第32物語 募る国民の不安
「最近、空の様子が変ねぇ。体も上手く動かないし」
「あら、奥さんもなんですか? ウチの子供もこの頃急に声が掠れてしまって……」
「あまりにも不幸の前触れな気がしていやですわねぇ……」
ある主婦2人と、1人の女性がそれぞれ別の場所で、なにかおかしいこの世界の異変に気づきつつある。
それは人間ではなくエルフやドワーフだから気づいた、という訳ではなく……他のどの種族も皆、感じ方が違うだけで何かおかしいことに気づいているようだ。
あるものは異音が聞こえると口にしたり、あるものはまるで機械のようにカクカクとした動きとしてしか歩くことが出来ないなど、なにかの流行り病にでもかかってしまったのかと心配してしまいそうな程に異様な光景が広がっていた。
「オラはどうなるっべや? 農家の仕事さろくにできんで死ぬのはいやだよ」
訛りの強い1人のゴブリンは、慣れない仕事とはいえ米を育てて収穫する仕事をしていた。
この見るからに都会にしか見えないような、そこら中に高層ビルや近代的なオブジェなどがある場所に、ひっそりと田んぼがあるのだ。
もちろん田んぼだけではなく、畑だってある。
そんなゴブリンは、やせ細った体に電流が走ったかのように、ベッドから起き上がった状態のまま何ひとつとして行動していない。
「あたいらどうしたらいいんだよっ。こんなに国民の声がありすぎたら、陛下もパンクするぜ?」
ここは竜人族が管理・統治する警察署のような場所。
秩序を生み出し、現代で言う六法全書に記載されるような法律をいくつかこの国に適応させていた。
だが警察署でもなお、あまりに沢山陛下へのお気持ち表明の声が多すぎて処理に困っているようだ。
お気持ち表明といっても、怒り心頭な訳ではなく、この事態を何とかしてくれー!と嘆き不安に包まれている国民たちの声が多数なのだ。
「どうするもなにも、私たちが届けるしかない。私たちだって、この異様な自体に不安を感じてるもの」
「そうだな、俺も同感だ」
竜人族達はみな、背中に2枚の翼と1本の尻尾を持つ。
その種族的特徴ですら、異型として目が覚めたら変形してたり、鱗が禿げて気づいたら知らない怪我を負っていたなど奇妙な出来事が頻発して起きているのだ。
これは決して生まれつきの障害として片付かることはできず、そういう出来事は少し時間を置けば気がついたら治ってしまっているのだ。
それは彼らだけではなく、この世界に生きるもの達全てに起きていることなのだ。
調査隊として外部へ探索に向かっていた獣人族が様々な場所に赴き、陛下へと知らせてくれたことで分かったことだった。
「……あたしが、レイヴェン諸国にいってから世界に異変が起きている……? そういえばアルヒェやヨリィーも、この前の交渉からの帰りの時に変だって言ってた気がする」
「国民や国外の生き物や、アルヒェ達が感じてて、あたしだけ感じないこの差はなんなの……? それだけあたしは特別と言いたいのかな……?」
プルミエは、ただ1人王室で考え事をしていた。
アルヒェとヨリィーは、現在王室に届いた国民からの声をきき、プルミエの依頼で国中を見て回っている。
「それに、ある程度時間を置いたら症状は治ってる。発生時期も経緯も何もかもバラバラ……。でも、みんな必ずなにか作業をしている時なんかに起きている。この世界にバグが生じたのかな……? まさか、ゲームじゃあるまいし……」
ここは異世界、アニメや漫画じゃあるまいしと言おうとしたが、考えても見れば自分は転移してここにいることを思い出し、何も言えないなと思った。
だが、それはそれとしてゲームじゃないのだからバグが起きるなんてありえないだろうと思考を切り替えようとしている。
まるでノイズが走ったような異音が聞こえたり、行動が制限されたり、みなが訴えることを1つずつ並べれば確かにバグのような症状にも見えなくは無いが、仮にゲームの世界の中に異世界転移してたとしても、その証拠が何も無い。
「リピート様と初めて会ったあと、ここに帰ってきてから異変が起きていたことが分かった。でもリピート様は、世界に干渉できるような能力の保持者では無いはず……。よってリピート様が原因では無い」
「だとすると、原因はあたし……? いや、あたしだとしてもどうしてそんな……」
まずどうしてこのようなことが起きてるのか、それが理解できなくて動揺している。
なぜならもしここがゲームの世界で、今までシナリオ通りに進んでいたのに自分がここにいることで、それ自体がおかしい事という証明になってしまうからだろう。
自分にとって考えたくもないことだからか、動揺してならない。
「原因を突き止めなきゃ……。仮にあたしが原因だとしても、なんとかして解決しなきゃ……」
世界を立て直すのに必須な過程なのだろうか?それとも偶然起きた出来事なのだろうか?どんなことであれプルミエは、この問題を解決するためにアルヒェ達にひとつ連絡をいれる。
――――アルヒェさん、よーちゃん。あたしは少しの間席を外すよ、あたしのいない間、ホープアイ王国は任せましたよ。
2人の返信を送る際、真言ノ刻で以前しれっと作っていた通信機をつかってメッセージを伝えた。
これで、自分を探しに来ることはとりあえずは無いだろう。
なにか大きな出来事さえ起きなければ、問題ないはず。
そう思いながら、国を飛び出し辺りを探索することにした。
名前:狭山千夜
新たな名前:プルミエ・エール
2つ名:創造者
基礎能力:真言ノ刻
強み:知識さえあれば、地の文を使用して創造・改ざんが可能。
弱み:使用者の知識が壊滅的だと意味をなさない。仮に知識があっても世界の都合のいいように"添削"される。
応用能力:華癒ノ陣
強み:死亡以外ならあらゆる生命をジャスミンの花の香りで治癒出来てしまう。例え部位が欠損しようと、痛みを伴ってもその痛みすら忘れ失った部位が再生する。
弱み:半径300m圏内でしか効果がなく、怪我人を範囲内に連れていくかその範囲内で怪我をするかしないと発動しない。
既にこの世から魂がはなれた死体は蘇生できない。
また、範囲内なら死んでさえ居なければ敵味方問わないため利敵行為として利用されやすい。
仲間:ヨリィー・ディメンション
仲間の愛称:よーちゃん
ヨリィーの能力:物語添削
強み:対象の添削可能範囲を見つけ、それを添削し自分の力として創造・改善出来る。
弱み:サポート特化故に、攻撃用として能力を行使するのは実質不可能。
相手の方が技量を上回れば添削は行えないため能力は使えない。
サポート特化なのに添削元に力を与えれない。
仲間:アルヒェ・ハイリヒ
役職:幻想の方舟/騎士団長
能力:騎士ノ傲慢
強み:自強化+武器変異系異能力。状況に応じて様々な形態に移行できる自強化装甲と、それに対応する為の武器変異を同時に行うだけあって、様々な状況に対して臨機応変に対応出来る万能性に優れている。
弱み:単純な能力相手には強いが、複雑な能力相手には無力で、死を超越することは不可能なため、死に直結する事象に対しては耐性をつけることは出来ない。