第3物語「初歩的、真言ノ刻<リフィクション>」
"選ばれし創造者は、次に秩序を作る"
絶体絶命と呼べる異世界に転移してから数分と経過してない今の時間。
変わらず自身の周りは燃え盛る炎で覆われており、まずはこの炎を消さないことには何も始まらないような状況に、千夜は頭を悩ませていた。
「この炎をまとめて消せないかなあ……。そうだっ! "狭山千夜の目の前で燃え盛る炎は、千夜の目の前にて吐いた息で炎を鎮火する"」
こうすれば簡単に消えてくれるだろうと思ったが、消えるどころか悪化してしまい、余計に燃え広がってしまった。
「はわわっ! だめなのかぁ……」
「……当たり前でしょ……?真言ノ刻は扱うものの知識に無いものは反映されないのだから」
「! そうだった! 」
千夜はヨリィーから聞いた言葉でハッと気付かされ、早速水を生み出そうと試みる。
「やれやれ、バカなのかなんなのか分からないわ……」
「"我が右手に水を生み出し、それを水の塊として生成し目の前の炎を鎮火する!"」
すると、今度は水の塊が生成されとりあえずで目の前の炎は鎮火できた。
とはいえ全体では無いのだが……。
「まぁ、上々じゃないかしら」
「やったぁ! 出来損ないのあたしでもやれば出来るんだっ! 」
「……自信をつけてるとこ申し訳ないけど、他の炎も消さないと丸裸になるわよ? 」
「はっ! そうだった! "千夜のいる山にて燃え盛る炎は、雨雲より生成された雨により鎮火される!"」
今度も上手くいくかなー?と思って考えていると、頭上に雨雲が生成され地の文風の詠唱通り雨で鎮火する。
雨雲自体がそこまで大きくないために、全域を鎮火するのには時間がかかりそうだが、これでようやく動けそうである。
「やったー! 恵みの雨だー!」
「それは農家の人が言うセリフ……まっまぁいいわ。まだ初歩的だけれど、きちんと地の文も使いこなせてるようでなにより」
「地の文? これそんな名前だったんだ……。確かに魔法みたいだもんね! 」
「魔法と言うより異能力に近いものだけれどね……」
通常の魔法と違うところは、魔法陣や魔力を必要としないただ知識があればいいだけの言わばチート能力に近いものである。
ただし、そのチート能力は千夜が手にしたことでチートとして機能していない。
「しかし、転移したてとはいえここまでできるのはある種の才能ね」
「よーちゃんが褒めてくれた! ありがとー! 」
「……出来てもらわないとお先が心配なだけよ」
「……それで、いつ聞こうか悩んでたんだけど……なんでこの世界はこんなにもやばい状況なの? 」
ある程度周りが落ち着き、千夜が作り出した雨雲も止んだことで聞く余裕が生まれたようだ。
お互いにずぶ濡れの服を軽く払いながら、千夜が切り出した。
「端的に言うと、あんたがさっき口にしてた戦争のようなものが起きたと言えばいいかしら。とは言っても、戦争というより他の創造者様達が己の力を行使して世界を作り替え改ざんしすぎた影響で、世界が暴走してこうなった……と言えばいいかしらね」
「もちろん、今回は国家間での戦争も絡んでる。ヴァラルフ王国とレイヴェン諸国の間での戦争ね。互いの長にはそれぞれ創造者様が一人いて、仲自体は悪くなかったのだけれど、ヴァラルフ王国の長が欲に負けてレイヴェン諸国の物資を根こそぎ奪おうと喧嘩を売ったことがきっかけ」
と長々と説明してくれた。
要するに、ヴァラルフ王国の国王陛下がレイヴェン諸国の物資を奪うために戦争を持ちかけて負けたとの事らしい。
でも負けを認めることはせず、降伏もせずに未だに戦いを続けたからこそこの有様なのだそう。
「……どこの世界もお偉いさんは、考えてることが似てるね……」
「己のことしか考えてない愚かな王様ってだけよ。ロマンに走った結果堅実に戦う国に負けるのなんて見え透いてるのにね。その結果貴重な兵士や兵器までも撮られ、肝心の真言ノ刻も我が身を守ることに使ったせいで引きこもり状態のようなものね」
基礎能力と言ってたのを思い出したが、そんな国があるのなら1度詳しく話を聞いてみるのはありかもと思った千夜は…
「生き残ってる人がいるか分からないけど、ヴァラルフ王国に行ってみない? なにか情報のひとつは貰えるかも知れない」
「まあ悪くない考えね。ここからは少し時間がかかるけど……」
「よーちゃんがいるから大丈夫だよーだって案内人でしょ?」
「……ウチは案内人じゃなくて導き手! まぁどっちも間違ってはないけれど…」
とどこか諦めたような口ぶりをし、目的地をヴァラルフ王国へと変え歩みを始める。
以前のように、こちらの方に現在の状態を掲示しておきます!
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名前:狭山千夜
2つ名:創造者
基礎能力:真言ノ刻
強み:知識さえあれば、地の文を使用して創造・改ざんが可能。
弱み:使用者の知識が壊滅的だと意味をなさない。仮に知識があっても世界の都合のいいように"添削"される。
仲間:ヨリィー・ディメンション
仲間の愛称:よーちゃん