。もっと強いやつだったが……」
「だが、これだけはいっておくぞアルヒェ。騎士たるもの、最後まで希望を捨てるな。例え自分の身を滅ぼすことになっても、お前は幻想の方舟として使命を全うする責務がある。お前が居ないと、この世界は成り立たないんだ」
「……わかってますウェリス様……」
「魂という名の、死んだデータの回収……。はぁ……、俺も知りすぎてしまったんだろうな」
死んだデータを回収し、それを天国という名の没データ領域に置きに行く作業……それが幻想の方舟の役割。
アルヒェ自身もかなり苦痛を伴う仕事で、精神的にも持つか怪しいのだが……使い物にならないデータを処分するのもまた1つの仕事なのである。
「この場所だから干渉できたが、次は干渉できないだろう……。さあ覚醒世界へもどれアルヒェ。仲間が寂しがってるぞ」
「! そうですね……。さようならです、ウェリス様……そして、デリート……」
そのまま目をつむり、意識を戻すようにしていく。
早く戻らないと、ヨリィー達が心配だ。
「……アルヒェ、やけに遅いわね。涙も流してるし」
「何かあったのかな」
アルヒェが意識を戻す間に、席を一時的に外していたプルミエが帰ってきていた。
そして、2人してアルヒェが仕事から帰ってくるのをひたすら待っていた。
「っ……んんっ。ヨリィーさん……お待たせしました。あっプルミエさんおかえりなさいです」
「……あんた仕事先で何があったのよ。いつもより帰ってくるの遅いし涙は流してるし……」
「それに関しては……聞かないでください。色々、あったんです」
「えぇ、そう言うなら聞かないでおくわよ」
「何にしても、無事でよかったわ」
やっと目が覚めたアルヒェに飛びつくようにして傍に寄り添おうとするヨリィーは、なんだかんだ言って仲間思いなのかもしれない。
「あははっ、くすぐったいですよヨリィーさん。くっつきすぎですぅ」
「ほれほれ。なにがあったかはしらないけど、元気がないのはアルヒェらしくないわよ」
そのまま近づいてすぐ、アルヒェの、脇腹をくすぐってやる。
「じゃああたしも!」
「ちょ、ちょっとプルミエさんまで……! あははは! やめてくださいってばぁ」
アルヒェはプルミエが加わっても特別抵抗しようとしない。
それどころか、どこか仲良さげである。
―――仲間か。アルヒェにとっては久しぶりの仲間だからな。大事にしてやれよ。
ウェリスは3人が仲良く賑やかにしている所を空から眺めていた。
そして、そのまま光の粒となって消えていった。
名前:狭山千夜
新たな名前:プルミエ・エール
2つ名:創造者
基礎能力:真言ノ刻
強み:知識さえあれば、地の文を使用して創造・改ざんが可能。
弱み:使用者の知識が壊滅的だと意味をなさない。仮に知識があっても世界の都合のいいように"添削"される。
応用能力:華癒ノ陣
強み:死亡以外ならあらゆる生命をジャスミンの花の香りで治癒出来てしまう。例え部位が欠損しようと、痛みを伴ってもその痛みすら忘れ失った部位が再生する。
弱み:半径300m圏内でしか効果がなく、怪我人を範囲内に連れていくかその範囲内で怪我をするかしないと発動しない。
既にこの世から魂がはなれた死体は蘇生できない。
また、範囲内なら死んでさえ居なければ敵味方問わないため利敵行為として利用されやすい。
修正能力:自動文体
説明:デバックモード。デメリット・足枷として身についた。
神のツールと呼ぶにふさわしいこの異能力は、状況に応じてリーズナブルに装備を切り替えたり異能力を自由に操ったりできる、アルヒェと似た能力。
複数のモード変更を行えるが、その全ては自分の意思で発動することは出来ず、システムの判断に左右されるため完全ランダムである。
仲間:ヨリィー・ディメンション
仲間の愛称:よーちゃん
ヨリィーの能力:物語添削
強み:対象の添削可能範囲を見つけ、それを添削し自分の力として創造・改善出来る。
弱み:サポート特化故に、攻撃用として能力を行使するのは実質不可能。
相手の方が技量を上回れば添削は行えないため能力は使えない。
サポート特化なのに添削元に力を与えれない。
仲間:アルヒェ・ハイリヒ
役職:幻想の方舟/騎士団長
能力:騎士ノ傲慢
強み:自強化+武器変異系異能力。状況に応じて様々な形態に移行できる自強化装甲と、それに対応する為の武器変異を同時に行うだけあって、様々な状況に対して臨機応変に対応出来る万能性に優れている。
弱み:単純な能力相手には強いが、複雑な能力相手には無力で、死を超越することは不可能なため、死に直結する事象に対しては耐性をつけることは出来ない。